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ダチョウ倶楽部の思い出

もう10年以上前になるか。
学生時代のバイト先で仲良くなった7人で湖へカヌーをしに行ったことがある。
一人乗りのタイプで、慣れるまでバランスをとるのがちょっと難しい。
インストラクターを囲むようにみんなで輪になり、パドルの漕ぎ方や座り方などしっかりレクチャーしてもらう。
バランスを崩してひっくり返ったら秋の始まりの湖、なかなか残念なことになる、と着替えを用意していない我々は身を引き締めた。

そんな説明を受けた直後、インストラクターのお兄さんが「それじゃぁ、まずはお手本で誰かやってみようか。僕が舟を揺らしてみるけど、ちゃんと座れていれば大丈夫だよ。」と代表者を募った。

メンバーの一人、トミさんが「おまえやってみろ」と私を指名した。
怖気付いていた私は超絶渋った。
「ええええ(”え”には濁点がつく)いやだよお!しょっぱな怖いよぉ!!
トミさんが年長者なんだからやってよぉぉ!!」
「言い出しっぺのおまえがやってみろ」
「いいいいやだよぅ!」
私たちのやりとりを後輩達が見守っている。
「じゃあ僕やりますよ!」と助け舟が現れた。
「最年長のトミさんにさせるわけにはいきません、僕がやります。」
トミさんの横にいたナベちゃんは手を上げてお手本を買って出た。
「いや、ナベにやらせるくらいならやっぱり自分がやるよ。」
トミさんがナベちゃんの漢気に触れ、おのれがやると挙手をした。
私は目の前の二人のやりとりに男の友情を感じた。

「そんなことならボクがやりますよ。」
横手から声がした。
私が驚いて声の主を見ると、セイジ君は真っ直ぐ腕を上げ名乗りをあげていた。
いつもつるんでる仲良し3人。
いいやつらだよ、微笑ましいよ。

「あ、ならオレやります。」
セキ君が続け様にひょいと手を挙げた。
年下の自分が黙ってらいれないと思ったのか。
はて?と不思議に思った時、
「僕がやります。」
エーゴ君が挙手をした。

そこでなぜか危機感を感じた。
そして、気づいた。


これはダチョウのアレだ!!!

よく見ればみんな顔がニヤついている!
わかってやっていたのかこいつら!
これはヤバい、最後になってはいけない!!

私はアワアワと焦りだした。
輪から次々と挙がる手をあちこち目で追いながら、
小刻みに手をバタつかせはじめ、ついには膝も揺れ出した。

「ワタシがやります。」
なっちゃんがニヤリとエーゴ君に続き間髪入れずに手を上げた。
「ああああ(”あ”には濁点)あたしがやるよっっ!!!」
思考と行動がようやく一致した私はついに挙手をした。
後に続く者は残っていなかった。

『どーぞ!!!』

全員の揃った声と同時に皆の手がすっと頭上から降りてきて、さっと私の前に差し出された。

私は頭を抱え、咆哮を上げたのだった。

私を庇ってくれて仲間想いだなんてほっこりしてた数秒前の自分を殴ってやりたい。
後輩からイジられまくって、まんま竜ちゃんじゃあないか。

これはコントだと思っていた。
台本があるからできるのだと思っていた。
まさか日常で使う日が来ようとは。
よもやよもやである。
こんな美しい光景をこれ以降見た事はない。

ドリフを見てきた世代がハゲおやじやひげダンスが自然と身についているように、ダチョウ倶楽部を見てきた世代はこの一連の流れを見て自然と覚えている。

要はダチョウ倶楽部のテンプレートは、ドリフターズと同じくらいすごいのだ。






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