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3つ目の「なぜ」に答えられる人に

英語を教えるということ

 英語教師として子どもたちや大人の方々と共に英語を学んでいる中で、気づいたことがある。最初は「日本人英語学習者が困難を感じがちな音」や「表現」に気づいて指導に取り入れ、途中から「そもそも自分の意見を発することを学んでこなかった日本人マインド」そして、「そもそも、そもそも、先生や親が『こうだ』と言ったことに対して違和感や疑問を持たない、または違和感や疑問を持ったとしても深く突き詰めて考えないマインド」に気づいた。

日本マインドと英語マインド

 私自身も、日本語で日本人と会話をする時には「こうなってます」「はい」という伝達事項が多い気がする。「こうしたいんですけど、あなただったらどうしますか」や「あなたの意見をお聞かせください」と言われることは少ない。もし仮にその言葉を言われたとして真面目に自分の意見を言おうものなら「そんなこと言われても」と困られたりする。
 ただ、英語で話す時は大体海外の方々とのやりとりなので、全然違う。英語を話す時は自動的に自分のマインドセットも変わるようになった。英語の会話の中ではまっすぐに"君はどう思うか"と聞かれ、それに答えられないとその場にいる意味がわからない、というくらい意見交換が活発だ。
 結果、ただただ英語を学ぶだけで、仮に英語という言語を完璧にマスターしたところで、私たちはマインドが変わらない限り世界の人たちと渡り合えないという結論に達した。そこで、私は子どもたちや大人の生徒の方々とあるトレーニングを始めた。

自分と向き合う

 自分とは何ものか、まずは自分の好きな色や好きな食べ物、好きなスポーツに好きな動物…と、自分のことを書き出してもらう。日本語で結構。
使うフレーズは "What --- do you like?" または "What's your favorite ----?"
そこに "I like ----."で答えてもらう。好きなものは日本語でも構わない。それはまた後から学ぶ。まずはとにかくこのフレーズを使うこと、そして自分が自分にスポットを当てることにトライ。

 そして次に行うのは、日頃の習慣。毎日心がけてしていることや、昨日食べたもの、今日起きた時間。ここではたくさんのフレーズを身につける。
"I ----  every day." や "I eat (ate) / get (got) up at ---."
学習者の方々は、英語よりも自分のことを言い表すことに困難を覚える。そのおかげで英語のフレーズは難なく入っていくのだが。
とにかく自分にスポットを当てる、自分を知ってもらうことに専念する。

人と向き合う

 ある程度それが出来たら、人と交流。人のことを聞く。基本的に人の情報に興味がない人も多い印象だけど、自分のことを知る楽しさを知ると人の答えも気になり出すもの。いろいろな人の話を聞いてその人を知り、自分のことも知ってもらう。人の話に興味を持つ習慣の無い人には、クイズ形式で一通り人の話を聞いた後に "Who likes tennis?" や "Who plays the guitar every day?" などと聞いて「記憶チェック!」とすると人の話を聞く習慣がつきます。

なぜ?を考える

 それと同時に英語を話す時のマインドとして必要不可欠な「なぜ?」の発想。欧米の方の講義や会議に入った時に「なぜそれが必要なのか」という問いに答えると更に「なぜそう思うのか」と掘り下げられることが多々あって驚く。それと同じことを日本人にしてみるとどうなるのか、何度か会議で「なぜそれが良いのですか」「なぜそう思うのですか」と尋ねてみるが、老若男女「それはそういうものだからです」という謎の言葉で終わる。
それ以上の「なぜ」にはノーコメント。それ以上の答えがその人の中に無いだけではなく、それ以上は思考が停止してしまうからだ。でもただ「なぜ?」に弱いだけではない。その「なぜ?」にはある程度答えられるような答えを皆持ってはいるのだ。「勉強はなぜするの?」「将来必要だからだよ」そのくらいは誰でも言える。では、日本人が苦手とする「なぜ?」は何なのか。それを私は「3つ目の『なぜ?』」と表す。

3つ目の「なぜ?」とは

 3つ目の「なぜ」は何かと言うと、先程の例で言うと一つめの「なぜ」は「なぜ勉強しなければいけないんですか」、それは定番の「将来のため」で対処可能。
そこで二つ目の「なぜ」を投げる「なぜ将来のためになるんですか」それにも安定の「勉強して良い学校に行ったら良い就職ができる」で対応。
そこからの3つ目以降。「なぜ良い就職ができるんですか」「なぜ良い就職をさせたいんですか」とくると、だんだん苦しくなってくる。
最終的に「幸せとは」というところまでいくと、ほとんどの人がギブアップ。黙り込んでしまうか、機嫌が悪くなるか。
 でも、大事なのは3つ目以降の「なぜ」なのだ。なぜかというと、そこからその人の思考が見えてくるのであって、英語を使って話す時にはありきたりの答えではなく、その人の考え方やその人自身を知りたい、というのが目的なのだから、そこが一番重要な部分であると言えるからだ。

3つ目の「なぜ」を考える人を育てる

 そんな理由で、私の教室では時々日本語で考える時間を作る。「なぜ」の答え、実は子どもたちはたくさん持っている。大人がその答えをジャッジしないと知るや、子どもたちはどんどん面白い答えを出してくれる。それを興味深く聞いていると、更に出てくる。
 今の日本の教育に足りていないものは、その「なぜ」の答えを受け止める大人の心と時間の余裕。子どもたちはしっかり答えを持っている。ただ、それを出すことを習慣にしない限り、国際社会で英語を使いこなす成熟した大人は育っていかないのだ。

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