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覚悟はいいか?俺はできてる。新宿に住まい働く自分がコロナ濃厚接触者になった話【陰性です】

うだるような暑さのお昼時、お弁当と銀色のクーラーボックス。
その姿を見かけない日はない、自転車と緑色のリュックサック。

ところがわたしはここ10日ちょっと、それすらも目にすることがありませんでした。濃厚接触者指定を受け、外出自粛をしていたからです。

誰にも会えない、夏休み。
それがわたしの、夏休み。

PCRに伴う検査を受け、陰性のようでしたので、ここで皆さんにその時の話をしていこうと思います。

陰性のようです、というのは、陽性の場合は今日までに電話連絡が来ることになっていたから。ついぞ沈黙を保ったガラケーに快哉を叫び、緊迫の3日間はこれで終わりを迎えました。

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先の見えないコロナ禍の中で、それぞれが新しい生活様式に順応し、活路を見出そうとしていますが、やる気だけではどうにもならない苦しさを見聞きすることが増えました。

わたしは新宿で写真撮影スタジオの経営をしていますが、外出自粛やイベント中止が重なった影響で売上前年同月比9割減が何か月も続き、今もまだ客足が戻る見込みは立っていません。

一昨年から趣味を兼ねて店子をしていた歌舞伎町の女子プロレスバーにも、コロナが直撃。

コロナ禍の中心として揶揄された街はすっかり閑散とし、向かいのバッティングセンターから響く打球音もまばらになって、眠らない街と呼ばれていたのが嘘のよう。夜8時から12時までの4時間営業で2、3回転することが多かった店なのに、厳しい状況が続いていました。

8月頭のその日はお客さんが来る気配もなく。
「この茄子の煮びたし、味薄いかな?」と店長が持ってきてくれたお通しを味見させてもらったり、掃除をしたり、換気のために開け放ったドアの向こう側を眺めては「今日もお客さん来ないですね」なんて話をしていました。

今思えば、あれはきっと台風の目の中だったのでしょう。

数日後、オーナーから切羽詰まった声での着電。

「店長が、コロナ陽性でした」

真っ先にわたしの脳裏に浮かんだのは、彼女の顔。
ああ、店長めちゃくちゃ気に病むだろうな、すごく気を付けていたのに。
あれ、そういえば引退興行を控えた子の試合があったけれど…

「プロレス興行は全部キャンセルになります。先の予定はわかりません」

まーーじーーかーーー!

オーナーたちがこれから行うであろうチケットの払戻し手続き、陽性者が接触した各所への連絡、諸々スケジュール調整…… やるべきタスクは山積み!その業務を担わないわたしですら気が遠くなりそうになったところを、次の言葉が現実に引き戻します。

「立花さんも濃厚接触者です。後で保健所から連絡が行きます」

そうかー!
そうなるのかー!

閃光のように目の前でチカチカする、数日前から自分が会っていた人たちの顔と、キャンセルするべきスケジュールの数々。自分が知らないうちに他人に感染させてしまった可能性もゼロではなく、自分だけの問題では済まないという現実の重さは、昨年受けたガン告知をゆうに超えるものでした。

20席ほどある広い店内で、密は避けて、マスクをしていたから大丈夫なはずだけど……
手も洗った、除菌スプレーで掃除した、帰宅してすぐに服を着替えた……
ああ、あの予定キャンセル連絡しなきゃ。
あの日会ったあの人は大丈夫かな……

困惑しているうちに、未登録の固定電話から着電。

「新宿保健所です。〇日に一緒だったMさんがコロナ陽性で、立花さんは濃厚接触者になりました」

スマホの向こう側はひっきりなしにざわついていました。
ああ、お忙しいのにわたしのことなんかでご面倒をおかけして本当にすみません、と申し訳なさが募ります。

「立花さんもプロレスラーの方ですよね?」
「いえ、ただのカメラマンです。見た目だけはそれっぽいんですが」

そんなやり取りでちょっと空気が緩むのを感じながら、体調ヒアリングや今後の流れの連絡が進みました。担当者は不安をできるだけ感じさせないように配慮してか、落ち着いた声で要点を伝えてくれていて、激務の中での気遣いに感謝の気持ちが沸き起こりました。

