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★Overflow The second act



 俺の腹の上に二人分ぶちまけて、息を整える間もなくボウイが囁く。

「もっかい、、このまま、、」

「ねーよ。カートリッジ空だぜ、俺は」

 押せ押せで続行させようと頬をすり寄せてくるボウイに、俺はつまらない仕草で、、つまらないって言うのは、そう、服を着ている時みたいな雑な仕草で、、頭をぽんぽんしてやる。

「うっそだー、まだ余裕で撃てるだろ?」

 ボウイの声からも色気が抜けて、少しだけ体の距離が開く。でも指先はまだチャンスを探して俺の肌を行ったり来たり。

「切り替え悪いじゃん、ボウイちゃん?」

 最後通告。ティッシュボックスを掴んでボウイの頭にトスッと乗せた。悪足掻きで俺の肩口をカプっとかじってからティッシュを引っ張り出すボウイ。腹の上でティッシュが動く。気まずさが無くもないこんな時が嫌いではなくて、最後通告を出しておきながら少し揺れる。
 それは後ろめたさ混じりだ。二人分なのにボウイ一人が拭いてるって事がひとつ。いや、これは言い訳させてもらいたい。ボウイがやりたがるからだ。もうひとつは、ボウイのその仕草を見てて、、、とにかく、コイツほんとに俺のこと好きだよな、、って。
 いつものようにざっくり拭いてくれたボウイが、今日はいつもと違うことをした。すっかり大人しくぶら下がってるだけの俺のソレを両手で包むと、指を組んで額を近づけ、、

「切り替えの悪い迷える俺ちゃんに愛のお恵みを、、、、」

 バスッ!バコッ!ボコッ!
 ティッシュボックスで連打。ここの所、ボウイがすぱっと切り上げてくれない。

「キッドさん最近あっさり過ぎないー?」

 ボウイが俺を捕まえたがってる。





 ケリーが泡を食った様子でボウイに連絡を入れてきたのは、俺がメイと交代して通信室に入ってた午後だった。
 ボウイは基地内に居るには居たが、アイザックとドク・エドモンとで三者会談中。議題は子猫ちゃんの不調。センタールームやこの通信室じゃなくてアイザックの私室に籠もってるというのは、今は邪魔しない方がいいってことだろう。それにこの数日、エドモンのおやっさんがまとまった時間がとれないと言って、ボウイはイライラしてた。
 ついでに言うと、あの晩からこっち、そう、軌道の曲がるブラスターを使う奴に出くわしたあの晩だ。あれからのボウイはツキアイ出してから一番ってくらいまとわりついて来てたわけだけど、それが一変して、今は放置されてる。仕方がない、相手はマシンだ。

『じゃあ、じゃあボウイの兄貴は無事なんスね?病院送りとかじゃないんスね!』

 生意気そうなニキビ面が心底ほっとしたように笑顔を見せる。この前まではコネクションに首を突っ込むようないきがったガキだったくせに、今の笑顔は俺が見てもわかるくらい少し大人だ。

「ところでケリー、ボウイがボコられたなんて話、どこから聞いたんだ?面倒な連中とまだツルんでる、、なんて事、ねえだろうな?」

 ボウイ本人と繋げてやれない代わりに俺が余計なお世話を言っといてやる。ボウイがボコられたってのは、ビカビカのテンガロンバーでの事だ。ヘルダストをキメて有り得ない身体能力を手に入れてた男に一方的にやられた。どうやらケリーのご近所の飲んだくれオヤジがその場に居合わせたらしい。一週間も過ぎた今になってひょいとケリーに伝えたようだ。

『大したことなさそうでホント良かったっス。うちも引っ越しの準備でドタバタだから、見舞いとか行けるかどうかわかんなかったんで』

「引っ越し?」

『あ、聞いてなかったっスか?イーストに。オフクロが新薬の治験に参加する事になったんス。症状が条件にちょうど一致するとかで、んで、イーストのでかい病院があれこれ負担してくれるってんで。行く時にはまた挨拶しますけど、、、それで、えーと、、あのー、、』

 もぞもぞと頭をかきながら口ごもるケリーを、軽い気持ちで促した結果、俺はなんとも微妙な気分になる伝言を預かることになった。ケリーの姉ステラからボウイへ「ごめんなさい」だと。
 いったいどういう意味の「ごめんなさい」なのか、ケリーも聞かされてたのかそうでないのか、はっきりしない風でそそくさと通信を終わらせやがった。
 オリビア・ラーク、ボウイが恋いこがれたじゃじゃ馬なお嬢さん。シンシア・ハッシーとは何もなかったけれど、ボウイが一目みた途端に反応した美人。彼女もでかい企業の令嬢だったもんだから、奴さんもしかして「お嬢さま」に弱いのかと思ったりもして。それからアマンダ。ビカビカのメインストリートでアイスクリームの屋台をやってる。軽そうな娘だったのに土壇場でフラれてた。あと、名前わすれた、、火星から観光で来てた、やたらハツラツとした娘。ボウイにしちゃうまく遊んでうまく終わった。バー・ピスタチオのママには正直ギョッとしたっけ。何がって、カウンターに座りながらママに頭を撫でられてるボウイの姿が、あまりにも自然でハマってたんだ。俺に投げたママの視線も意味ありげで。けど前触れもなくある日、店ごと消えてた。
 そんな、ボウイの腕の中を通ったりこぼれ落ちたりした女たちの最後にステラを加えてみる。悪くはない、、、と、、。
 俺は、あの晩みつけたばかりの本音にちゃんとした名札をつけるのを、後込みしてる。バレてるのが同然のことを俺が後込みするから、ボウイは捕まえようとする。それもまたのらりくらりしてるうちに肝心のボウイの目先が変わっちまった。これじゃまるで下手くそな歌詞に出てくる気まぐれ女の失敗例みたいだ。

