見出し画像

●山梨・高速バス移動女性の新型コロナ陽性発表・報道に見る「私刑」の構図

高速バスで実家に行ったというだけで「私刑」される社会に、日本はなりつつある。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
 5月2日に山梨県が発表した新型コロナウイルス感染症で陽性となった20代女性の公表により、テレビ各局が報道。その行動が問題視されている。ネットでも「同情の余地は一切ない」「もはやテロリスト」「もう逮捕でいい」といった声が上がっている。

 まず、県の発表を見てみると、以下のように「症状・経過」と「行動歴」が記されている。

(6)症状・経過

4月26日~ 味覚・嗅覚異常。

5月1日 帰国者・接触者相談センターに相談。帰国者・接触者外来を受診。

5月2日 PCR検査の結果、陽性判明。
現在、自宅で待機中。現在の症状はなし。

(7)行動歴(発症前 2 週間以内の渡航歴:なし)

~4月28日 東京の勤務先に出勤。

4月29日 高速バス(15:15 バスタ新宿発山中湖旭日丘行、京王バス)で県内の実家に帰省。(新宿で乗車、富士急ハイランドバス停で下車、親族の運転する自家用車で帰宅)

4月29日~5月1日 友人(56例目)と複数回接触。

4月30日 県内の友人宅でバーベキュー。

5月1日  整骨院を受診。友人とゴルフ練習。

5月2日 高速バス(9:25 山中湖旭日丘発バスタ新宿行、京王バス)で帰宅。(富士急ハイランドバス停で乗車、新宿で下車、徒歩で帰宅)

出典:新型コロナウイルス感染症患者の発生について(県内55例目)
 高速バスの移動と友人との接触により感染が広がったことが記載されているのはいいとして、友人宅でバーベキューしたことや、整骨院に行って、ゴルフをしたということは、新型コロナの感染予防という観点から言えば発表する必要がなかったのではないか。濃厚接触者が11人中10人が陰性だったということを発表すれば済むことだ。ちなみに、山梨県の発表でここまで詳細に行動歴が記載された例は他に見当たらなかった。
 県は後になって女性への批判や中傷が「インターネット上で」起きていることに対して、「女性や家族に配慮してほしい」としている(参照)。が、そもそもが行動歴をここまで明らかにしなければ済むことだった。また、ネット以上にテレビなどのマスメディアでの報道が、批判へのトリガーになっている。

 例えばUTYテレビ山梨は、県の発表をそのままストレートニュースとして報道している。

 都内と山梨の実家を往復した20代女性の新型コロナ感染者の濃厚接触者 11人中10人が陰性 ゴルフの練習をしていたことが判明 (UTYテレビ山梨)

 ネット配信の記事に関しては、同局のサイトだと「新型コロナ感染者の濃厚接触者 11人中10人が陰性」となっている。つまり、Yahoo!ニュース向きにタイトルを変えている。明らかにネットでのアクセスを意識した変更と言えるだろう。この記事を発端にTwitterなどのSNSで陽性女性への批判が増えているから、その試みは(悪い意味で)「成功」したことになる。

 さらに、デイリースポーツは5月4日に「山梨・女性が感染判明後に高速バス、虚偽も…TV一斉報道、ネットに厳しい声多く」とテレビ局の報道とネットでの反応のまとめ記事を配信。産経新聞も「山梨帰省女性 整骨院→PCR検査→ゴルフ練習→男性と会う」とまるでネットメディアのようなタイトルの記事を出している。
 最近、テレビ朝日『モーニングショー』のまとめ記事を出すことが日課のようになっているスポーツ報知に至っては、コメンテーターの玉川徹氏が「自分の車で帰るとかだったらいいのかもしれないですけど、公共交通機関を使うという事も問題点。もしかすると、法律でそういう風な事に対しては、罰則がある法律を作ってもいいのかもしれないですね」という発言をタイトルに入れている(参照)。

