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2023年7月の記事一覧

アントニオ・タブッキを2冊、須賀敦子さんと

須賀敦子さんの翻訳は、翻訳的なノイズが全く感じられず、驚くほど滑らかでした。 本を開いている間、小さな小石に躓くようなことがなく、すーっと小説の世界に引き込まれていきます。外国語から日本語に直された文章を読んでいるのだと読み手に気づかせません。 これまで須賀敦子さんのエッセイを好んで読んできましたが、翻訳されている作品を読むのははじめてでした。エッセイを読んでいるとその聡明さと静謐な文章力に憧憬の念を禁じ得ないのですが、翻訳もまた一等、格別でした。 須賀敦子さんのファンな

井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室

作文は前置きをバッサリ削って、いきなり核心から入ることが大切。 『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』を読んでいて、ギクっとしました。 noteを書くとき、だらだらっと意味のない文章を重ねてお茶を濁して書き初めがちです。これはよくありません。 本書曰く、書き出しの良い例は川端康成の『雪国』。『雪国』が素晴らしいのはトンネルを抜けてしまったところから書き始めたところなのだと、井上ひさしさんの解説は明快です。 トンネルに入る前の景色を描写して、長い長いトンネルの中で考