『アイザックさーん!ヘルプ!ヘルプでげすよーっっ』

 ポンチョの必死の声が飛び込んで、もやもやした気分をいったん払う。が、あんまり、、有り難くないんだよな今は。

『あっしが匿ってた若い奴がうっかり居所ばれちまって連れ去られたでげす!もう、たった今のことで!あっしも追っておりやすが一人じゃどうにも心許ないんで、、』

「お前が依頼人って事でいいのか?」

『追ってる最中だって言ってるでげしょっ、細かい話してる余裕ないんでげすっ』

「ざっくりでいいさ、金額だけ言ってみな。ただし、こっちはマシンの調子がイマイチだ。メカ戦の可能性があるならアイザックに通す前にここで断るぜ」

『無いでげす。あいつらJ区内のどこかに一度身を隠すはずでげす。そこから移動する前に押さえられれば済むでげす。あっ、ちょっと途切れるでげす、五分、、いや十分後にまた!』

「アイザック、聞こえてたろ?どーする?」

 ポンチョの第一声を聞いた瞬間から三者会談の場へも音声を繋げてある。ボウイはカリカリきてるかもしれないが、アイザックの声はむしろのんびりしているように俺には聞こえた。

『オメガの幹部の元運転手を匿っている事はポンチョから聞いている。恩を売って子飼いとして育てるつもりだったようだ』

「金額は聞いてないけど受けるか?」

『よし、やろう。金額の交渉はメイに任せよう、通信室へ向かわせる。お町と二人でポンチョを追ってくれ』


 まったりとネイルに構ってたお町に文句を言われながらコズモワインダーで基地を飛び出すまでに五分。ポンチョが連絡を入れてきたJ区内の隕石まで五分。巨大歓楽街ビカビカを取り巻いて、J区のきらびやかな光景を成している大小の隕石たちのひとつ。
 そこは単独で隕石を利用している地元民向けのショッピングモールだった。ポンチョのビーコンが地下のパーキングスペースにあるので、俺たちもドームではなく岩石部分に開いたゲートからパーキングへ向かう。混雑はしていない。行儀よくするり、するりと、車や宇宙艇が滑り込むのに続いてゲートを潜ろうとしたとき、先に入った数台が前方でおかしな動きを見せた。

「危ない!キッド、避けて!」

 お町が声をかけてくれた時には俺もすでにコズモワインダーを壁際に寄せようと踏ん張っていた。柱の陰にかろうじて体が押しつぶされない程度に入り込み、頭をすっこめてやり過ごす。何をって、入り口のはずのゲートから飛び出してきたバカ野郎をだ。

「あれって、ガリコネで一番早い機体じゃない!」

 嫌な予感。

「ポンチョ!!今どこだ?十分経ったぞ!」

「ここーっ、ここでげすーっ!あれーっ、アレでげすーっ!連れ去られたでげすーっ」

 バカ野郎の後からよろよろと危なっかしい操縦のポンチョの宇宙艇が出てきた。やっぱりだ。

「アイザック、やられたわ!こっちは間に合わなかった!ボウイちゃん、ガリコネのSS-01よ!ブライサンダーでいける?」

『無理にきまってんでしょーがっっ』

「そう言わずに助けてやってくださいよっ、ねっ、ねっ!相当な記憶力の持ち主なんでげす。それより本人がもう、オメガだろうがガリコネだろうがコネクションは嫌だっ、、って!ね、ねっ?!」

『あーっったくもうっっっ!!』

「アイザック、長期戦に切り替えるか?地味に尾行してさ」

『いや、私たちももう基地を出ている。J区の外輪、00-53から54の宙域で狩る』

 コズモワインダーではちっとキツイ距離だが仕方ない。どこかのガリコネ基地から応援が出たとしても俺たちの狩りが先に終わる、そんなぎりぎりのラインだ。
 ごみごしみたJ区中心部を、俺とお町としては満点に近いスピードで抜け出す。ポンチョがずっと後方からついて来ながら、くれぐれもよろしくとまだ言っている所へ、通信室から様子を窺っていたのだろうメイが割り込んで依頼金の交渉が始まる。とっくに俺たちを追い抜いているブライスターからはずっとボウイが文句をたれているのが聞こえていたが、ここに来てイライラの矛先が依頼金の金額にすり替わったらしく、メイとタッグを組んだので、俺とお町も便乗して、あっちを応援したり、こっちに旗を振ったり。そんなこんなでハンティングフィールド。

