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#海外文学

”現実”とは一体なんなのか 『モレルの発明』

アルゼンチンの作家ビオイ・カサーレスの『モレルの発明』は、町山智浩さんが『去年マリエンバードで』の映画解説で紹介していて知った小説です。 『去年マリエンバードで』は我が人生でその美しさに最も感銘を受けた作品であり、しかも世界で1番難解な映画のひとつとも謳われています。そんな作品に影響を与えた小説が『モレルの発明』なのだとか。これは読まないわけには行きません。 一読目では、どうしてこの小説が『去年マリエンバードで』に繋がるのかが分かりませんでした。どちらかというと映画『イン

哀しいめぐりあわせ 『ハツカネズミと人間』

ジョン・スタインベックの作品の中でも一際短い、わずか150ページほどの作品です。初スタインベック。これなら読めるだろうと手に取りました。 初めはいかにも"翻訳"されている文章に硬さを感じましたが、次第に登場人物それぞれの人柄や顔形が浮かび上がってきて、愛着が湧いてきます。 小柄で鋭く口は悪いけれど面倒見の良いジョージ。純粋なのだけど頭の回転のひどく悪い大男のラリー。昔のアメリカ映画に出てきそうな短気でガサツなカーリー。片腕の老人キャンディと老犬。馬に蹴られたせいで背中の曲

『文盲』生き抜くために綴る外国語

『文盲』は、世界的ベストセラー小説『悪童日記』の著者でハンガリー人作家のアゴタ・クリストフの自伝。母国語ではなく、亡命先で学ばざるを得なかったフランス語で執筆していることで知られています。 アゴタ・クリストフは21歳のとき祖国のハンガリーからスイスへ亡命し、難民として暮らすこととなります。スイスへ逃れついた時、フランス語は彼女にとって未知の言語でした。彼女は成人してからフランス語を学び、フランス語で書き、そして『悪童日記』はフランスの出版社から出版され、ベストセラー作家とな