疾走、破壊、カタルシス(「ギャング・ダルク vs アルティメット桃太郎」(石田金時/「NOVELSエルジー vol.3」所収)を読んで)

 冒頭から、アクセル全開。緩みない緊張感、現代と近未来がミックスされた世界観、登場人物が見せる人間の弱さと醜さ──渾然一体となった諸要素が亜光速で疾走し、読者を置き去りにしてゆく。
 しかし、それらは作品の一部分にすぎない。

 この作品の要諦は何か。言うまでもなく、アルティメット桃太郎そのものである。頑丈すぎる肉体、沈着なる精神、まともではない言動(良い意味で)。正攻法が通じない数々の巨悪と戦う過程で身につけた強さである(※1)。彼に常識を求めてはいけない。

 本作の悪役であるギャング・ダルクもまた、印象深い。ニッホン(※2)を破滅に導かんとする狡猾さは、史実における「救国の少女」のイメージと対照をなしている。圧倒的なカリスマ性を備えていることに変わりはないが、間違っても可憐さを求めてはいけない。アルティメット桃太郎と互角に渡り合えるぐらい、(色々な意味で)手強い存在なのだから。

 この作品が収められている「NOVELSエルジー vol.3」を、私は過去の文学フリマで入手した。9月9日の文学フリマ大阪でも頒布される予定なので引用や過度のネタバレを差し控えたが、気になる方はぜひ会場へ(※3)。


※1 作者・石田金時さんの別作品にも登場している。
※2 作品の舞台。「日本」ではないが、なぜか埼玉県がある。
※3 サークル「LG(祝)」(@LG_dokusho)。C-01ブース。