祖母の手

家に帰宅したら、隣に住んでいる祖母の手が血まみれだった。間違えて、ドアに指を挟み爪が潰れて出血が止まらないらしい。親指に巻いてある大きな包帯には血が滲んでいた。おまけに、病院からもらった診断書の内容もあまりよくなく...。心が本当に痛い。

2017年を思い出した。初めて、祖母が肺がんだと診断された年。ショックのあまり、『今夜、あなたが眠れるように』を書いて、仲間と創作して、痛みを消化した。私の家族関係を反映させたような作品で、祖母が病で死んでしまうラストだった。東京公演を観に来た祖母は、『最後は死んじゃうのね』と結末が気に入らないまま、帰っていった。足腰が弱いから、京都公演は観に来てもらえなかった。

でも、私たちが全員死ぬように、フィクションの人物も描かれていないだけで死ぬ日は来る、と私は信じている。それを描く選択をしただけで、深く気にしないで欲しかった。

祖母の家に行くと、癌について、生や死についての本が本棚に溢れかえっている。いつもニコニコしながら美味しいものを買って来てくれたり、孫(私以外にもう一人、まだ2才の男の子がいる)と遊ぶのが疲れた、と嬉しそうに言う姿から想像ができないよう本棚。その下にある棚には、私の母が幼少期に書いた『ママ大好き』と書かれた手紙がしまってあることも知っている。何十年にも渡る祖母の人生が詰まっている。圧倒もされるし、私と同じ一人の女性なんだな、と身近にも感じる。そして、老いることは怖いことじゃないよ、と言葉なしに教えてくれる。死ぬことはもちろん怖いけど、それも含めて。

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今日、帰宅したら家のテーブルに置いてあった。私が桜餅が好きだと言っていたのを思い出して買ってきてくれたらしい。それも、怪我をした後にと聞いて驚いた。あんなに手が包帯でぐるぐるの状態なのに。大怪我をしても尚、私が好きなものを買ってくるようなおばあちゃん。「いつ結婚するの?」って聞かれるたびに、いつもいらっとしちゃってごめんね。「早く孫の顔が見たい」って、冗談みたいに言うけど、多分本当に見たいんだろうな。そう思うと、本当に苦しくなってしまって、せめて小劇場の座りづらい椅子じゃなくて、もっと座りやすい、大きな劇場の椅子に、祖母を早く座らせたい。


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