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文楽二月公演 近松名作集「女殺油地獄 (おんなころしあぶらのじごく)」2023年2月

2月19日に観劇しました。そして、「国立オンライン劇場くろごチャンネル」の有料配信で2週間たっぷり堪能しました。

2018年公演でも見たので、劇場で見るのは2回目です。前回はまだ文楽自体良く分からず何となく見ていたころですが、一緒に行った文楽初体験の同僚が感動してくれた良い思い出があります。

そして、今回は、事前に現代語訳を読んで参戦。

★こちらの本は、技芸員さん達のインタビューもあり、とても読みやすくお勧めです。

現代語訳を読むと、まさしく「犯罪ドキュメンタリー」というか、実際に起こった犯罪を元にした創作です。私自身、以前は高村薫さんや桐野夏生さんのミステリー小説にはまってまして、犯罪を題材に人間の闇を描き出す作品は大好きなのです。犯罪の裏側を知りたいのは古今東西人間の性なのでしょうか。

近松門左衛門の作品には、現実の事件を元にした戯曲がたくさんありますが、その中でも「女殺油地獄」は、エンタメとしての感動要素はほぼ無い作品。なので、あらすじの面では、お芝居を観た非日常感のようなカタルシスは無いように思います。

実際、本で現代語訳を読んだ後は、あまりに胸糞悪いお話で。親を足蹴にするなど、今でいうところのDVが酷い。これをあえてお芝居として見に行くのもなぁというのも本音としてあり。とはいえ、クライマックス「豊島屋油店の段」での惨殺シーンが「人形でここまでやるか」という、最大の見どころなので、それを楽しみに観劇しました。

主人公の与兵衛を遣うのは、桐竹勘十郎さん。そして、殺害される女性「お吉」を遣うのは、吉田一輔さん。特に、勘十郎師がどんな与兵衛を遣うのか、とても楽しみでした。

そして・・結論からいうと、個人的には勘十郎さんの遣う役の中で、与兵衛が一番好きかも・・というのが今の感想。

近松門左衛門の主人公はクズ男が多いですし、与兵衛もクズ男。とはいえ、なんとも人間味のある佇まい。

今でいうところの「半グレ」や、ネット用語の「DQN」という感じなのですよね。

犯罪を犯すクズ男とはいえ、もちろん人間味もあるし、家族の一員でもある。家族に受け入れてほしい気持ちもありながら、ついつい虚勢を張ったりその場ででまかせの嘘をつく。感情が抑えきれずに暴力に訴える。そして、身勝手で浅はかではあるが、「自分にとっての正義」があったりする。

犯罪は、世間が納得するような筋の通った悪のストーリーがあるわけではなくて、見栄と浅はかさと偶然の巡りあわせの果てに起こる、というのも一面の真実だと思うので、今回はそんな印象を抱いて帰路につきました。

そして、そんな与兵衛を勘十郎師がとても楽しんで遣っている印象を受けました。生き生きと躍動する与兵衛が見たくて、動画も繰り返し見てしまいました。

そして、惨殺シーンの豊竹呂太夫さんの浄瑠璃がとてもよかった。しみじみと人間味のある語りと、惨殺シーンにしんしんとした静けさも感じ。

というわけで、想像以上にはまってしまった演目でした。

↓3月26日まで有料で動画が購入できます。


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