「みぃーつけたっ。さすがボウイちゃん、追いつくだけじゃなくて上手いこと誘い込んでるじゃない」

 アイザックの猟場選びも上手かった。直線スピードだけが取り柄のその機体は隕石の密集した区画に追いやられ、どう抜け出そうとしてもブライスターに先回りをされて立ち往生している。とんでもなく上手いのはボウイだ。威嚇のビーム一発すら撃たずにガリコネ機をてんてこ舞いさせたあげく、隕石の一つに自ら着陸させた。
 俺とお町はコズモワインダーで加勢するまでもない。投降して機体から出てきた奴を取り押さえた程度だ。






  ポンチョと二人で保護した男を安全と思われる場所まで送り届け、周辺の状態やいざという時の移動先とそのルートなど、いくつかのことを確認していた俺が一人遅れて基地に戻ったのは、数時間後のことだった。
 大がかりにスライドするゲートは使わず、脇にあるサブゲートをくぐると、格納庫にはコズモワインダーが一台戻っているのみで、ブライサンダーが無い。首を傾げながらセンタールームへ行くと、お町とアイザックがメインの大型スクリーンに見入っていた。スクリーンで点滅している緑の点はブライスター。ちょうど火星軌道に差し掛かる様子が見て取れた。

「なに?あれ」

 スクリーンへ顎をしゃくって説明を促すと、二人は目を見交わして変な間をあけた。先に口を開いたのは結局アイザックだ。

「戻る途中、シンクロンが解除できなくなった」

「なんだって?!」

「おやっさんの都合なんかまっちゃいらんない、このまま直行する!って、、あたしたち途中でほっぽり出されたのよ」

「出されたって、、アイザックまで大人しくほっぽり出されたのかよ?!」

 トラブル抱えた機体にボウイだけ残して?

「ほんとにまずいんならビームロッドでボウイちゃん気絶させてでも一緒に脱出するわよ。ねっ、アイザック」

 言わずに納めた言葉を、聞き取ったかのようにアイザックをフォローするお町はお気楽そうな声。

「信用していいんだろうな?」

「おやじさんの仕事を邪魔しないかが気がかりだよ。私用でレンタルした長距離艇があるから、行ってみてはくれないか。ボウイが納得して帰ってくるまで、どのみち休業だ」

 イマイチ危険度が読めないでいる俺にアイザックはゆったりと肩を竦めて見せた。





 勝手知ったる秘密工場、中二階の通路で手すりにかじり付くようにして工場を見下ろしているボウイを発見。
 俺が来たのは知ってるはずなのに、こっちから探し出すまで顔も見せない。ンの野郎、、ここに来るまでどんだけ深呼吸繰り返したと思ってやがんだ。
 シンクロンの解除が利かない理由が不明のまま地球まで飛ばしてくるとか、ほんとバカ。お町もアイザックもすっとぼけた顔しやがって、何が「私用でレンタル」だ。ボウイを追いかける準備、できたてホヤホヤだったんじゃねえか。

「お前な!危ない橋は最低限にしとけよっ」

「渡りきったもんねー。無事だぜ?オ・レ・は」

 わかってたって言うか、そんな気がしたって言うか、、それでも思ったよりくるモンあるな、、ボウイに歓迎されてないってのは。

「ずっと見てんのか?よく飽きないな」

「おやっさんにコントロールルームから追い出されたんでね。ま、飽きはしないけど、キッドさんが来てくれて良かったわ。子猫ちゃんと駆け落ちしたくなりはじめてたとこだ」

 さ、、させるかよ、駆け落ちなんか。あっ違う、駆け落ちじゃない。それは持ち逃げだろうが。

「シンクロン装置とっぱらってさあ、、武装もぜんぶ無くしてみたらさあ、、あいつ、どんなコになるんだろうな、、」

 くっそ、、、言いやがった。俺、必要ねえじゃねえかソレ。

「なんでこう、もっと上手に扱ってやれなかったかなー。こないだの天王星なんてほんとヒドかった。いや、、、もっとずっと、最初からさ」

 確かに天王星は酷かった。魚のバケモノみたいなあのメカには随分食らっちまった。アイザックだって一段高いシートからヒラリとはいかずに、掴まりながら下りてきたしな。お町もしばらく突っ伏したままで俺たちを焦らせた。
 あれでうちの愛機は調子が悪くなった。ボウイが俺を放置しだして、アイザックが眉間にしわ寄せて。おやっさんのスケジュールが空くまで、デカイ仕事はやめとこうって、言ってたところだった。ブライガーでの戦闘がなければ大丈夫だと、俺は思ってたんだけど、この騒ぎだ。

