ゴールデンカムイ感想【ネタバレ無し】

話題のゴールデンカムイ、GWを利用して拝読した感想です。
今まであまり読んだことのない系統のシナリオでしたが、アイヌ文化への深い敬意と共にしっかりと構成が練り上げられていて非常に勉強になりました。こちらでは全体を通しての作品構成で気になったポイントを中心に書いていますので大きなネタバレはないかと思います。

・お料理漫画から壮大な”紛争”へ
前半しばらくは主人公である杉元がアイヌの少女アシリパと闇雲に金塊の情報を探していく中でアイヌの文化や北海道の自然に触れていくという展開が続きました。野生動物や金塊の鍵を握る囚人、そして金塊を狙う軍隊との死闘と仕留めた野生動物の解体、調理……人間離れした登場人物たちの壮絶な戦いと美化されていないリアルな狩猟生活の描写に抱いた最初の印象は”血生臭いお料理漫画”でした。命を狩っていただくという綺麗な描写だけでは語れない、人間が目を背けがち、忘れがちな血生臭さが真摯に描かれていると思います。
そうした広大な北海道の片隅での物語が力あるもの、野心ある者たちの参入によって徐々に大きく、紛争と呼べるものへ移り変わっていく。その流れも読者を置いてけぼりにせず、緩急ある見事なテンポで描かれていました。

・アイヌ文化への敬意
アイヌの方々への取材の際「可哀想なアイヌではなく強いアイヌを」との要望があったという話が話題になっていましたが、ただ要望に応えるだけでなくアイヌ文化を伝える資料としても非常に貴重なのではと素人目に思うほど、敬意を持って丁寧に描かれていると感じました。
道具や名詞を逸話を交えて丁寧に解説し、狩の仕方、獲物の捌き方や筋肉、内臓の描写、調理と食べ方にもかなりのページを割いていて、それだけの情報を揃えられる細やかで誠実な取材であっただろうことが伺えます。

・身の詰まった登場人物
「囚人を手掛かりに軍隊などと渡り合いながら金塊を探す」というテーマ上、登場人物の多くが善人と呼べないのはわかりますが、それにしても倫理的、生理的に常軌を逸した人物が数多く登場していました。しかしそうした人物たちに薄ら寒さや驚きを覚える一方で彼らの顛末を清々しく見守ることが出来、その思い切ったキャラクターメイクとそれを魅力的に描き切る手腕は本当に見事だと思います。
そしてそれは彼らが決して自分の行いを顧みることなく、魂が叫ぶまま疑問すら持たずに己の生き様を貫いていたからだろうと私は考えています。また所謂悪人、あるいは異常者と呼ばれる彼らが主人公たちに味方をする時も、それはあくまで彼らの中の主義や拘りに即したもので決して改心や気の迷いではありませんでした。彼らに、そして人並みに悩みながら進んだ人物たちにも一部の変化こそあれそれぞれ変わらない芯、一貫した生があったことが人物達の魅力、そして人間としての肉感になっていたと感じています。

・錯綜する情報と意思
作中には個人としての野心や目的、組織の大義とされるものが多数混在しています。陣営の中にあっても見失われない個人の目的や打算、明かされる秘密と戦略的に流される情報、それらが常に入り混じっていて本当に味方なのは誰か、本当に正しい情報はどれかという緊張感が常にありました。時々立ち止まって整理が必要なこともありましたが、それがあったことで飽きずに読み進められたと思います。
そして陣営間の人の出入りも多く、それぞれ疑心や裏の目的がある人物達の行動と思考の動き、そして全体の流れをきちんと把握して描き切っているところはまさに脱帽でした。

・ギャグの使い方と白石の存在
ギャグシーンについてはネタだけがピックアップされ、読み始める前からそこだけは知っているという要素がいくつかありましたが、知っていても驚くような思い切ったギャグの数々でした。話が深刻になっていく中でもギャグを盛り込んでこまめにガス抜きをするだけでなく、ギャグに振り切った話を挟んで読者の気分を底上げしていて、本当に見事な構成だったと思います。
またギャグシーンで忘れてはいけないのが白石の存在。白石は基本的に足を引っ張り、時に保身のために杉元やアシリパに不利な行動をすることもあった小悪党ですが、普段のガス抜き要因として、またここぞという時の鍵として活躍してくれていました。この白石について私が思うのは、彼が一番読者に近い存在だったのではないかということです。主人公である杉元、アシリパをはじめ登場人物達はほとんどが人間離れした思考や意思の強さを持っていました。そんな中、白石はただ遊ぶ金が欲しいという理由で参加し、序盤では命惜しさに杉元達を裏切ろうとすることもあった、誘惑に弱く、保身に力を入れてしまう、多くの人が持つ弱い部分をちょっと誇張した存在ではないかと思います。そんな彼がここ一番で選択を間違えずに踏ん張る姿は私たち読者に小さな達成感に似た何かを感じさせてくれていたように感じまし、最終的に一番おいしいところを持って行った時にもどこか清々しい笑いと驚きがあったと思います。

・戦闘シーン
毎話のように壮絶な戦闘シーンがあり、同じ相手との取り組みも数多くありましたが動きがパターン化していると感じることはなく、これだけの動作を考え、そして描き切る労力と熱量に驚きました。

以上、ゴールデンカムイ、楽しく一気に駆け抜けました。

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