 ここで、この女性を擁護する意図はない。だが、犯罪を犯したわけでもないのにテレビ各局が時間を割いて報道して、それがネットでのバッシングを呼び起こしているというのは明らかにやりすぎだ。
移動の制限といった法律を提唱するなど論外とはいえ、まるでロックダウン(都市遮断)を国民が望むようにマスメディアが誘導するというのは、それこそ政府・行政の私権の制限を容認する空気を醸成しかねず、非常に危険だ。
 今回の一件は、一見ネット上での「私刑」の広がりが問題視されている(少なくとも山梨県はそう呼びかけている)ようでいて、実はメディアが率先して「私刑」を行いさらに煽るという構図になっている。

もっと言うならば、新型コロナでひとたび陽性と判定されたならば、誰しもがプライバシーを配慮されなくなるということだ。

本来ならば「自粛」という言葉で行動の自制を「お願いする」という行政の姿勢について議論すべきところを、叩きやすいところを叩いて、視聴率なりアクセス数を稼ぐというメディアの「暴力」を目の当たりにしていると感じるべきだろう。

【引用おわり】

どのような意見を持っても自由なので、他人の意見に反論するのは心が重いものです。しかも、ブログに取り上げさせて頂いて「反対です」というのは失礼極まりない行為であると自覚していますのでかなり迷いましたが、この藤井さんの意見に対する私の意見は「別の視点もあります」というモノなので「セーフ」かなと自分で判断しました。

まず、今話題の山梨の女性は「犯罪を犯したわけでもない」ので、みんなで批判するのはやりすぎだ。というご意見ですが、批判する批判しないというのは個人の自由です。

それと彼女は、刑法上の犯罪を犯したわけではありませんが、故意による危険の無視により他人に感染させるという犯罪《的》行為をしたのです。つまり「最悪の場合死に至るコロナに他人を感染させるかもしれないけれど、自分は楽しみたい。だから、人が感染してもいいや」という行動をしたのです。

いうなれば、ブレーキが故障しているのを知っていて、運転して事故を起こして他人を負傷させた事と、本質的には同じです。泥酔していながら、車を運転した事と同じです。

2006年福岡で泥酔して運転して3人の子供が死亡する事故が発生してことによって、「このような危険な運転は許しておけない」という世論が盛り上がりました。そして、危険と解っていて危険な運転をした場合には、過失致死ではなくて危険運転致死に問われるようになりました。

ただ、コロナ感染の場合は、危険を承知で他人に感染させても罰則がないので、刑法上の犯罪を犯したとは判断されません。けれど、「危険を承知で」という所は同じなので、福岡泥酔運転3児死亡事故と同様に、世論が激昂しているのです。

また、「新型コロナでひとたび陽性と判定されたならば、誰しもがプライバシーを配慮されなくなる」というご指摘ですが、それでは「プライバシーを守るためなら感染が広がっても良いのか」という現実的問題が置き去りにされています。

 韓国は徹底的にプライバシーを公表する事によって、発熱した人その場にいた人などが不安を覚えて検査に殺到した事で、感染を収束させました。

 これに対して日本はプライバシー保護法によって、感染者が勤務するナイトクラブ等の店名を公表できなかったために、何も知らずに客として訪れた人達が次々に感染して死亡者も出ました。

 そして結局は「店名を公表できないがゆえに、ナイトクラブは全部危険だから行ってはいけない」になったのです。

 そしてこの山梨の事案では彼女が乗ったバスなどが特定できるので、そのバスに同乗していた人達がもし発熱などをしたら、保健所でも危険だとしてすぐ検査の手配がとられるでしょう。早ければ早いほど2次感染3次感染は止められる可能性が高くなります。

コロナの感染問題が発生してからこの数か月の間に、日本社会は 「プライバシーを守るためなら感染が広がっても良いのか。そして結局は誰もが働けなくなって、経済を破綻させても良いのか」という問題を突き付けられて、苦悩し続けてきたのです。

そして、今になって知事の要請に従わないというだけでパチンコ店の店名が次々に公表されるようになりました。つまりは、「感染を広げないためには、プライバシーに配慮しすぎるべきではない」と、人々の意見が集約しつつあるのだと思います。

ただ 今の日本人が皆「叩きやすいところを叩いて、視聴率なりアクセス数を稼ぐというメディアの『暴力』を目の当たりにしている」と感想を述べられている所は、全く同感です。

いくら叩いても叩き返すことができない・政府を叩いて視聴率を稼ごうとするメディアの手法は、まさしく『言葉の暴力』であるからです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?