「では、〇日〇時にPCR検査の予約をお取りします。〇日までは外出自粛してください」

PCR検査は新宿保健所の裏手、ゴールデン街花園通りから目と鼻の先で行っていました。公共交通機関を使わずに来るように言われましたが、そこはわたくし新宿の民なので余裕の徒歩です。わたしは近いからよかったけど、例えば江戸川橋エリアの人とかは大変かもな…と思いました。どうするんだろうその場合。

案内板に沿って足を踏み入れると、防護服に身を包んだ医療関係者が長机にずらりと並んでいて、映画のような非日常感に一瞬怯みます。

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予約時間をきっちり管理されているので、他の人と近づくことはおろか、顔を合わせることすらありませんでした。受付担当者に保険証を提示し、住所氏名を確認した後、問診。
わたしは咳、発熱、味覚障害といった自覚症状が全くなかったので、ごく簡単に済みました。

検体採取は空気を吸い込む大きなクーラーのような機械に向かい合う形で座って行われました。鼻に長い綿棒を突っ込まれてぐりぐりっとされる、インフル検査でおなじみのアイツです。濃厚接触者指定受けてからの一連の出来事でなにが怖いって、これが一番怖かった。

検査棟に入ってから出るまでは実質10分くらい。感染症対策もあってかやり取りは必要最小限に抑えられていて負担も少なく助かります。説明はA4の紙1枚で、そこには自粛の方針や検査結果の連絡についてなどが記されていました。

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新宿保健所での場合は、陽性の場合は3日以内に電話連絡、陰性の場合は一週間程度で郵送について通知、とのことでした。
(郵便が届くころには自宅待機期間もすっかり明けている計算になります)

PCR検査料金は完全に無料。もちろん、保健所から指定されないと検査を受けることはできません。

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いやほんとに、皆様連日お疲れ様です。ありがとうございます。

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保健所からの濃厚接触者指定連絡の後、外出自粛の辛さはありつつも、自分の力ではどうにもならないので、思いがけず降ってきた膨大な一人時間を純粋に楽しんでいました。

部屋の模様替え、掃除、衣替え、画像フォルダの整理、書き物、読書。
食料品は基本的に買い置きが十分にあったのでさほど困らず。

そんな具合に過ごしていると、友人からなんでいつも前向きでいられるの?と聞かれることもありました。

ネタばらしをすると、わたしが大切に携えている言葉に、人生万事塞翁が馬(じんせいばんじさいおうがうま)という中国の故事があります。人生における幸不幸は予測しがたく、幸せが不幸に、不幸が幸せにいつ転じるかわからないのだから、目の前の出来事で安易に一喜一憂しない、というもの。

この言葉は、どんな出来事の中にも光を見出すための合言葉。
折れそうになった心に、すっとしなやかさを与えてくれます。

最近は、こんな感じにしていました。

コロナの影響で、かき入れ時だったお盆時期の仕事がない。
 ーそのおかげでスタッフに長いお盆休みを出せた!

濃厚接触者指定を受けた。
 ー保健所指導のもと最短距離で検査を受けられて、かえって不安が減った!

外出自粛で人に会えない。
 ーその分、自宅でオンライン講座に集中できる!なんて。

まるで「よかったこと探し」ですが、その気持ちこそが今必要。

思うように動けないことや経済的に辛い局面が多くありますが、どんな状況にあっても自分の目線を変えることで前向きになることができる、そう信じさせてくれるのが「人生万事塞翁が馬」です。

コロナ禍の出口は一向に見えず、タフな状況が続きます。そんな中では新しい生活様式に加えて「人生万事塞翁が馬」の精神、おすすめです。

ちなみに今回の件で濃厚接触者指定を受けた人は全員陰性だったようです!
(わたしが一番最後だった)
お店も再来週から再開、プロレス興行も無事に次の開催日程が決まりました。一時はどうなることかと思いましたが、一安心。

とはいえ今、だれもが紙一重の状況です。
全力の感染症対策は片時も忘れずに!
いつ自分が当事者になるかわかりません。

感染したら、させたら、濃厚接触者指定を受けたら。

誰も悪いなんて言えないけれど、確実に日常は瓦解します。

正しい情報と、冷静な判断を以って、粛々と日常を送っていきましょう。

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