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この本とあの本の間

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本棚にある、好きなあの子とこの子の隙間に挿すような、本にまつわるエッセイ。
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#本

会社を辞める、そして本を贈る。

はじめて勤めた会社を退職したとき、何度か送別会をしてもらった。 ずっと行ってみたいなと思っていたちょっといいお店でのことだったり、いそがしい間を縫って個別にお食事の場を設けて貰ったり……。 関係性によって御礼の仕方はさまざまになったけれど、ぐるぐる考えた結果、同じ部署で働いていた人たちには、ちょっとしたお菓子と一緒に本を贈ることにした。 以下はそんな、退職時に贈った本の紹介です。 1.フェアな上司に贈る本 私の直属の上司は、会社で一番フェアなひとだったと思う。社会で、こと

結婚祝いに、レシピラックに本を詰めて贈ったよという話

仕事で知り合って、プライベートでもときどきご飯に行く人がいる。なんとなーくですますとため口が8:2くらいで話しているけれど、ちょっと踏み出して友達って言ってもいいんだろうな、そう言ったらきっと喜んでくれるんだろうな、という仲の。 少し前に彼女から連絡をもらったとき、(たぶん、近々ご結婚されるんだな)と気づいた。そういう報告を、きちんとするひとなのだ。だから約束した日にお花を買っていこうか随分悩んだのだけど、その日は暑かったから、結局花屋の前は素通りしてしまった。 もぐもぐ食

すきだった、なんて言ってあげないよという呪いの話

それはたとえば、幼い頃に読んだ絵本であったり、高校生のときに友達と貸し借りした文庫本のことを記憶の中から取り出そうとするとき。いまよりも前のことを思い出しながら、私の口はしばしば、きちんと時間の経過を汲み取って動く。こんなふうに。 「あの頃、好きだったんだよね」って。 ただ「むかし」のことを話しているときは、べつだんなんとも思わない。でも中には、自分の声を耳にした一瞬のちに、はっと胸を押されるような痛みを憶えるときも、ある。その痛みは泣くほどではないけど、たぶん誰もが知っ

私と、降り積もる彼女たちのこと

いままでに読んできた本をふたたび手にするとき、私はきまって、あなたの姿を見つける。 その一冊を読んだ季節のにおい、日の陰り、部屋の明かりの白さ。本を読みながら迎えた朝の、窓の外で始発の電車が走る音。通学路や教室の片隅、あるいは暖房のきいたバスの籠もった空気が肌に触れる感触。 一冊の物語をふたたび訪うと、そうした思い出の欠片が、ほんのすこし香って、文字の間に溶けていく。そのとき一瞬垣間見えるあなたは、まだ小学生くらいであったり、かと思えば、きちんと大人になっていたりする。あな

北海道で佐々木丸美を読んだときのこと

 本が好きなら、季節が巡るたびに思い出す本をいくつか持っていると思う。私の場合、中でも一番強く思い出すのは、冬の本だ。風にしんと冷たさが薫るようになると、慕わしさが肌の内側いっぱいにひたひたと満ちる本。  冬を連れてくるのは、きまって佐々木丸美の本だった。  私の世界に冬が訪れるとき、くり返し読んできた本の横顔とともに、大学の夏休みが明けた頃のことを思い出す。そのとき、私はいつもの教室ではなく、北海道にいた。もう授業は始まっていたし、グループ発表だって控えていたけれど、ずっ