「あっ、、悪ぃ、愚痴聞かせちまったわ。流して流して?」

 やっと少し、こっち向いたか。

「て、ゆーか、、キッドさん、もしかしなくても、心配してくれちゃった?」

「俺は、、、俺が、お前に用があって来た」

 心配もしたし、腹も立ったし、愚痴だって一回くらいなら聞いてやるけど、俺は俺の用がある。
 でもな、切り出しづらい。俺の用件を聞こうとしてるボウイのぽかんとした顔ったら、とてもじゃないがやっと見つけた本音の銘々式をやる雰囲気じゃない。どう言い出したらいいもんか。

「あのぉ、、どったの?キッドさん?俺ちゃんに用って、、」

「あー、、あ、ぃ、、!あのさ!で、、っ、デート!デートしようぜ」

「で、、、、はあっっ?!デート?、、って、デート?」

「そう、それ」

「いまさら????」

「ん、今更」



 言い出しておいて勿論プランなんかない俺に呆れながら、ボウイはおやっさんから地元情報を聞き出してちゃっちゃと段取りを決めていく。
 おやっさんがこっそりこっちを見て親指を立てた。そのつもりではあったけど、何が何でもボウイを連れ出せと、おやっさんからもプレッシャーかけられてたんだ。おやっさんもホッとしたろう。ボウイが居なくなりゃ機械に任せられる部分は任せて、他の仕事ができる。
 使ってない機体があるから貸してやると言われ、ハンガーを覗く。埃をかぶっている単座の戦闘機は正規軍の二世代前のやつだ。どこかの超高級リゾートでシャトル便として話題になった球体ヘリもある。大小の宇宙艇から、無骨な建築用重機までごちゃまぜのハンガーの、奥から二番目にあったその機体は金属の地色むきだしの無愛想な、、試作機、かな。
 ブライスターより一回り小振りでシートは六名ぶん。ちょっと狭苦しいコクピットで、俺たちは唸ってしまった。ただの移動用じゃなくて攻撃機なのはわかっていたが、、あまりにも馴染み深い配置の計器類、レーダーシートに、ブラスターシート。

「おい、、これ、、」

「ドッチだとしても、、おやっさんに任せとけばいい、そういうこった」

 ドッチ?、、あっ!!、、そうか、てっきりブライスターを作った過程での試作機かと思ったが、逆の可能性もある。つまり発展型、新型のための試作って可能性。


  


 マラカスを持って踊り出しそうな柱サボテンのゲートをくぐり、土産店が並ぶメイン通り。店の雰囲気は西部劇風。並んでいる土産物は骸骨のモチーフがやたら目に付くが、とにかくカラフルだ。遺跡とテキーラのテーマパーク。
 思わせぶりな試作機に探りを入れてるボウイに遠慮して、移動中はほとんど話もしていなかったが、ここへきてさすがにボウイがそわそわし出した。周りにいるカップルに目を止めては俺をちら見する。

「これ今、デート、、、してる?」

 思い出したらしい。俺もカップルを見て、俺のではない別の用事を思いだした。

「正真正銘、デートだぜ?でもその前に、悪り、伝言、忘れるとこだった。ステラから、ごめんなさいって、さ」

「ステラ?!連絡あったの?!」

 彼女の名前に飛び上がるような反応。ケリーからの経由だと聞いてわかりやすくがっかりしてる肩のライン。

「久しぶりにちょっとへこんだわ。悪気がないのはわかってっけど、ね」

 中央広場から賑やかなアトラクションのある方へは背を向け、併設のホテルにチェックインを済ませる。ボウイはホテルの部屋じゃなくて敷地内に点在するコテージをうまいこと確保していた。
 サボテンに囲まれた小道を何組かのカップルとすれ違いながらコテージに向かう。ボウイが言うには、ステラはつい最近になってからボウイの素性を知ったのだとか。
 ステラの混乱ぶりはちょっとわかる。街で出会ったチャラいお調子者は真面目な彼女にとっては危ないアウトローで、でも弟を助けてくれた恩人で。それだけでもギャップとしちゃあ充分なのに、実はモータースポーツ界のトップに立った男だった、と。

「軽々しく車貸した俺が悪かったのよ」

「車?」

「引っ越しの役に立てばと思って。軽率だったわー。彼女、あっちゅうまに擦っちゃってさ」

 うわ、そりゃ誰でもビビるだろ。飛ばし屋ボウイの車だぞ。俺だってぜったい嫌だ。それで「ごめんなさい」か。

「肩書きですり寄ってくるのも、肩書きで距離取られるのも、おんなじ事なのよねー」

 ああ、そういうへこみかた、、。

「ケリーの方はすっかりお前に懐いたのにな」
 
 ステラはいい娘だけどいい子すぎたなんて、妥当な慰めを考えちまう自分がみっともねえ。本当はホッとしてるのに、それを出せずにこっそり思ってるだけの自分が許せねえ。
 何のためにここまで来た?ボウイが一人ですっ飛んで行ったの聞いてどんだけ焦った?言わなきゃならねえ事あるだろ。ひとつ違ったらボウイは地球に到着できなくて死んでたなんて可能性を、来るまでに何回も考えたくせに。自分で言い出したデートくらい、正面からボウイのこと、、、よく考えたらボウイの奴、あんなこんなで踏んだり蹴ったりじゃねえか。
 よーし、少しアゲてくぞっ。次に誰かいい娘が現れたとしたら、そん時ゃ割って入って文句のひとつくらい言えるようになってやる。
 とか思った矢先。

「ところでキッドさんや?看板か横道、、途中で見なかった?」

 え、、?

