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読書記録

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2022年6月の記事一覧

哀しいめぐりあわせ 『ハツカネズミと人間』

ジョン・スタインベックの作品の中でも一際短い、わずか150ページほどの作品です。初スタインベック。これなら読めるだろうと手に取りました。 初めはいかにも"翻訳"されている文章に硬さを感じましたが、次第に登場人物それぞれの人柄や顔形が浮かび上がってきて、愛着が湧いてきます。 小柄で鋭く口は悪いけれど面倒見の良いジョージ。純粋なのだけど頭の回転のひどく悪い大男のラリー。昔のアメリカ映画に出てきそうな短気でガサツなカーリー。片腕の老人キャンディと老犬。馬に蹴られたせいで背中の曲

『砂の女』を読んで『パピヨン』を観る

ご存知の通り、主人公が砂の穴から出られなくなってしまう不条理な物語です。 穴の中に住む女は彼の質問になかなか答えてくれないし、読み手も主人公と一緒に困惑します。一体どうしてこんなことになってしまったのか。これは一体なにかの間違いじゃないのか。 監禁されるのも身体的に怖いけど、意味が分からない状況に突然放り込まれ、誰も質問に明確な答えをくれないというのがさらに精神的な恐ろしさを掻き立てます。 それにとても臭い匂い漂ってくる文章です。不衛生な穴の生活。自分の常識が通用しない