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ガザに暮らす18歳からDMが来た


ガザに暮らす18歳、Aya(エイヤ)

6月13日の16:00くらい、Instagramに知らないアカウントからDMがきた。「なんだろう」と思いつつ、フォローされたタイミングで「ガザに住む人かもしれないな」と気付いてはいた。というのも、パレスチナへ連帯を示し、運動をしている人たちが「現地に住む人からDMで『寄付をしてくれないか』と連絡が来ることがある」と発信していたから。そしてやっぱり、ガザに暮らす人だった。彼女は、18歳のAya(エイヤ)。避難生活を送っている、寄付をしてほしいという内容だった。

このあと、代理でクラファンを立ち上げた日本人の方とも連絡を取りました

そこから私の泣けなしの英語力(ぢから)&Googleでテキストとして成立してるか翻訳かけながらのやりとりがスタート。Ayaの家族は両親と自分、そして祖父母。元々暮らしていた家や町は爆撃で壊滅状態になり、安全と言われていた地域へ移動してきたけれど、そこも安全ではなかったこと。いまは友人からの援助で購入した新しいテントに、親戚家族と共に15人で暮らしていること。日々の生活と自らの進学のために、寄付を集めていること。エジプトへ行き、医学を学びたいこと…やりとりを重ねれば重ねるほど、18歳が背負うには大変すぎる金額と責任に、腹立たしさはどんどん募る。もちろんAyaに対してではなく、民間人を狙う非道な軍に対して。

クラファンを呼びかける日々のスタート

クラファンページのテキストから引用したテキスト

代理人の方に少額ながらお金を託し、Instagramでドネーションの呼びかけをスタートしたのは、6月14日の夕方くらい。イラストも用いた投稿用の画像9枚を午前中に作って、代理人の方とAyaへ送り確認、夜には公開。「この投稿、どうやって受け取られるだろう…」という不安もありつつ。というのも、具体的な顔は誰一人思い浮かばないのに、「なんかあいつやってんな!」と冷笑してくる仮想敵の嘲笑や攻撃を受けそうな気もしたから。良いアクションをするとき、冷笑してきたり、なぜか上から目線でアドバイスしてきたり、達観したように無駄だと決めつけてくる人が、けっこう最近まで周りにいたからかもしれない。

InstagramとXに投稿した画像

でもそんな不安とは裏腹に、いろんな人が投稿を見て、拡散してくれた。投稿してすぐ、友人たちの名前がchuffed.ページに表示されたの、本当に嬉しかったな。これを読むかはわからないけど、本当にありがとう。その数日後にXでも同じ内容を投稿。こちらも友人たちがリツートしてくれたおかげで、私の交友関係を超えて色んな人たちがこのドネーションへ参加してくれた。本当にありがたかった。ここのところは、ほぼ毎日ドネーションページに表示される友人たちの名前を眺めて、ちょっとだけ嬉し泣きしたり、ニコニコしたりしている。

受け止めきれない2000キロメートル先の不安

そんなこんなで、先週今週は急に2000キロメートル離れた国からのSOSに応答することに日々を費やした。SNS投稿、友人からの個別連絡への返信、そして彼女とのメッセージのやり取り。ほぼ毎日Whatsappでテキストを交わしつつ、いつも最終的にはドネーションでもっとお金を集める必要があるという話になる。「友達に話してくれたか」「この投稿をシェアしてくれないか」「ナナコはどれくらい寄付してくれる?」だんだん、お金のことばかり言ってくることにイライラし始めたこともあった。「ごめん、私ぜんぜんお金ないんだ」「友達に連絡したよ〜」と何度メッセージしただろう。私だってやれることはやってるよ!という苛立ち。けれど、よくよく考えたら彼女にとっては生死を分けるのだ。将来を左右するのだ。人を助けた気になった私の浅はかさが恥ずかしかった。

思い描いていた彼女の将来はこの一年ですっかり真っ暗になってしまった。18歳なんて、これからどんな大人になるかめちゃめちゃワクワクする時期だし、親元から離れて大人として自己を確立する準備期間とも言える年齢。そんなときに、自分の暮らしが足元から崩れ、高騰する物価で食べ物すら買えない日がある。生活のためにお金を集めても、家族を養うことに消えていく。爆撃に怯えている間に、自分の将来がどんどん消えていくような気になる…

こんなに人道的危機に陥っているのに、それでも資本主義ゴリゴリな世界で彼女たちはお金がないと生きていけない。これって本当に、この世界の機能不全だと思う。保護されるべき人が自分たちでお金を集めている状態、自分たちで生活の安全と心身の健康を保たねばいけない状態。健康で文化的な最低限度の生活すら保障されないまま、テントの中で、私に必死にメッセージを送っている。わかってたけど、わかってなかった。それがこの二週間で、わかった。

私は無力じゃない、けれど私だけではどうしようもない

経済的余裕はまったく無く、知名度もあるわけではない自分。それでも個人が必死で動くことは無駄じゃない。今回のことでそれを強く感じてる。けれど一方で、自分一人では何にもできないことも痛感している。心強い友人たちが寄付をしてくれたり、拡散してくれることでドネーションしてくれる人も増えた。みんなの生活が決して潤沢じゃないこともわかってる、それでもそこから幾らかを捻出してくれるありがたさに、毎日心を救われている。寄付は難しくても、拡散してくれたり、いつも見てくれてる友達にも本当に感謝してる。

それでも、クラファンは€か$換算。円安のおかげさまで、ぜんぜんお金は足りない。じゃあ、先陣を切って運動をしている人に助けを…と思っても、彼女彼らはすでに色んな人のサポートをしたり、寄付をしている。だからその人たちにもっと頑張って!こっちも手伝って!と言える状況じゃない。