「ここってば、どこ?」

 迷った。


 そこから先が大変だった。大変だったのではあるけど、それが逆におもしろくなっちまってた。温室群を見つけて近寄ってみれば植物園のバックヤードだったと言っては笑い、テキーラ工場の見学コースにうまく乗っかれたと思ったら俺たちだけ倉庫に取り残されてて爆笑して、パフォーマーに捕まってソンブレロ被せられたら自分でも吹き出すほど似合わなくて笑い転げ。
 おかげでテンションは上がりっぱなしだったが、ボウイが展望台を見つけた時にはコテージを探すのを忘れたまま夕方になっていた。
 疲れたと騒ぎながら、幅広でリーチの合わない階段をポンポンとボウイが先にいく。早く来いと言いたげに振り返るシルエットから風で煽られた帽子が飛んで俺の足下に落ち、拾い上げて追いつくと、ボウイはもう石造りのベンチに仰向けで転がっていた。

「はーーっ、きもちいーー。休憩、休憩!」

 展望台と言っても建物はなく、ちょっとした高台のてっぺんを円形広場にしただけ。右手にはさっき工場で覚えたばかりのテキーラの原料、テキラリュウゼツランの畑が広がり、反対の足下には遺跡が見えた。
 ピラミッドじゃなくて良かった。正直な感想だ。マヤとかインカとか区別は知らないが、見えているのはそう言ったイメージとはかなり違って、普通に人が暮らしていた家の土台部分ぽいのがいくつも並んでいる。むしろギリシャやローマの古代の町並みの、石じゃなくて土で出来たバージョンだ。
 大剣を束ねたようなテキラリュウゼツランが刺々しい姿で並んでいるのと、風化で角が無くなっている遺跡の丸っこさが、なぜかちぐはぐに見えない。目を少し上げると、地面が透けて見える程度にスカスカの灌木が生えた平らな大地。遠くに低い禿げ山が見えた。

「ブラスターのせいかな?」

 いつの間に跳ね起きたのかボウイが近寄ってきた。

「こんな景色もわりと似合うじゃん。西部劇ぽいかも」

 どっちかと言えば宇宙暮らしの方が気に入ってるが、せっかくだからくるくるとガンスピンをして見せてやる。ボウイは素直に喜んで口笛を吹いたけれど、さっきの階段をちょうど上ってきていたカップルはそそくさと回れ右をして下りていった。
 ああ、そうだった。ここはJ区じゃない。銃を見せびらかして喜んでるようなヤツと一緒に居たいとは、普通は思わないだろう。
 その普通を飛び越えちゃったヤツが俺を抱きしめる。

「これくらい、いいんだろ?デートだもんな」

 声だけは、NOと言いづらくなる程度に堂々と。その割にまるですがりついて来るような。俺の背に合わせて縮みたがってでもいるような。

「ちょ、、キツい、、」

「あ、悪り、、」

 捕まえたがってる。

「放さなくて、いい。このままで」

 ゆるめられた腕の中で大きく息をつき、改めてボウイにもたれかかる。心地いい。心臓は少しばくばくしはじめたけど。

「お前に、言わなきゃなんねえ事があるんだ」

 俺の喉、ちゃんと働けよ。

「あー、、っと、、あのな、ボウイ、、、」

 ピロリロ、ピロピロ、、、、、電子音の邪魔が入り、心臓ごと体までビクっと跳ねた。釣られてボウイまで両手あげて万歳だ。目がまん丸。
 電子音のモトはホテルから渡されてた端末。早くコテージにたどり着け、とさ。




 
 


 さんざん寄り道をしまくったので残された方に向かえばいい。そこはホテルと植物園との間のエリアで、、、だと思った。目的地に背を向けて一周したってパターンだ。
 遺跡の住居を復元した風の、ぱっと見は土で出来てるようなコテージが木々やサボテンの間にちらほら見えてきた。少し開けた場所にとびきり巨大な柱サボテン。その周りには見上げるほどでかいクリスマスに飾る赤いアレ、、、えと、セントなんとか、、違うな、ポインセチア、それだ。
 どうやらここがエリアの中心広場のようで、そこかしこにカップルがたむろしてはサボテンばかりじゃない色とりどりの花なんか眺めてる。十人ほど、闘牛士に似た民族衣装の男たちが楽器を手にして集まっているのはマリアッチだ。伝統の楽団のスタイル。これからここで演奏だろうか。ちょうど来あわせたならラッキーなんだけど。

