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読書記録

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#日本文学

愛と欲 谷崎潤一郎『卍』

人妻園子と年下の学友光子の恋愛を中心に、グルグルと渦巻いてゆく人間模様を描いた谷崎潤一郎の作品です。物語は筆者の元へやってきた園子の告白から始まり、全編を通して園子の言葉で語られます。 初めはただの痴話喧嘩の話かと微笑ましく読んでいたのですが、さすが谷崎潤一郎。ラストの数十ページでどんどん狂気が増していきます。 人間を支配したい欲望、支配されていると分かっていても抜け出せない関係、そして支配されることの心地良さ。人間関係がもつれ合い、騙し合い、駆け引きし、嫉妬に燃え上がる

他人の気持ちはわからぬもの 『行人』

夏目漱石というと、学校で習った『こころ』しか読んだことがなかったのですが、少し前に『草枕』を読んで、そのあまりの美しさに仰天しました。 今まで知っていた日本語表現の概念を根底から覆されるような、日本語ってこんなにも美しくなれるのか、という新しい地平線を見たかのような衝撃です。 見たことない表現や読んだことのない漢字の組み合わせがたくさん出てくるのですが、しかし漢字とは便利はもので、読み方がわからなくとも意味を感じ取ることができます。 漢字の持つ絵としての機能のおかげで色彩

『東京セブンローズ』 人をつくるのは国家か言語か

面白い小説を読んでると、どんどん物語の世界にのめり込んでいってしまいます。 面白ければ面白いほどページを閉じても本の世界は止まらず、日常生活が侵食されて行きます。他のことをしつつも頭の中の半分はまだ小説の世界に取り残されていて、上の空。 何か思いつくことがあると、例えば読んでいる内容、その何が面白いのか、どこにどうして感銘を受けたのか、小説の中の状況に対して自分ならどうするか、以前に読んだ本との関連性や現実との対比などなど、誰かに話して聞かせずにはいられなくなります。読ん