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踊りたくてたまらない運動会ダンス

表現運動の単元として運動会にダンスがよく取り入れられます。
表現運動として、最後のゴールに保護者がいる運動会、つまり、観客に向けて練習するという形式は一見上手くはまっているように見えます。

しかし、実情は、そこに向けて練習に時数を取りすぎていたり、見られることを意識しすぎてダンスを踊りたがらない子がいるなどのデメリットもあるのではないでしょうか。

そこで、今年度のダンスでは様々な仕掛けを取り入れながら、
・練習の時数を極力短くすること
・子ども達がやりたくてたまらないダンスにすること

の二つに重点を置いた表現運動を行ないました。

結果的に、予行を抜いたダンス練習時数は5時間、子ども達は観客を盛り上げるダンスにまで昇華されました。
順を追って、取り組みを紹介します。

ダンスの準備

①表現運動の構造

表現運動の構造として、小溝拓氏のnoteを参考にした。今回の取り組みの根幹につながるのでぜひ読んでいただきたいです。

学級通信でもこの記事から引用しながら紹介しました。

フェスやライブでアーティストの曲が始まり、拳を突き上げたくてたまらない高揚感。
小溝氏の記事を読み、ライブのあの感覚をダンスでも再現したいと思いました。

②ダンスの構造

そのために、まずダンスの振り付けを基本的に簡単にし、拳を突き上げたり、「トントトン、ヘイ!」とか手拍子のようなライブでもコールアンドレスポンスでよくあるような振り付けを多めに盛り込みました。
曲もそうした盛り上がりが見込める曲として、YOASOBIの「アイドル」を選曲。
この曲は、曲中に掛け声や手拍子の音が入っており、今回の目的にぴったり合致した曲でした。
ダンスの振り付けは以下のようにしました。

拳を突き上げたり、オタ芸を入れたり、手拍子を煽る振りは、このダンスで最も盛り上がる部分として想定しました。
練習動画として先生のダンス動画を作成しました。ダンス動画には掛け声とそのテロップも入れており、家でもかけ声を出しながら練習できる動画にしました。

③ダンス練習

このダンスを子ども達に教えるにあたって、まず劇的なライブ体験が必要であると考えました。拳を突き上げたくてたまらないライブ体験です。これは多くの子どもにとって体験したことのないものです。
そのため、第一回練習日、ダンスのお披露目日は、先生ダンスライブとしました。
具体的には、舞台の上にダンスを踊れる先生に立ってもらいます。舞台は照明をつけ、会場の電気は消します。
子ども達には列はどうでもいいから舞台のギリギリ下まで詰め寄らせ、先生がMCとして、散々会場を煽ります。
MCとして伝えたのは、以下のことです。

・このダンスの完成は、演者だけでは無理。見る側の協力が必要。見る側が拳を上げたくなるような心の底からの「楽しい」が必要
・上手い演技を見せたいわけじゃない。「楽しい」「楽しむ」演技にしたい
・この時間が忘れらんない、辛いこととか全部後回しにできる、そんなダンスの時間になってほしい


結果から言って、初回の先生ダンスライブは大盛況に終わりました。
ダンスライブ中から拳を突き上げたり、手拍子をする児童が生まれました。
残りの時間は練習の時間とし、少し解像度を上げて、ダンスの踊り方練習としました。
初回を終えた時点で、もうすでに大体でほぼ踊れる状況になりました。
また、踊りたくてたまらない状況から、各クラスで至る所で自発的に踊っている報告が上がりました。
その日のうちに練習動画のURLをclassroomから配信しました。

④ダンス練習計画日程

劇的に楽しいダンスにすることから練習回数および期間は極端に短くするつもりでいました。
ダンス自体の練度を求めるつもりがなかったからです。
そのため、練習を開始したのは、運動会の2週間前です。合計5回の練習を行いました。

1回目→先生ダンスライブ
2回目→曲の1番まで完成
3回目→曲の最後まで完成、隊形移動練習
4回目→運動場で隊形移動
5回目→入退場含め全通し
運動会予行→衣装ありで初
運動会→本番

⑤盛り上げる仕組みその1〜立ち位置〜

隊形移動と立ち位置には気を使いました。
かけ声で盛り上げているため、人の間隔が空きすぎると声が分散して寂しくなります。
そのため、以下のようにしました。

特筆すべきは、隊形3です。
トラックにそって、並ばせますが、最後のサビ後に少し客席まで詰め寄って、ギリギリ客席の目の前で最後の盛り上げを行いました。
ダンスライブの時に、子どもたちを舞台ギリギリまで来させたように、この距離感によって盛り上がりが大きく変わります。
距離を詰めることで、子ども達にも相手意識も強く認識させました。

⑥盛り上げる仕組み2〜ダンスライブ〜

ダンスライブをしました。先生ではなく、子ども達が、です。初回のダンスライブのイメージがあるのでそれをなぞるだけでできます。
ダンサーを学年に呼びかけ、全学年にお昼休みにダンスライブを行うことを告知。
こうした呼びかけや告知の仕方や原稿も子ども達で考えました。
また、ダンスライブ当日のMCも立候補制で子どもが担当しました。
こうしてダンスライブを自分たちで作り上げ、その空間に来てもらった人に盛り上がってもらうことで、ダンスへの没入感を高めたり、自己意識の身体表現(stage2)であるダンスから他者からのイメージの執着(stage3)へ引き上げていきます。
ダンスライブ当日、初回の先生ダンスライブより遥かに多い人数が集まり、熱狂的なダンスフロアが生まれました。
自分たちのダンスによって盛り上がる経験を得た子ども達は一層このダンスに自信をもち、人を楽しませるために自分が楽しむことの重要性に気づく子が多くいました。

⑦盛り上げる仕組み3〜衣装〜

衣装を見に纏うことで、普段の自分とは一線引いて変えられることがあります。
そこで今回は衣装にハッピをチョイス。
そして、そのハッピを前日までに落書きしまくります。
自分の名前を背中にでっかく毛筆で書き、その周りに友達からのメッセージを書く。高校生とかがよくやるような寄せ書きです。
仲間との一体感や繋がりをハッピを通して強く感じる、そしてそのハッピを着ながら踊る。周囲と共に盛り上がる感覚を文字でも味わいます。

最後に

以上のような仕掛けをたっぷり仕込みました。ここに至るまで練習回数も週の体育の時間だけでほぼ十分な量で行いました。
それでも、運動会予行や本番の時数を含めると、日頃の体育よりもかなり時数を要します。
運動会練習は子ども達の体力的負担も大きいです。なんとか標準の体育レベルで練習を納められたのは大きなポイントでした。

練習がなければ、子ども達はそもそも楽しむことはできません。
しかし、細部にどこまでこだわるかは果たしてそこまで重要なのかという疑問はあります。
真に大切なのは表現運動として子ども達が心の底から「踊りたい」、「楽しみだ」となることであって、周りからカッコよく思われることではないはずです。

このダンスを子ども達はどう受け止めていたか、保護者からどう見えていたか、については、運動会後調査を行おうと思っています。

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