「あちゃ~、晩飯も両方来ちゃってる!キッドさん、サインしてメシ受け取っちゃって!」

 デリバリーのスタッフが玄関前のウッドデッキで途方に暮れている12番コテージに近づいた途端だった。方々から歓声が上がり口笛が飛び交う。演奏が始まるものとばかり思って振り向いた俺は、、二、三歩も後ずさるほど驚いた。
 てんでに居合わせただけだと思っていた人々が、みんなこっちを見ている。口笛も、歓声も、俺たちに向かって、だ。

「な?!なに、、、」

 唖然としているボウイ。俺たち以外に視線を集めている何かがありはしないかと、咄嗟に見回したが何もない。

「マリアッチより後に来る人も珍しいけど、幸運をね」

 デリバリースタッフがやけに優しい笑顔でそう言って去ると、いよいよ俺たちだけが注目の的だった。楽団の連中が向き直って楽器を構える。

「さあ、始めようじゃないか今宵の勇者!遅刻のおかげでこんなにギャラリーが増えてしまったし、二人そろって来られたのではサプライズにならないだろうが、観客はみな優しいさ!」

 サプ、、ライズ?、、、、マリアッチ、、って、、!!!

「両方?!ボウイお前さっき、両方って言った?!お前がマリアッチ呼んだのかっっ!!!」

 胸ぐらをつかんで怒鳴ると、今度はギャラリーがどよめいた。

「どっちも男かよ、、!」

「やだ、カワイイっ、美形ーっ」

「マジで勇者だな!」

 くっそーくっそーくっそー!顔から火がでるっ。こいつら何でいまごろ気づくんだよっ胸とかぜんぜんねーじゃねーかっ。

「ききき、キッドさん、頼んだ。コテージなら楽団よこせるっつーから俺ちゃん頼んでみた。け、けどこれなに?いったいどーしてそれがこんな騒ぎになっちゃうワケ??」

「ばっ、、ばっかやろうがっっっ!」

 胸ぐらをつかんだまま玄関前に広がるウッドデッキの、隠れようもないが柱の影へ引っ張ってきた。

「セレナータ!!!!セレナータってんだよこれは!女の部屋の窓の下で!マリアッチ引き連れて!熱烈っっに告白とかプロポーズすんだよ!伝統の告白のお作法!どーしてくれんだお前コレっっ」

「ど、、、、え、、ええーっっっ!」

「えーっじゃねえよっ」

 柱の影でもぞもぞバタバタしてる俺たちにギャラリーは容赦ない。

「喧嘩か告白かどっちなんだー?」

 ゲラゲラゲラ。

「がんばれよー」

 やんややんや。

「カップルなの?違うの?男ならハッキリしなさいよーっ」

 耳に飛び込んだその女の声がひどくお町に似ていて、二人そろってギョッとギャラリーを見回した。
 もちろんお町が居るはずもない。けど、、見回して目が合ってみれば、どいつもこいつも口で言うほど嘲笑してるわけじゃないのが、わかる。本気で告白を応援したくて、、、幸せを祝福し、その瞬間を分け合って。そんな優しい目をしたやつばかり。
 ボウイが大きく肩をすくめて掴んだままだった手を外された。ボウイ、、、肩から力が抜けちまってる。

「ごめん、俺ちゃんちょっとやってみるわセレナータ。キッドさんに恥かかせたかないんだけどさ、、なんか、、ここの人らさぁ、、」

「ん、、」

「ほんと、反省してる。後でいくらでも怒っていいから、少しだけ姫役、耐えて」

「、、、ん」

 他にどうしようもないと思う。というか、俺もそれがいいと思う。
 ほんとなら歌ったり自分でもギター弾いたりするんだったと思うが、セレナータすらわかっていなかったボウイにそれは無理だ。それでもボウイがデッキを下りて、待ちかまえているマリアッチの連中の方へ行く。頭をかきながらギャラリーにまで愛想をくれて。ボウイなら歌えなくたって何とかしちまうんだろう。とんだハプニングだけれど、俺に愛を告げるのなんかお茶の子だろうし、嘘ではないのだし。
 嘘ではない、、けど。
 演奏が始まる。ギター、ギタロン、ビウエラ、、、バイオリンにトランペット。ノリのいいリズムに、底抜けでもない明るさ、そして情熱。
 俺に向かって進み出たボウイがほんのちょこっと、ため息でもつきそうな顔を見せた。おいおい、お前、、片膝つくつもり?なにもそこまで、、しなくて、、も、、。
 そうだ、、しなくていい。ボウイはこんな事しなくていい。

「ま、待った!」

 デッキから飛び降りてボウイを引き起こし、ウッドデッキに押し上げた。
 遅刻するわ揉めるわ、そもそもマリアッチ呼んだのが間違いだわでグダグダもいとこだけど、サービス精神でやる小芝居なんかじゃないのを見せるから、それで勘弁してくれ、優しい目をしたセニョール&セニョリータ。

