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読書記録

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2023年4月の記事一覧

他人の気持ちはわからぬもの 『行人』

夏目漱石というと、学校で習った『こころ』しか読んだことがなかったのですが、少し前に『草枕』を読んで、そのあまりの美しさに仰天しました。 今まで知っていた日本語表現の概念を根底から覆されるような、日本語ってこんなにも美しくなれるのか、という新しい地平線を見たかのような衝撃です。 見たことない表現や読んだことのない漢字の組み合わせがたくさん出てくるのですが、しかし漢字とは便利はもので、読み方がわからなくとも意味を感じ取ることができます。 漢字の持つ絵としての機能のおかげで色彩

物語の効用

パートナーと車に乗っているとき、危ない運転で飛ばしている車に遭遇することがあります。 そういうときは、冗談めかして「今の車、助手席に破水した奥さんが乗っててね、旦那さん急いで運転してたよ。無事に産まれてほしいね」なんて言います。 ただの運転の荒い人かも知れないし、それとも何か大変な事情があってやむなく飛ばしていたのかも知れません。危ない運転はもちろんダメですが、相手の事情はこちらからは見えないので、好きに解釈することができます。 スーパーのレジでめちゃくちゃ感じの悪い人に

”現実”とは一体なんなのか 『モレルの発明』

アルゼンチンの作家ビオイ・カサーレスの『モレルの発明』は、町山智浩さんが『去年マリエンバードで』の映画解説で紹介していて知った小説です。 『去年マリエンバードで』は我が人生でその美しさに最も感銘を受けた作品であり、しかも世界で1番難解な映画のひとつとも謳われています。そんな作品に影響を与えた小説が『モレルの発明』なのだとか。これは読まないわけには行きません。 一読目では、どうしてこの小説が『去年マリエンバードで』に繋がるのかが分かりませんでした。どちらかというと映画『イン

ニッポンのミソジニー

この本を読みながら、そして読み終えた今もずっと、ニッポンのミソジニーについて考えています。あまりにも日常生活の細部にまで浸透し、密接に関わっている問題だから、考えることをやめられないのです。 『女ぎらい / ニッポンのミソジニー』  上野千鶴子著 驚くほど面白く、ためになる本でした。 今までの人生で、日常生活における様々な瞬間、人の振る舞いや会話、社会の風潮や仕組みに対して感じていた、名付け難いモヤモヤに新しく明確な理解と、そして正しい怒りを与えてくれて目が覚める思いが