そうやって日々手詰まり感が募る一方、お金があって影響力を持ってる人は、全くもって私や友人たちの発信には反応しない。私が有名な雑誌やイベントでイラストを担当したり、著名人に取材したりすると、すぐ連絡が来るのに。すーぐいいねするのに。不思議ですね〜〜。今回のことで改めて、本当にお金を持ってるけど社会的な運動に無関心を決め込んだり冷笑したり”中立”という言葉だけを頼りに思考が停止してる人間が心底嫌いになった。お金を分けろと言ってるわけじゃないが、資本を多く持っている人間こそ世界に対して解像度高く、優しくあってほしいとなぜ私が願わなきゃいけないんだろう。

差し伸べられた手を、取ったあと(寄付リンクあり)

あんまり出口を考えずに、自分の葛藤と気づきと何より18歳の子どもへの心配をどんどこ書き連ねた。自分のことを編集者として俯瞰で見れないくらいには、割とキャパオーバーなんだと思うし、マジで手詰まりなんだと思う。だけど、だからと言って手を離すわけにはいかない。彼女をサポートする人は世界中にいるだろうし…なーんて誰かに任せてスッキリ眠れるほど、割り切れる人間でもない。このメッセージの向こうには、2000キロ離れた土地で暮らすティーンエイジャーが不安を抱えてる。子どもを守ろうと動けないやつが、何が編集者だよ。メディア制作だよ。イラストレーターだよ。そういう、自分のアイデンティティのためにも、私は動き続けたい。

これが、Ayaのクラファンページ。Twitterで最初にお知らせしたChuffedとは別に、Aya家族のみのために設立されたもの。どうか、もし少しでも心を寄せてもらえるなら、リンク先へ飛んでもらいたい。noteは購読したり、記事購入をする機能があるから、普通のSNSよりも「お金を誰かへ渡すこと」に慣れてる人が読んでいるのかな、と勝手に思っている。実際のところはどうなのか、期待し過ぎているかもしれないけれど。でもどうか、良い記事を読んだ後に500円を贈る気持ちで、Ayaにもドネーションしてもらえたら嬉しい。難しければ、リンクを拡散してほしい。

ドネーション手順①
ドネーション手順②
ドネーション手順③

2000キロ先のティーンエイジャーと、これからも

今日もまた18歳とメッセージのやり取りが続いてる。18歳のテキストコミュニケーションは超早い&即レスが当たり前で超大変だ。これは自分の高校時代を思い返してもそうだったなと思う。世界中のティーンってそうなんだろうよ。おまけに大人とのやりとりなんて全然したことないから、ふつうに失礼な表現になってることもある。英語はもちろん上手だけどやっぱり第二言語として習得途中だから、細かいニュアンスはボロボロ抜け落ちる。私自身も棚に上げるつもりはなく、同様。だから正直、「どっちかがもう少し英語上手ならな〜」とか「これが24歳とかだったらもう少し計画的にできそうだけどな〜」と思う日もある。

だけどもう、しょうがない。彼女は18歳だから。お金をどうやって集めるか、どんな方法が的確なのか、そんなことまだ学んでないし習得してない。だから真っ直ぐ「お金がない!」と頼れる人を探しまくるしかないわけで。だから、たとえ深夜に急に電話がかかってきても、怒らない。「時差があるから出れないよ〜」と事実を伝えて、やりとりを再開する。そうやって、これからもやりとりを続けていく。一体、いつまで続くだろう。この理不尽な侵略が終わるとき、彼女は何歳になっているんだろう。エジプトへ逃れ、大学へ行ける進路を歩めているだろうか。その命運の何割かは、確実にいま私が握っている。正直とても怖い。だけど、続けていくしか、納得できる道はない。

最後に/自分の足元だってグラグラ

とはいえ、人の心配ばっかりもしてられない。私が暮らす日本だって、東京だって日々大騒ぎだ。幸運にも屋根の下で暮らせているけれど、どんどんルールが通用しなくなってる国会議員、可決されまくる最悪な法案に私の足元は揺らぎ出している。現職の東京都知事は、かつて人種差別発言をゴリゴリにSNSでかまし、任期中はかつてこの地で起きた虐殺を無かったように振る舞い、追悼文を出していない。そして、ほとんど達成されていない公約を放置したまま、AI画像に新しい公約を発表させている始末。ディストピア感満載の首都東京。俺の地元が何したっていうんだ、と情けない気持ちになる。何より「虐殺を無かったことにしようとしている」態度は、パレスチナを民族浄化しようとしているイスラエル政府の思考としっかり地続き。絶対に、この人を再選しちゃいけないぞという気持ちで、候補者の公約と日々睨めっこしている。

中指が何本あっても足りない状況、それでも中指を立て続けながら、私はすこぶる健康に食べ飲み笑い、文化的に暮らし続ける。投票行って外食もする。ガザに暮らす18歳には可愛いネコのGIF画像を送る。そうやって、どんな状況でも私が軽やかに暮らすこと自体が、資本主義で権威主義で力が強いやつが覇権を持ちがちな社会への反抗になる。お前らが望むような悲劇的な結末には絶対に持ち込ませないから。ぶらぶら散歩して友達とごはん食べてライブ行ってお酒飲んでゆっくり寝て朝ドラ見る平和を、世界中の誰もが享受できることを本当に願っているから。


おまけの宣伝

…というわけで、彼女をサポートしていくために私はどんどん稼がねばなりません。編集仕事、イラスト仕事、イベント企画、登壇なんでもご用命くださいませ。当方【集合】を名乗っているぐらいには、一通りのご相談に乗れると思います。良いスタッフィングを提案することだって可能ですし。記事等の制作実績は下記にまとめているので、ご確認くださいませよ!イラストはInstagramから。それでは〜〜〜。


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