ハルシネーション

その年、ぼく、マックス、フィル、デレク、マルコムの五人はアメリカ・オーライト州、ホーキンスタウンのハイブリッジ中学校を卒業し、“五人仲良くそろって”地元のブラウンズベイ高校へ入学することとなった。別にぼくたち全員はそのまま持ち上がりで入学したわけじゃない。それぞれが一生懸命に受験勉強をした結果、そういう形になっただけだ。他の中学の友人たちも少しはいたが、ほとんどがちりぢりになった。ぼくたち、隠れ家のぼくたちだけが“いい感じに”一緒になっただけだ。

だからきっとおおいに楽しくなるだろうって思っていたけど、今こうして入学式に参加していると笑ってしまうくらい退屈だ。隣では赤毛のマックスが校長・ミスター・ハートウェルの話に大あくびをしているところだった。ミスター・ハートウェルはぼくたち高校生にうってつけの映画<ブルースカイ・プロミス>がいかに青年期の教訓になるかについて熱弁を振るっている。マックスはもう一つ大あくびをして、そういえばジャック、とぼくに声をかけてきた。

お前、バーニーズの新作バーガー食ったか?とマックス、なんだって、新作出たのかよ?とぼく、ああ、香ばしいベーコンバーガーだぜ、とマックス、またバーニーズの?と、マックスの向こうに立っていた瓶底眼鏡のフィルが顔を覗かせる。おいマックス、ショートウッド・アベニューのジョーイズ・ピザの方がマシだろ、とフィル、呆れ顔で、お前の趣味は聞いてないぜフィル、とマックス。

反対からぼくを小突いたデレクがひょっこり顔を出す。お前はパソコン見すぎて舌が馬鹿になってんのさフィル、と髪をかきあげながら牽制するデレク、うるせぇ、とフィル、そういやバーニーズのミルクセーキ半額になってたぜ、とデレク、なんだって?じゃあ行かなきゃじゃないか、とぼく。まったく、とぼくの肩越しにマルコムが大きなため息をつく。おまえらバーニーズに夢中すぎ、食い物なら俺、ビッグ・ジョー、ジョセフ・マルコムにお任せだろ、と鼻息荒いマルコム、餅は餅屋、飯はデブにってか?とデレク、最近は何がおすすめなんだ?とマックス、ブルーベリーズのドーナツは格別だぜ、とマルコム、ああオークストリートの?そうだ、最近できた店だよな。ぼくらはひそひそ声で話す。

ひゅう、とデレクの口笛が割って入る。おいみんな、あれ見ろよ、どこ?あそこだよ、この列の先の子、あの子?そう、その子。最高にクールじゃねぇか?とデレク。みんな一斉に身体を右に傾ける。黙るとともに、<ブルースカイ・プロミス>の燃え盛る大志を持てというセリフを繰り返すミスター・ハートウェルの声が耳に飛び込んでくる。背伸びするマックスとかがむフィル、間から顔を出したぼくは驚いた。

デレクの口笛の先にあったのは、ぼくたち同様に退屈そうな顔で爪をいじっている黒髪の女の子の横顔。こんな田舎に似つかわしくないな、とフィル、隣の中学にもあんな子いたっけ?とマックス、どこかから越してきたんだろうな、とマルコム。ぼくらはしばらくの間、彼女の横顔を眺めながらやいやいと言い合っていたのだが、ひゅうい、とぼくの肩に手をかけたデレクが再び口笛を鳴らすと、彼女は顔を上げてこちらを見てきたのだった。にやつくデレク、そっぽを向くフィル。目が合ったままのぼくが瞬きをすると、彼女は目を丸くしてから笑った。なんだ?ぼくにか?振り返ってぼくを見るマックス、とその瞬間、アリーナのみんながガタガタと席に座りだし、ぼくたちも慌てて乱暴に腰掛けた。

壇上には満足げな表情のミスター・ハートウェルがいて、式典は終わりに差し掛かっていた。ぼくたちは今更ながら良い子に振る舞い、最後に拍手をするときにデレクがマルコムにちょっかいを出した以外は、何事もなく入学式が終了した。

すると、みんながだらだらと退場の隊列を組んでいる最中に、例のあの子がこっちにやってきている!彼女は利口なカラスのようにさっとぼくらの間に入り込んで、ハイ、と声をかけてきた。ハイ、と緊張気味のぼく、君どうしたの?どうしたもこうしたも驚いたわよ、と彼女、ケビン・ジョンソン・ジュニアよろしくハンズアップをして彼女を入れてあげるマックス。目を見つめるデレクをかわした彼女は、どうやらぼくに用があるみたいだった。ジャック、まさか高校が一緒だなんて!と彼女、どういうことだよ?とフィル、あ!君はお隣の、とぼく、そうよ、と目を細めて笑う彼女。そう、そうだ、ぼくはバーニーズの新作バーガーよりはるかにビッグニュースを持っていたことを思い出した。

