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はじめて男の子に騙されたときのこと

まだ未就学児童のころ、近所の児童館に通っていました。
私が幼い頃、プラ板というものが流行っていましたが、プラ板を知っているでしょうか。プラスチックの板にマジックで絵を書き、穴を空けてオーブンで焼くと小さくなり、ヒモを通してキーホルダーにできるというものです。焼いているとだんだん小さくなってくるのが楽しく、子供の頃ハマっていました。


児童館でプラ板を作っていたときのこと。仲良かった「あっくん」という男の子と一緒に、北極の絵を書いてキーホルダーを作っていました。翌日から海外にでかける父親のために、お守りを作ろうと思ったのです。


北極のイラストをペンで書き、完成したと思っていたところ、あっくんがこんな事をいいました。


「北極は太陽がふたつあるから、ちゃんと描かないといけない。僕は描いたよ。」


といって、自分のプラ板をみせてきたのです。そこには、北極の氷やペンギンと一緒に、2つの太陽が輝いていました。


私は「北極に太陽がふたつあるってほんと?」と思いましたが、確かにあっくんはふたつの太陽をプラ板に描いています。本当かなあと思いつつも、自信満々のあっくんを見て、私もふたつめの太陽を描き入れました。


すると、あっくんは、「うそだよーほらっ!」といって、プラスチックを持ち上げました。なんと、ひとつめの太陽はプラ板に、ふたつめの太陽は下の台紙に描かれていたのです。重ねていたから、ふたつに見えたのです。あっくんはゲラゲラ笑っていました。なんて、なんて信用ならないんだ!


私は泣きました。もう描いてしまった。ふたつも太陽を描いてしまった。お父さん、ごめんなさい。


家に帰って、泣きながら父親に完成したキーホルダーを渡しました。
何が辛いって、父親が外国人の人たちに笑われてしまうのではないかと。

でも父親は、黙ってキーホルダーを受け取り、海外へと旅立っていきました。


それから35年近く経ち、父親がスーツを着替えているとき、ポケットからあのキーホルダーがみえました。まだ持ってたんですね。父はこのふたつの太陽が描かれたキーホルダーを持って世界中を旅し、そしてトラブルなく今も平和に暮らしています。


今後もふたつの太陽が守ってくれるよう祈るばかりです。

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