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用を足す 侍が立つ

 2週間前から、侍が見える。 
 こいつはいったい、何者なのだろうか?

 幽霊や幻覚にしては、くっきりしている。
 コスプレイヤーにしては、古典的な衣装を着ている。
 
 それに変なのは、いつでも、どこでも見えるというわけではなく、見えるのは俺が用を足している時だけ。

 用を足していると、ヌゥーッとどことなく現れ、用を足す俺の横に来て、ただ棒立ちしている。

 俺が侍の方を見ると侍は俺の目を見て、ニッコリと笑い、会釈をする。声を掛けなければそうやって反応があるのだが、声を掛けると侍は俺のことを無視する。

「おーい、お前は誰だ?」
「どっから来たんだ?」
「おい聞こえてんのか!」
 
 そんなに難しい質問はしていないはずだが……
 それに、答えたくないなら「嫌だ」とか「知らん」とか一言話してくれればいいのに。

 何なんだこいつ。

 ドッキリにしては、自宅から会社からレストランからと、あちこちで出没しすぎだろう。

 それに俺はお笑い芸人志望ではない。小説家志望だ。ドッキリにかけられるような覚えはない。


 という話を付き合っている彼女にしてみると、

「航君! 航君が見てるのそれ、才能ってヤツだよ」

「才能?」
「ああ、やっぱり幽霊ってこと? 自分では霊感はない方だと思っていたけど、俺、幽霊見る才能あったんだ。知らなかったよ」

「違うよ」

「違うの?」

「だからあの侍は幽霊じゃなくて才能だよ。用を足すことで、航君の体内にある才能が外に放出されているんだよ」

「……俺に溢れ出すほどの才能があるようには思えないけど」

「航君、このままじゃマズイよ。航君の才能が次々とトイレの水に流れていく。これ以上才能の排出をすると航君、一生小説家になれないかもしれない」
「航君、300万円持ってる? すぐ行こ、すぐ行こ。私の知ってる先生に診てもらって治してもらおう!」        

 彼女に連れられ俺は、怪しげな病院に行くこととなった。

【続く】


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