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2024年3月の記事一覧

愛と欲 谷崎潤一郎『卍』

人妻園子と年下の学友光子の恋愛を中心に、グルグルと渦巻いてゆく人間模様を描いた谷崎潤一郎の作品です。物語は筆者の元へやってきた園子の告白から始まり、全編を通して園子の言葉で語られます。 初めはただの痴話喧嘩の話かと微笑ましく読んでいたのですが、さすが谷崎潤一郎。ラストの数十ページでどんどん狂気が増していきます。 人間を支配したい欲望、支配されていると分かっていても抜け出せない関係、そして支配されることの心地良さ。人間関係がもつれ合い、騙し合い、駆け引きし、嫉妬に燃え上がる

痛快な中に残る僅かな苦味『坊っちゃん』

夏目漱石ってこんなにもユーモアのある人だったとは!『坊っちゃん』とっても面白かったです。一級の悪口にニヤニヤしていたら、最後はちょっと哀愁を感じ、若い頃を懐かしく思い出す一冊でした。 教師の職が決まり、東京から田舎へ引っ越す主人公の坊っちゃん。 いかにも都会人な彼の放つ田舎を見下す悪口には身に覚えがあります。他人を皮肉る極上の悪口にもニヤリと笑わされっぱなしです。夏目漱石ってこういう意地の悪い笑いも巧みに操れるセンスの良い人だったのかと惚れ惚れしました。 不正を匂わす教頭