「ボウイ!!」

 ふざけてたって、怒ってたって、お前の「愛してる」はいつも本気だろ。それ以外聞きたくない。

「愛してるっ」

 演奏に負けない大声で。

「オマエを!あいしてるーっ!」

 途端の大歓声。と同時に真顔のボウイがすっ飛んできて腕を捕まれ、あっという間に俺はコテージの中に放り込まれた。
 ドアの外に向かってボウイが声を上げる。

「返事はイエス!!当然だろーっ?演奏、中で聞かせてもらうから頼むぜ!さあ、兄弟!あとはそれぞれ楽しんでってー!」

 バタンと、閉まったドアに向かってボウイがすーっと息を吸う。そして一気に。

「なんで?なんで、そんな無理すんの?今まで一回しか言ったことないようなセリフ、そんな顔赤くして無理矢理に怒鳴るみたいたにさ!なんなんだよ!俺、要求した?してねえよな?言って欲しいなんて要求してねえよな?」

「ボウイ、、ちょ、、」

「そりゃ子猫ちゃんのことではマジ寿命とか考えたし、ずっとやってけるわけじゃないとか、どんだけ稼げばモトがとれた計算になるのかとか、、」

「無理ちが、、」

「そもそもアイザックがどんな見通しでいたんだとか、おやっさんと一致してんのかとか、色々いっぺんに考えすぎてワケわかんなくなってたよ?だからって、、」

「待っ、、」

「だからってさ!キッドに言いたくもやりたくもないような事してもらわなきゃなんねーほど落っこちちゃいねーよ!」

「黙れっつってんだよ!!」

 ゴリッと、思わず引き抜いたブラスターをボウイの顎の下に当てた。ちょっと顎、痛いかもしれない。
 条件反射のように両手の平をこちらに向けてボウイが黙る。テンポの速い三拍子の曲になっていた演奏が耳に届き、点になっていたボウイの目がふと和んだ。

「良かった、、キッドさん、普通だわ」

「、、、ヘンタイだろお前。銃つきつけられて良かった、って」

「どばっと言い過ぎたけどさ、だって変だろ?妙にサービス良いし、機嫌良すぎるし。用があるとか言わなきゃなんねえ事とかもったいつけてっからさ、俺、途中で別れ話かと疑ったもんよ。それでもってコレだろ?結局なんなのさ?言いたいことって」

「、、、、、サッキ、、イッタ」

「え、なに?」

「さっき!外で言った」

「、、、、、、、、、」

 ボウイはしばらく固まってから、ぐだっとその場にしゃがみ込んだ。頭を抱え込んでなにやらぶつくさと、、。
 君なしでは息もできない。君は僕のすべて。愛していると言っておくれ。マリアッチの演奏に乗せて歌われているのはそんな情熱的な言葉ばかり。片や俺は「愛してる」なんてビギナーの一言さえ上手く扱えなくて、いつまでも後回しにしたり、力みすぎて混乱させたり。
 白地に緑だけで素朴な柄の描かれたタイルの床で、ボウイはそのまま膝をついちまいそうだし、俺はテキーラもまだ飲んでないのにマリアッチで酔いそう。

「俺ちゃん、なんかヘンなジェットコースター乗ってる気分、、酔いそう、、」

 ここでテキーラ差し出したらマジギレされそ。

「いつから、、乗ってた?デートだとか言い出してから?それとも俺ちゃんが勝手におやっさんとこ向かってから?」

 しゃがんだまま俺に向かってボウイの腕がだるそうに上がる。ひきあげようとその腕をつかむと、嫌になるくらいそれでホッとしている俺がいた。

「軌道の曲がるブラスター。覚えてるか?」

「あの晩、か」

 派手な伝統色のカバーが掛かったソファにどさりと座り直して、けっこうな日にちが過ぎちまってるのに、ボウイは思い出す程の間も置かずに口にする。
 ズルいだろ。今に限って素っ頓狂に驚きもしないなんて。
 ずっとズルいまんまだった俺は部屋の中で突っ立って、愛よりもっと言いにくい懺悔の言葉。

「最初にお前に抱かれた時、俺、一回だけ言ったけど、、本気じゃなかった」

 俺のリセット。

「ちっ、言っちまいやんの」

 そっぽを向いてそう言って、横目で睨む視線が刺さる。それでもボウイは次の瞬間には笑い飛ばす。ズルいよお前は時々。

「ちゃらだ。俺は俺で、あん時、とんでもない開き直りさせてもらってる。これっぽっちも忘れちゃいないぜ。これでやっとちゃら!」

 それが、お前のリセット?それだって原因を作ったのは俺なのに。

「人が、、好すぎる」

「こんなの、、ありふれたくれいじーふぉーゆーってやつだろ?いつまで立たされ坊主やってんのー?こっちきて座わりなって」

 偉そうにソファーに片腕を広げて、指先だけはチョイチョイとふざけて俺を呼ぶ。 
 見かけより質のいいソファー。借りてきた猫みたいにおとなしく腕の中に収まって。せっかくテキーラの本場だけど、今はもう少し、素面でこうしていたい。

