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パフェレポ ロイトシロ「秋の香サヴァラン」2023年11月

あんきも、松茸、百合根と一見するとユニークな食材が揃っているが、和のうま味引き立つ上品なパフェ。むしろ葡萄がアクセント。


普通のパフェっぽくない器とスプーン

小どんぶりのようなお皿に盛られてサーブされるのが面白い。カトラリーも専用のスープ用のスプーン(百合根餡を掬うためだろう)に変えて貰う。もうここからよくあるパフェとは違うことを察する。

目の前で百合根餡をかけて貰える。掬って口に含むと、とろっと、温かくて出汁のような、百合根の苦味のような独特の優しい味わいが広がる。

トップのあんきもブリュレから。牛乳・シナモン・ローリエ等で臭みを消してからムース状にしているそうなのだが、口にした瞬間からあんきも独特の海の香りが口いっぱいに広がる。しょっぱくて、少し甘くて、クリーミー。海の香りのするパフェは初めてかもしれない。ふんわりしたムースはサクサクのビスケットに載っているので、その食感の対比も楽しい。

その上にはあわび茸のローストがかかっている。しこしことした歯応え、噛むほどにきのこのうま味を感じる。あんきもブリュレと一緒に食べるとまさに和食を食べているかのような気分にさせるが、その下のシャンティを口に含むと、これは甘いパフェだと引き戻される。パフェとパフェでないものの間で揺さぶられる感覚がとても愉快。

シャンティの下の松茸アイス、見た目はただのバニラアイスのようなのだが、口にするとアイスのミルキーな風味の中から確かにきのこの華やかな香りとうま味がくっきりと浮かんでくる。松茸というものをほぼ口にしたことが無いのでこれは松茸だ、という確証を得ることは残念ながらできないが、この感じたことのない香り高さは明らかに松茸のそれだと認知することができる、それ程の『スイーツとしてはあまりに異質な』香りだった。しかし、異質であるがあんきもや百合根餡などに囲まれた中だと自然に思えるのが不思議なパーツであった。すだちを絞ると、和の柑橘の爽やかな香りがぱっと広がり、気分が変わる。

口直しに百合根餡に浮かぶ半月状の葡萄(ナガノパープル)のコンポートを一口。甘味とフルーティーさが逆にこの中では異質な存在になっていて、まさに味のアクセントになっている。フレッシュではなく、コンポートになっていることによって、果物の風味の角が取れて、優しく上品な味わいの他のパーツとの調和が取れている。

お待ちかねのきのこ出汁のサヴァランを頂く。出汁を吸ってほろほろになったブリオッシュ生地とカスタードは、甘じょっぱく、出汁のうま味を感じる。噛むとじゅんわり染み出してくるきのこ出汁が幸せな気持ちにさせる。ここでスポイトに入った日本酒を注入すると、日本酒の風味が出汁の風味とあいまってさらに美味しくなる。おでんの出汁割りなんてものがあるわけですから、出汁と日本酒が合わないはずないんですよね。カスタードの甘味、出汁のうま味、そして日本酒の香りとダイレクトなアルコール感に、酒飲みにはたまらない展開に思わずにやけてしまう。これぞまさしく幸せの味……!

いよいよパフェも終盤、高まった幸福感は栗甘露のフランの優しい甘味が受け止める。フランとは洋風茶碗蒸しのようなもので、ふるふると柔らかな食感に甘味がとても優しく、ほっとする味わい。百合根餡も合わさると、さながらあんかけ茶碗蒸しの様相で洋風だけれどまるで和食のよう。底の栗甘露で甘味を感じて〆。

今回はあんきもにきのこであったかいパフェ、という最早甘いかしょっぱいかもわからないという面白要素しかない所に飛び付き嬉々として食べに行った。食材はパフェとしてはトリッキーであるものの、蓋を開けてみれば繊細な日本料理を頂いたような感覚になる上品なパフェでした。通常のパフェでは使われない、塩気によったようなパーツが今回多く、きのこ等香り高いパーツはあるものの、がつんと衝撃を与える程強い風味のパーツ(強いて言えばトップのあんきもくらい?)がほぼ無く、全体的に繊細で上品な和のお味。しかし、シャンティクリームやサヴァランのカスタード、栗甘露等しっかり甘味を感じられるパーツもあるので、トータルで見たらちゃんと甘いパフェだという認識になれるのが不思議。

和パフェというと抹茶のパフェというイメージが先行するが、最近、抹茶を使用していないけれどしっかり和を感じられるパフェを最近ちらほら見かけるような気がする。このパフェはまさにその典型的な良い例だと思った。

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