サイレントウェーブ

山城さんの次の予約の時には制服を着た娘さんが一緒についてきた。もっと陰気な少女を想像していたけれど、雰囲気からしても、ただ友達と不仲になってしまったことに不満を抱く10代の幼気のない少女にしか見えない。終始気を配るように笑顔を見せてくれるところは、神経質な気質なのかなとそんなことをわたしに推測させた。

「おいしいでしょ?ここのケーキ」

靖穂さんの言葉にうなずく少女。

「あれから何か変わったことはありました?」

「そうそう、あのお話しした自宅、買い手が見つかって誰かが住むみたいで、来週あたりから業者が入るそうです。」

「更地にするんですか?」

少女は二人の会話になんの不信も見せずに黙ってケーキをほおばる。

「それが、内装を少しいじるようで若い人が住むようです。」

「ママ、そんな話誰から聞くの?」

「優菜の同級生の須田君のお母さんからきいたのよ、偶然買い物してたらあってね。須田君の家、リフォーム会社をやってるでしょ?依頼を受けてたみたいで。優菜のことも心配してくれてた。」

「優菜ちゃんも大人になればわかるけれど、そういう情報を共有って意外と大事なのよ。」

靖穂さんがにこやかに言うと、少女は首をすくめて見せた。

「もしかして、澪奈の家族と連絡つかないこと話したの?」

「まさかその話はしてないわよ」

大きく母親が首を左右に振って否定した。

その親子のやり取りをわたしはほほえましく眺めていた。会計の時、
山城さんは次回の予約をしてくれた。

今日は定休日の日曜日で、自宅でひたすらゆっくりする日だった。葵の紹介で最近、頻繁に会うようになった男性もいて、今日は午後から買い物に出かけて夕飯をごちそうになる約束になっている。

休日の10時半に起きて、リビングのテレビをつけると、ニュースが映る。一軒家のクローゼットの奥から、ビニール袋に入れられ切断された焼死体が3体発見されたというニュースが放送されていた。都会では物騒な事件がよく起こる。ニュースになっている事件もわりと近い場所で起きてる。

わたしは冷蔵庫を開けて、朝食になりそうな食材を探しているとテーブルに置いてあった、スマートフォンが鳴る。

「もしもし、初美さん。今朝起きてテレビのニュースを見て驚いてね。」

あっけらかんとわたしは靖穂さんにたずねた。

「何かあったんですか?」

「今朝のニュース見てない?一軒家から焼死体が発見されたニュース。あれね、山城さんの知り合いのご家族みたいなのよ。」

「えっ?」

「まだはっきりしたことはわからないけれど、なんか気になってね山城さんに連絡を入れてみたらはっきりしたことはわからないけれど、そうらしいのよ。」


数日後、その遺体は山城さんたちが相談に来た行方がわからない家族だったことが警察の捜査ではっきりした。そして住所不定、無職の20代の男性が指名手配されている。

おわり。

前回 ー7ー



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