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書くことは、思い出からの卒業。

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#ショートエッセイ

「足りない」からの卒業

「結局さ、出会えてないのに出会った気になってるだけなんだよ」 彼は口角を上げたまま絶望を言葉にし、たばこの煙を愛しく吐き出す。じゃあ出会いってなに?定義を教えて。難しいなあ。だって、認識のすり合わせしなきゃ。 --- ずっと、何が足りてないかを考えていた。なにかができるようになっても、じゃあ次、じゃあ次、って。自分にとって現状維持は停滞だから。変化し続けることこそ邁進、まだまだやれる、だって好きだから。手を動かすことが好きだ、頭を動かすことも、例えば仕事をすることも。プ

タラヨウの葉

彼が指さして「気になる」と言った中華料理店の不思議な佇まいだけが、今でもずっと脳裏にある。思い出せることなんて、ほとんどない。ただ、笑顔とともに消えないのはあの日の風景だ。 どの地域にも1つはある、独特の雰囲気をもった中華料理店。見覚えがあって、でも不自然なそれにもちろん心を奪われる。通るときに息を多めに吸ってみたり、横目でちょっぴり覗いてみたり。 あの頃はまだ、都会での生活に慣れてなくて、ふるさとからすこしずつ北へ東へ。だからわたしは右側がいつまでも好きで、なにかの左