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「壇浦兜軍記」阿古屋琴責の段 2023年1月 国立文楽劇場 感想

令和5年の初春公演。Twitterを見ると大変評判が良く、大阪遠征する予定はなかったのですが、合間を見つけて一泊で見てきました。
年初で仕事が激務の中、なんとなしに体調も悪かったのですが、むしろ元気を充填して戻ってまいりました。

初春公演、見どころは多々あるものの、やはり「阿古屋琴責の段」が、桐竹勘十郎師のファンとしては一番の見どころ。

展示用の着付けです


実際、見どころいっぱいありすぎてまとまりないのですが、列挙していきます。

話としては、恋人の居場所を吐かせるべく拷問を受ける受けないのやりとりが続き、琴、三味線、胡弓を弾いて疑いが晴れる。それだけのシーンなのですが。阿古屋の感情の動きを追いかけて、同時にその美しさに感嘆していたら大忙し。

阿古屋の登場シーン。1〜2秒で迫力と色気と気品と憂いを同時に出してくるので度肝を抜かれました。場を制圧するというのは、ああいうのを言うのでしょう。

これから拷問を受けるというシーンで気を張っている姿。恐怖を感じないように心を鎮めようとしている姿。啖呵をきる強がり。

豪華な打掛と板帯で着飾っているのだけど、武装してるようにも見えてきます。

琴を弾き始めて、少しずつ演奏にのめり込んでいく奏者としての姿。

そして、恋人との馴れ初めを語るときには、打掛を脱ぐのですよね。もちろん綿が入った豪勢な部屋着のようなものを着てるのですが。なんだか、阿古屋の身体の線や柔肌を感じてしまうような錯覚に。

文楽人形の胴体は空洞なので、そんなの無いんですが。

打掛を脱いだ時には、女性としての弱さや強がりが浮き上がってきたように見えました。

胡弓で超絶技巧を披露して、悪役の気持ちを挫いてしまうところも痛快。

芸を通じて嫌疑を晴らすという。傾城の意地を見せたかっこよさ。

…そして一通り演奏も終わり。

嫌疑が晴れた瞬間。表情を崩さないようにしつつも、ホッとした感情が漏れ出ていて…

気を張ってた女性のか弱さが出てきててグッと来ました。

ていうかこれ、人形なんで表情変わってないんですよね… 瞼は閉じるのですが… すべて顔と身体の角度で表現している。

桐竹勘十郎師ですが、ほぼ目を瞑っているというか半眼というか、芸の極みのゾーンに入っておられるようで。

あと、今回は主遣いだけでなく、普段は黒衣でお顔が見えない左遣いさん足遣いさんも顔出し。左遣いは、吉田簑紫郎さん、足遣いは桐竹勘昇さん。三世代のチームワークで素晴らしい阿古屋の演技が出来上がってるのを目の当たりにしました。

他の演者の皆さんも、肩衣をお召しになったり。(勘十郎師の肩衣めっちゃ高そうな織物だったな…。こういう「スターをスターらしく見せる衣装」大好きです。)

端役の遣い手さんも顔出しで。

もちろん、演奏も素晴らしかったです。ここまでのめりこめたのも演奏のお陰。生で聞いてよかった。間違いなく。

そして冒頭の竹本織太夫さんの浄瑠璃。聞かせる入り、グイグイっと世界に引き込んでくれます。

そして、豊竹呂勢大夫さんの阿古屋も素晴らしかったです。浄瑠璃として個性や芸を前に出してこないけど、いつの間にかお話にのめり込んでしまう。豊竹呂勢大夫さんにはそういう印象があって大ファンです。

人形のお着物も。

阿古屋さんの打掛。紅葉の刺繍が照明に映えて美しく。うっとり…

そして、勘十郎師お手製の蝶々の飾り。二匹のペアで、恋人同士を象徴してるようです。こういうのを作って「飾ってあげたい」という勘十郎さんの優しい世界にほっこりするわけです。

もう、日本の美の集大成といってもいい豪華さ。もっと見ていたい…

そして岩永左衞門。かしらが愛嬌ある悪人ヅラ。なんとお髭はビロード素材だそうで。黒々してる… 月代は真っ青なので、とっても毛深いということなんでしょう。男性ホルモン強すぎる笑。
無駄に豪勢な裃を着ているところが浅はかさを象徴してるようで。とはいえ、赤ヅラに合う色調でトータルコーディネートされてたのも楽しく。

重忠の聡明さと思慮深さ。やっぱり孔明のかしらいいなぁと。説得力が違う。

というか… やっぱり阿古屋に戻ってしまうのですが。女性の最高峰という扱いだし、圧倒的な存在感で、まさにそうなんですが。

そもそもこんな女性、現実にはいないわ!と思ってしまう完璧さ。人形が人間を真似するのではなく、人間ができないことを人形で表現してる。

そして…これ男性が作ってるんですよね、全部。
男性の作り出した虚像なのか?とつい思ってしまうわけですが、でも。

やっぱり女性の最高峰というのは、説得力があるわけです。

ということは、世の女性の魅力を煮詰めて煮詰めて、結晶化したものなんでしょうかね。

人がそれを演じると、嘘くささが残ってしまうから、人形の方がむしろ説得力があるのでしょう。空洞だからこその完璧さというか。

なんて、いろいろ味わってるとキリがありません。

そんなこんなで、うっとりしながら新幹線で帰京。新幹線の駅の表示、「名古屋」が「阿古屋」に見えるほど夢うつつで帰ってまいりました。

東京でやってくれたら通い詰めるのに… 今後に期待してます!!

▼オンライン配信が月末にあるので、再度見ちゃう…


展示用阿古屋さんと舞台用阿古屋さんの衣装の違いがわかるお宝画像…!

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