私は“価値観”に囚われている

いま、「こんなに自分と向き合うの初めてでは…？」と思うくらい、自分の人生を振り返っている。幼少期から現在までの記憶に残っているエピソードや、自分に影響を与えたと思われる出来事やその時に感じた気持ちをとにかく掘り返して記録している。

その作業を繰り返すうちに、やたら「価値観」というワードが出てくるのに気がついた。

私が「価値観」に敏感になったのは、おそらく親との関係が影響している。私の母は、「自分の価値観が絶対」な人だった。

「子どもがドラマを見ているなんておかしい。普通は年相応のアニメを見る」
「でも大人になってアニメを見るのはおかしい。恥ずかしい」
「子どもがムダ毛処理やメイクをするなんて下品だ。子どもらしくない」
「文学部に行っても仕事がないから別のところに行ったほうがいい」
「親になっても派手な格好、髪色をするなんておかしい。子どもが可哀想」
「子どもは2人以上じゃないと可哀想」

などなど。

小さいときから、とにかく自分の価値観が正論だという人だった。それに従わないと、機嫌が悪くなり1週間ほど口を聞いてくれない。こんな親との関係から、私は「価値観」に敏感になったんだと思う。

私と母の価値観が合わなかったように、大なり小なり、価値観がぴったり合う人なんてこの世にはいないと思っている。そして、価値観はその人を形成するものだから、人の価値観を変えることはできないし、どんな価値観でも否定してはいけないとも思っている。

極端な話、法に触れるようなことでも、価値観である限りは（実行しない限りは）その価値観を責めたり否定したりするべきでないと思っている。だって、その考えはその人の中から自然と湧き上がってきたもので、「悪いことだから考えたらだめだ」と思ってもきっと止められるものじゃないから。自分の中から自然と湧き上がってくる感情を否定されたら、「そんな考えを持っているなんて人としておかしい」と言われたら、絶望してしまうと思うから（少なくとも私はそう）。

価値観って、絶対不可侵なものだと思っている。世の中には法律、マナー、ルール、そしてその場の“空気”など、守らなければいけないものがたくさんある。外で100％自分を出して生きている人はいないんじゃないかと思う。でも、頭の中は自由だ。ルールを破ろうが、法を犯そうが、人を傷つけようが。頭の中だけは、自分の“価値観”に従って自由にできる。でも、その価値観を否定されたら？自分の頭の中の思考まで制限されたら？

そう考えると、私は自分の価値観を誰かに否定されたくないし、人のどんな価値観も否定したくない。そして、自分の力で誰かの価値観を変えることもできないと思っている。だって、誰かの価値観を変えるって、その人の価値観を少なくとも「変えなければいけないもの」と思っていることだと思うから。人の価値観を変えようだなんて、私は自分の価値観にどんだけ絶対的な自信を持っているんだろう。私は自分をどんだけ崇高な人間だと思っているんだろう。それこそ私があんなに苦手だった母と一緒じゃないか、と思ってしまう。（これはあくまで私の“価値観”の話なので、理解できず不快な思いをした人がいたらごめんなさい）

多分、こんな“価値観”を持っているから、私は極端に「人は人。自分は自分」って考えが強いんだと思う。知らない人も、友だちも、家族も。自分以外の人は自分と違って当たり前。だから、私が理解できない考えや行動をしても、それはあくまで私が理解できないだけ。その人がそれでいい、それがいいならいいんじゃない？と思うようにしている。（時々どうしてもそう思えないときは、物理的に距離を取るようにしている）

でも、こんな考えがベースにあると「何を考えているかわからない」「なんで自分の意見を言わないの」と言われることもある。というか、しょっちゅう言われる。

だって、自分の都合で人を動かしてはいけない、できないと思っているから。何かを変えたいなら、人を動かすんじゃなくて自分が動かないといけないと思っているから。なんか言葉にするとかっこよく聞こえてしまうけど、実際は全然かっこいいことではなくて、根本に「私の価値観を犯されたくない。だからあなたの価値観を否定しない代わりに、私のことをも否定しないで」って思いがあるんだと思う。そして、否定されたくないから自分の考えも言わないし、表に出さない。大事なことほど人に話さない。

多分、私の根本の価値観は変わらない。でも、この「人を頼れない」「自分の考えを表に出さない」は私が変わっていかなきゃいけない部分だなと思っている。

いろいろつらつら書いたけど、振り返りを通じて私は「価値観」というキーワードに囚われて生きてきたんだな、と気づけた。だから、いろんな価値観に触れる取材ライターの仕事にやりがいを感じているのかもな。いろんな価値観の常識に囚われて苦しんでいる人に、「こんな価値観があってもいいんだよ」って伝えたいし、私自身もいろんな価値観に触れて救われたいんだろうな。

（ここに記載したこともあくまで“私の価値観”なので、理解できない、納得行かない人ももちろんいると思います。こういう価値観の人もいるんだな〜めんどくさそう〜くらいに思ってもらえると幸いです）