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宛名のない手紙

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#ショートショート

証明された猫

「話したら受け入れてしまうみたいで、言えなかった」 すべての景色が、最後に見えた。自分の意思に抗って移動しなければならない事実を、いつまでたっても受け入れられない。ぜんぶ自分で決められるはずなのに、ぜんぜん抗えない。 受け入れることは、もう一つの世界を殺してしまうことに等しいのかもしれない。でも受け入れるしかないの、と話すあの子の目がどうか、死んでいないようにと願うことしかできなかった。 上京を選んだ瞬間にも、帰ることを選んだ瞬間にも、わたしだってなにかを殺しているはず

フィクションの境目

「今」が一番な理由なんて明確だ。経験と知識がいちばんあって、だからこそまだ知らないことが世の中にたくさんあること、それを知れる可能性があることを人生でいちばんわかっている瞬間だから。 好奇心への執着が導いた、輪が少しずつ大きくなりつつある世界は悪くない。 もしかして壁の上にもなにかあったの? でも、そもそも見下ろすことを平気でしてしまえるようになりたくないからと。賢さによる損があるなんて、誰も教えてくれなかったし。それ以上やさしくなろうとしないで、壊れちゃうからと引き止め