「間違いないのはさ、もうお前を手放せねえなって事で、、、なあ、これって本当に「愛」で合ってる、のか?」

 肩を抱かれてふっと気が抜けたとたん、俺の口から出たのは当のボウイに訊くか?という馬鹿な質問。

「間違いなく、、なんだって?」

 低いトーンでそう言って、ボウイが真顔でみつめてくる。余裕ありげにまっすぐのぞき込んでくる癖に、目の奥は何かに耐えてるみたいに揺らいで。

「お前を、、手放せない、、、」

「言えるじゃん、、とびきり上等の、殺し文句」

 音楽は止み小さな小屋みたいな部屋、ど派手な布の上でボウイにただ抱きしめられて。会ってからずっと、これっぽっちも減らない熱量で俺のことを好きでいてくれてるコイツに、やっと俺も追いついた。ちゃんと捕まえられてやれるところまで、きた。

「どんだけ、、時間かけてんのよ。こんなドタバタまでしてさ。ハートは熱いし体は度胸あるし、言葉で言うだけがチキンなの?意味わかんねーよ」

「チ、、、っ、、」

 い、、言い返せねえっっ。

「ウソウソ、キッドさんの愛ってば規格が厳しすぎるんじゃねーの?そのぶん純度の高くて濃厚なの、もらうけどね。ま、あんな怒鳴られたんじゃ実感わかねえから、とりあえず「愛してる」の乱射でも頼むわ。甘口で」

「カンタンに言うなよ、慣れてねえからこのザマだってのに」

「なれ?、、、慣れ?!そんだけっ?もう一回言うわ、キッドさんチキン!わかった、こりゃ練習するっきゃないだろ。あー、いい方法知ってるかもっ」

 俺の耳元に口を寄せて、ボウイのおばかな提案。

「ハメっ、、!」

 ながら言えだと?!

「そんくらいの強行練習のほうが効くって。練習なんだからさ、ぜんぜん棒読みでも許しちゃうし。言えるまで抜かないで動かないでつき合いマスってー」

「脅迫じみてねえかお前」

「どこが脅迫よ?怖いことないのよー?俺ちゃん優しいもん。いや、まじで約束する。ふざけるのも悪ノリも無し。優しくするぜ?」




  

 おやっさんから別の一機を借りて東へ向かう俺の周りを、ボウイは例のブライスター風試作機でぐるりと一周ロールさせて追い越し、垂直上昇、インメルマンターンで戻っていった。おやっさんにうるさがられるような事はもうないだろう。
 あのテーマパーク内では気恥ずかしくて外を歩けない有様だったので早々に引き上げてきた。まったく手前勝手なハナシ、人前で堂々と、特に知ってる奴の前ではコイツは恋人ですなんて言える気がしない。今はただ、ボウイだけがわかってくれていれば。
 エヴァに、会ってこようと思う。ルチアーノとの最後の時間を俺の勝手な判断で減らしてしまったこと、改めて謝りたい。
 ヤツが人生の最後に彼女を遠ざけたがった気持ちは今でも分かるけど、その最後の時間、エヴァはただ泣きすがりたくてあそこまでやったわけじゃないと、今は思う。
 ルチアーノにも墓くらいあるだろう。それが殺しの報酬で建てた墓だとしても、花束と、、そうだな、ミルクかな。
 俺の先を生きて、先に逝った男。奴を目標にした頃もあった。でも、最後の最後、俺はボウイを遠ざけないだろう。恥ずかしい生き様だったとしても、惨めな死に様に終わったとしても。今はエヴァが、その道を細く照らす。

「J9基地どーぞ。こちらキッド。通信室、だれー?」

『あー、やっと連絡よこしたわね?』

「お町か。やっと、って何さ?おやっさんとアイザックでちゃんとやりとり出来てるだろ?」

『もちろん、エドモンのおやじサマから聞いてますよぉ?二人でリゾートウエディングの下見に行ったんですって?』

 りぞーとウエディ、ン、、、

「はあっ?!何だよそれ?!いったいどういうこった?!」

『え、行ったんでしょ?テキーラの工場がある所。挙式の人気ランキングでいつも上位争いしてるわよ?』

 あ、あ、、あンのハゲおやじーっっっっ!!

『どうだった?周り中カップルに囲まれてボウイちゃんとうっかりそんな雰囲気になったりしなかったー?』

 カップル!!そうか、そうだ、カップルだらけだった!ああ!セレナータ!

『まさか、ぜんぜん気がつかないで普通に遊んで来ちゃったの?』

「、、、あー、そうですよ!悪かったな、ニブくてっ、ぜんっぜん気がつかなくてっ。ボウイと二人でバッカみてえにギャハギャハ笑ってましたっつーの!」

 案外、口からするする出たな俺。ボウイとはもともとそんな雰囲気だし、そもそもデートだったけど、気がつかなかったのは嘘じゃないしなっ。

「周りにアテられて顔赤くしてるかと思ったのにいぃ。何というお子さまぶりなのキミタチは?」

「好きなだけ揶揄えよ。ったくもう、、、」

 勝手にしやがれ!だ。

                 end

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