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だから俺は献血に行く

日記というかただの経験談なのだが、たまにふと思い出すのでここに書き記そうと思う。
この記事を読んでる貴方は献血に行ったことがあるだろうか、別に行ってたら偉いとかそういうわけでもなく、今回は献血の話をしたいだけだ。
人によっては宗教上の理由や注射が怖いからできない人もいるだろう。自分も注射が怖くて行こうとは思わなかった。
実際のところ結構太めの針を刺されるし、血を抜くわけだから身体にいいものではない。
ではなぜ、自分が献血するに至ったのか。それには深い事情があった。
ここでの話は今だから言えるような時効のものばかりなので詮索はしないで欲しい。
自分は中学生の頃からチャHで男を釣るのにハマっていた。性格の悪い趣味だが、なんとも言えない面白さがそこにはあったのだ。
そして、高校2年の時にいつも通り女として部屋を立てていたら1人の女性が入室してきた。普段なら20分くらいで馬鹿にして部屋を閉じるのだが、その人の話が面白く、自分が実は男だと打ち明けて何時間もチャットをしてしまった。
そして、LINEまで交換してしまったのだ。仮に名前を絢香さんとさせて頂く。
話していくうちに絢香さんが隣町に住んでいることが分かった。加えて相手は30代だということも分かった。歳が倍くらい近い人と話してたんだと、その時に知った。ヌードデッサンや撮影のモデルとしても活動してると教えてくれて、その写真も見せてもらった。綺麗なスタイルで性的興奮より感嘆の声が出てしまった。
1ヶ月ほど経ち会ってみようということになった。当時高校生の自分はネットで知り合った女の人と会うなんて考えてもみなかったので、緊張に緊張していた。あんなスタイルいい人が会おうとするなんて、今思えば低すぎる確率だが、騙されるわけないと思い込み決意した。
知り合ったサイトがエロサイトだったこともあり、下心もあったので失礼のないようにしようと思った。
高層ビルの個室のレストランを予約し、駅で待ち合わせた。
「もしかして◯◯(サイトのハンドルネーム)さん?」
眼前に現れたのは妖艶という言葉が似合う大人の女性だった。黒のドレスを身にまとい、立ち姿から色気が出ていた。
「待ってる間にナンパされちゃった。」
そりゃこんな綺麗な女の人がいたら声をかける男もいるだろう。そう思いながらもレストランに向かった。
当時は酒なんて飲まない人間なのに、ビールやワインを共に飲んだ。自分は割と老け顔で20代後半くらいに見られていたので、そのままやり過ごして高校生であることをバレないようにしたかった。
話は弾んでいき酔いも回り、絢香さんとの間に大人の雰囲気が流れ始める。
そこで彼女は口を開いて問うてきた。
「私の身体見たい?」
最初は意味が分からなかった。LINEで送られてきたヌードモデルのあの身体をドレス越しに想像させてくる。
自分の回答に呼応するように何か話したげに彼女はドレスの襟を捲った。
「ここ、凄い傷があるでしょ。」
そこには30~40cmはあるであろう深い切り傷があった。誇張抜きでゾロの背中くらいあった。
それを見せて彼女は話を続ける。
「昔ね、ストーカーの被害に遭って鉈で切られたの。」
すごく興味のある話だが、その先を聞くのも怖かった。その続きはここには書き連ねることができないほど凄惨な内容だった。
そして彼女は言った。
「その時に病院で輸血してもらって今の私があるの。40リットルくらい。」
「◯◯君は献血とか行ったことある?」
1度だけ行ったことあると答えた。
「そうなんだ。私はあの時のことがあるから献血したいけど、輸血された人は血が混じってるから献血できないんだ。」
聞いていくうちに話に引き込まれていった。レストランの個室が宇宙のように広く、押し入れの中のように狭く感じた。
お会計も気づいたら支払われていた。銀行でわざわざ下ろしてきて誘ったのだから払おうと思っていたのに。
「私の話聞いてくれたし、話しすぎちゃったから。いいよいいよ。」
ありがとうございます…と小さい声で言うことしか出来なかった。
多分自分がもの凄く年下なことなどとうにバレていたのだろう。彼女も気づいたら敬語で話すのをやめて君付けで自分の名を呼んでいた。酒の飲み方が下手だったのかもしれない。
その日は別にホテルに行くこともなく別れた。
帰り際に絢香さんの仕事の話を聞いた。
「私会社の秘書もやってるのよ。まあ社長の愛人みたいなものだけどね。」
「社長の奥さんからは睨まれながら仕事してるけど。」
そんな仕事もあるのかと驚いた。そして結婚を考えてるという話も聞いた。
それからか、LINEの話も次第にしなくなっていき、今は連絡が取れない。
絢香さんがどうなったかは分からない。誰かと結婚して幸せな家庭を築いているのだろう。
それ以来、半年に1回くらいは献血に行く。献血をしている時の血を抜かれていく感覚も、誰かの命を救うバトンになっている気がする。
なぜ、あの時絢香さんがチャHの部屋に入ってきたのかは分からない。誰でもいいから話がしたかったのかもしれない。
大人になった今でも分からないことばかりだが、たまに気が向いたら献血に行く。


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