「だったら植民地をください」第3話

◆ノースアイランド省、執務室

チャールズ「やってくれたな」

ウォーレン「何を……で、しょう?」

  チャールズは両手に武器庫の棚卸帳簿を持ち、ウォーレンに突き出す。
  冷静を装うウォーレン。
  古い帳簿と新しいの帳簿の対比。

チャールズ「大ブリタニア王国エドワードⅢ世はキンケイの尾羽で作られたペンのみで文字を書く」

  キンケイのイメージ。(尾羽が立派な美しい鳥)

ウォーレン「……」

チャールズ「理由は簡単。王はあの美しい鳥がお好みだからだ。だから、子どもにも、側近にもキンケイの羽根ペン以外は使わせない。それは、ノースアイランド省の役人とて同じこと」

  チャールズ、再び帳簿に目を落とす。

チャールズ「キンケイはノースアイランドに生息していない。ここに生息している鳥は、主にカラフトライチョウだ」

  ウォーレンは言葉が出てこない。

チャールズ「キンケイとカラフトライチョウでは、羽根の大きさが全く異なる。帳簿のこのページは、キンケイの羽根ペンで書かれたものではない。そうだろう?」

  キンケイの羽根ペンで書かれた文字に比べ、ライチョウの羽根ペンで書かれた文字は、少し震えている。(ライチョウの羽根ペンの方が軸が短いため)

チャールズ「ここのところ、反乱勢力たちが本国からの船を襲っている。それで、キンケイの羽根ペンが手に入らなくなり、最近は固有種であるカラフトライチョウの羽根を使っている。だから、帳簿のこの部分は最近書き換えられたものだろう」

 本国・大ブリタニア王国からの物資が運ばれる船がノースアイランドの港で襲撃されるイメージ。

  ウォーレン、軽くため息をつき、天井を見上げる。

ウォーレン「私は、チャールズ様を少々見くびっていたようです」

チャールズ「少々?頭からつま先まで見くびっていたのではないか?」

  ウォーレンは思わず吹き出してしまう。
  チャールズは笑っていない。

ゴホン

  ウォーレン、笑いをごまかすための咳払い。

ナレーション「ウォーレンは全てを白状した。本国からの武器を横流しして金銭を手に入れていたこと。お金を持ったまま本国に戻ると怪しまれるので、手に入れたお金を画家のルブランに支払い、戻った後、ルブランの発行した請求書を元に、王室へ請求しようとしていたこと、それを懐に入れようと目論んでいたことを」

  チャールズ、執務室内を無言で歩き回る。

  ウォーレンはチャールズが激高もせず、ただ無言で歩き回っていることを気味悪がる。

ウォーレン「処分ならば受け入れます」

チャールズ「……」

  静かな執務室。時計の針が動く。

チャールズ「決めた。本国に戻ったら、国王に反乱勢力を鎮圧するためにもっと金銭面の援助をするよう進言してもらう。それで、お前の犯したことは黙っておこう」

ウォーレン「そ、それだけですか?」

チャールズ「ああ。進言するだけでよい。とにかく、このチャールズが反乱勢力に手を焼いていることを伝え、援助を強く進言してくれ」

  厳しい処分が下されると思っていたウォーレンは、この処分とも言えない内容に驚く。

ウォーレン「かしこまりました」


◆ノースアイランド、港

  大きな船。
  船を見上げるチャールズ。
  チャールズ、ウォーレンに近づく。

チャールズ「これを」

ウォーレン「こちらは……」

チャールズ「本国で受け取るがよい。10,000ロイヤルポンドだ」

  チャールズ、去る。
  ウォーレンはチャールズの後姿を見送る。
  もう船に乗り込む時間だ。

ウォーレンを乗せた船が出航する。


◆ノースアイランド省、執務室

  執務室内にはチャールズとホルト。

  ウォーレンを見送り終えたチャールズは空を見入っている。

チャールズ(モノローグ)「状況を整理しよう」

チャールズ(モノローグ)「本国(大ブリタニア王国)は今、侵略してくるサクソニア人との戦いで、財政が逼迫している。そこで、植民地であるノースアイランドに重税を課した。この課税強化がきっかけで、ノースアイランドに反乱勢力が誕生し、独立を勝ち取ろうと各地で反乱運動を起こしている。つい最近本国からの積み荷を運んだ船が襲われたのも反乱運動の一環だ」

  チャールズ、高校世界史の教科書をチラリと見る。

ホルト「それは何ですか?」

チャールズ「これは、私の味方だ。唯一の」

  風で教科書がめくれる。めくれたページから見えるのは、「独立戦争」、「代表なくして課税なし」の文字。

  チャールズの後ろに新海 渡のイメージ。

チャールズ(モノローグ)「私は知っている。人間の加虐性を」

  新海 渡が町田と奈良にいじめられている。(回想)

チャールズ(モノローグ)「被害者が『助けて』と言えば言うほど、加害者は、その加虐の虜になる。ウォーレンから更なる支援を進言された国王は、決して私のいるノースアイランドを助けないだろう。それに、あの弟と妹のことだ。出来損ないの兄を苦しめる快感に憑りつかれている奴らは、予算を削り、ノースアイランドを見捨てるだろう。」

  チャールズ、笑う。
  ホルトは困惑する。

チャールズ「早くこの国を独立に導こう」

ホルト「独立したら、あなたの立場は危ういのでは」

チャールズ「ああ、総督としての立場は失うだろうね」

ホルト(モノローグ)「『総督としての立場』は?」

  ホルト、無言。


◆ノースアイランド、山

  大きな山。
  未開山のため、人の気配はない。

  その山を麓から見上げるチャールズ。

チャールズ「ここか」

  ここは後に金鉱脈だと判明するビッグマウンテン。
  素人のチャールズが開山できるほど山は易しくない。
  熟練の山師が必要だ。

チャールズ「山師を探し、ここを手に入れよう。この山がもたらす利益を考えれば、総督としての立場なんて、どうだっていい」

  チャールズ、大の字になって寝転ぶ。
  空は快晴で、南から暖かい風が吹いている。

チャールズ(モノローグ)「まずはこの国の独立を勝ち取らねば。それと同時に良い山師も探さなければ」

  大ブリタニア王国の父、弟2人、妹のイメージ。

チャールズ「目に物見せてやる。いつまで強者でいられるかな」

  チャールズは強く拳を握る。

  ここからチャールズ(新海 渡)の逆襲が始まる。

(続く)


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