サイレントウェーブ

香奈は今、叔父さんが経営している輸入雑貨店で働いている。どうやら新しく店舗を一店舗増やすらしく、働き手を探しているという事だった。

「ってことはさ、もう一つ輸入雑貨のお店が増えるってこと?」

あいが焼肉のお皿をテーブルに運んできてくれて、そう香奈にたずねた。

「輸入雑貨店ではないけどね、レストランみたいな雰囲気よりももっと気軽に入れる食事処のようなお店にするらしいのよ。」

「なんだてっきり、初美に彼氏でも紹介してあげるって話かと思った」

と葵が言う。

「わたしもそう思った。」

とわたしも香奈にそういった。

「ごめん期待してた?」

「ほんの少しだけね。」

と冗談交じりに言った。わたしはもう何年も自分の本音を話せていない。ついつい、ごまかしたりする言葉が口からつい出てしまう。それがわたしを悩ませていた。

「ごちそうさまでした」

「また来てね、是非贔屓にしてもらえると嬉しい。」

あいのお兄さんはそういって会計を少し安くしてくれた。

「ごめん、これから彼氏のところに行こうと思ってるの、だから電車逆方向、また連絡するよ。」

葵が言った。葵は高校生の時からの彼氏といまだに続いているみたいだ。

「うん。気を付けてね。」

香奈が言う。

「ありがとう、久しぶりに会えてうれしかった。」

とわたしは言った。そして香奈と二人で葵を駅の改札口で見送った。わたしと香奈に手を振る葵はなんだか幸せそうだった。

「香奈は?彼氏のとこ行かないの?」

「うん。明日、会う約束してるよ。それより、初美と二人で話せてよかった。一駅分ぐらい歩かない?」

「構わないけれど…、さっきの仕事の話?」

わたしは香奈はまだ何か隠しているように感じていた。

「よかった。」

と香奈はにこやかな顔つきで言った。

「ごめん。わたしなれないとこで働くの、無理かも。」

「うん。わかってる。初美はそういうタイプだもんね。」

「じゃ、なんでわたしなの?」

「実はね、わたしの叔父さんの奥さんが霊感があって…、困っている人を助けたくて…お店を始めたいと思っていたんだって。」

「その人の霊感とやらは当たるの?」

わたしはたずねる。

「すごく当たる。驚くぐらいに。」

わたしは正直不信感を覚えた。

「担当直入に言うけれど、初美、今、悪夢みてるでしょ?人を殺すような」

唐突な一言を冷静に聞けている自分がいる。

「なんで?見てないよそんな夢」

はぁぁ…と香奈は深いため息をつきながら

「やっぱりそういうと思った」

といった。

確かに、わたしはあの夢の話を誰にもしたことがない。そんなこと誰かに話すべきことでもないし。わたしはやっぱり嘘をつくことがうまくなっている。

「楽になるよ。悩みがあるならさ。とにかく考えてみてよ。」

意外な言葉が返ってきて、わたしは思わず小さく笑った。

「なんで笑うの?」

香奈は少し膨れ面をする。

「もっと威圧的に大変なことになるとか、プライドを刺激してくるのかなって思ったりしたからさ」

「そういうこと?」

「うん。そういう事。だって常套句でしょ?そういう勧誘って」

「ま、そうかな?」

辺りは二人の歩く靴音がしている。目の端に少しだけ不安げな香奈の表情を読み取った。

「初美の浮いた話聞いたことないからさ。何か悩んでることでもあるんだろうってずっと思ってた」

「うん…?悩みね…少なからず誰にもでもあるでしょ?」

「前に、付き合ってた人とは連絡は取ってるの?」

「高2の時にわかれて以来とってないよ。」

「あんなに仲が良かったのにね。写真みせてもらったけど」

「相手がさ、好きな人ができたっていうんだもん、何も言えないでしょ?」

「それじゃ仕方ないよね」


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