実は彼女に会うのは初めてじゃないんだ、とぼく、なんだって?どういうことだい?とマルコム、隠れ家の俺たちに隠し事かよ?とデレク、いや違うんだ、何が?彼女はこの春ぼくの家の隣に越してきたニッキー、ニッキー・ケンダルなんだよ、とぼく、ジャックの家の?とマックス、おいおい今更すぎるだろ、とデレク、瓶底眼鏡を上げ直すフィル、頭をかくマルコム。

ぼくたちにはお構いなくニッキーはぼくに話し続ける。実はパパから聞いたのよ、何を?隠れ家の話、とニッキー、いや、あれは、ただの子供の遊び場みたいなもんでさ、とぼく、一斉に小突くデレクとフィル、でも家の庭でツリーハウスを作って秘密基地にしてるなんて最高にクールじゃない?!とニッキー、そうなんだよ結構本格的でさ、とフィル、遮るように、ブラック・シールズの曲とかガンガンにかけてみんなで歌うんだ、とデレク、まさにカウチポテトさ、とマルコム、素敵!と再びニッキー。

退場の列は気がつくとぼくらの教室に着いていて、奇跡的にもぼくらは全員、もちろんニッキーも、同じクラスだった。席に着いて担任を待つ間、斜め前に座るニッキーを見ていると、彼女、振り返ってウィンクをしてから、ねぇ早速なんだけど、今日あなたたちの隠れ家、招待してくれない?とささやいてきた。ぼくが、もちろん!と言うと、後ろの席のデレクが、楽しくなりそうだな、と言い、肘でぼくの背中をつついた。はじまりの鐘の音が鳴る。

プロンプト

あなたは掌編小説家です。
アメリカ小説風の物語とアメリカ小説の翻訳風の文体が売りです。
そんなあなたの新作掌編小説を以下のテーマ、舞台、登場人物、プロットで、条件を満たして書いてください。

<テーマ>
退屈な日々に新しい風が吹く予感がする。

<舞台>
アメリカのとある田舎町の高校の入学式。

<登場人物>
①主人公:華奢だがバスケが好きな白人の男の子。日々に退屈していてワクワクしたい。家の庭にツリーハウスの「隠れ家」を作った本人。
②友人A:中学からの友達。主人公のことをいつも気にかけてくれる優しい赤毛の好青年。「隠れ家」に集う仲間の一人。
③友人B:中学からの友達。瓶底眼鏡のパソコンオタク。皮肉屋。「隠れ家」に集う仲間の一人。
④友人C:中学からの友達。イケメンの不良。憎まれ口を叩くが根は良いやつ。「隠れ家」に集う仲間の一人。よく「隠れ家」にエ●本を持ってくる。
⑤友人D:中学からの友達。天然パーマの気のいいデブ。「隠れ家」に集う仲間の一人。食べ物には詳しい。
⑥女の子:主人公の隣に引っ越した女の子。チャーミングで積極的な子。「隠れ家」に行ってみたいと言い出す。
⑦校長:入学した高校の校長。話が長い。

<プロット>
退屈な校長の長話の間、中学からの友人たちとふざけていた主人公。
しかし、友人の一人が「見ろよ、あの子。最高にクールじゃねぇか?」と主人公に言う。
その友人が指す方向を見ると、⑥女の子の姿が。
どこかで見た覚えがある気がする主人公。
入学式が終わると、その女の子が主人公に近づいてくる。
そこで主人公は、実はその女の子が隣の家に引っ越してきた子だと気付いた。
女の子に隠れ家の話をすると興味を持ち、「行ってみたい」と言い出す。
積極的な女の子にたじたじになりながらも、主人公は友人たち四人と一緒にいつも遊んでいる「隠れ家」に彼女を招待する。

<条件>
・①〜⑦の人物名にはそれぞれアメリカ人っぽい氏名をつけること
・町名、学校名などの固有名詞はすべて架空のアメリカっぽいものにすること
・友人同士の個人的な会話感を出すためにセリフの中になるべく多く固有名詞を登場させること(例:店名、通りの名前etc)
・状況描写2割、セリフ8割で構成すること
・文章は日本語で書くこと
・英語の固有名詞はカタカナで書くこと
・2,000字以上で書くこと
・セリフで「」(カッコ)は使わないこと

解説

読了後(古賀さんは講評後)、お読みください。
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