明るい本(『どこにでもいるオタの端くれが若年性乳がんになってドッタンバッタン大騒ぎする話』(樋口ヤサト)を読んで)
とことん、明るい。
乳がんという重いテーマでありながら、樋口ヤサトさんの文章は軽快そのもの。闘病記に見られるシリアスさはほとんどなく、本文ではネットスラングやアニメ・漫画のセリフが飛び交う。太字や文字サイズを用いた強調表現と相まって、往年のテキストサイトのような勢いさえ感じさせる作品である。
前書きに「全くもって闘病の参考にはなりません」(3p)とあるが、「こういう治療があるのか」と勉強になることうけあい。薬・入院・お金・日常といったテーマで作者の体験が奔放かつ仔細に描かれていて、マスメディアにありがちなお涙頂戴の作品よりもずっと参考になる(たとえば抗がん剤の功罪(10p以降)は、本人の言葉だからこそ伝わるものがある)。
作者は上梓するにあたり「あくまで現実を淡々と、かつ面白おかしく読んでほしいと考えに考えああなりました」とのことで(樋口さんのツイートから)、その思いを象徴するメッセージも終盤に書かれている(28p、ネタバレ防止のためここでは割愛)。ぜひ御一読を。
余談だが私は本書を、「第3回文学フリマ岩手」(2018年6月)で入手した。同人誌ゆえ市場には出回っていないので、お問い合わせは作者(@hiyasato)まで。