MBA生活振り返り_特別編1:Gobi Desert Challengeの記録
チームとしてレース中に全員での完走はできなかったものの、大会に至るまでのチーム活動としては、MBA生としてのバイタリティを強く感じる非常に密度の濃いものだったDesert Challenge。(こちらの記事の一部も参照)周りを巻き込んで、活性化していく感じが心地よかったです。
90校を超える出場校の中で、チャリティー活動を伴い、チームでスポンサーを募って活動しているチームはNUSMBAだけであり、周りのチームからも一目を置かれ、存在感を示すことができました。そんな僕にとって特別なイベントの思い出を公開します。
●レース概要
名称:Asian-Pacific Business Schools Desert Challenge
日程:2018年 4月28日〜5月1日
場所:中国・騰格里砂漠
砂漠に設置されたチェックポイントを通過しながら、3日間で合計70kmを制限時間以内に制覇することを求められます。
1日目:32 km(制限時間9時間)
2日目:27 km(制限時間7.5時間)
3日目:11 km(制限時間3時間)
●レース結果
NUSMBAはチーム9人中
1日目 32km完走(2名)、18km走破(7名)
2日目 27km完走(1名)、18km走破(3名)、11km(5名)
3日目 11km完走(9名全員)
個人記録としては積算タイム18時間40分の572位でゴール。
そもそも全体2100名中、600名(約30%)のみが90km完走という、時間制限および体力の面で難易度の高いレースでした。
なお、1日目や2日目で途中リタイアしたメンバーも次の日には再スタートできるルールとなっていました。ただし、この場合記録としては残りません。
以下、時系列順に大会中の感じたことをありのままに記録した内容を公開します。(非常に長いです。)
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●レース前日
最寄りの空港から2時間以上バスに乗りReception会場に到着。会場にはすでに8割ほどの参加者が集合していた。2,000人規模とは聞いていたが、確かにすごいイベントだ。各チームのフラッグがステージの両脇で存在感を示している。
回転テーブルに豪華な料理がこれでもかと用意されていた。進行役が何かを喋っているがすべて中国語だ。場所は中国とはいえ、Asia Pacific MBA Schoolsが集結するのだから、英語を想定していていたものの、やはりここは中国だと考えを改める。スポンサーとなった弊社ロゴをEnglish表記ではなく中文表記にして正解だったと、本社マーケティング部のアドバイスに思わず感謝する。
人集りに、食事量に、中国語に圧倒され、チーム紹介はチームキャプテンのKellyの中国語に任せ、会場を後にする。ホテルでの話は割愛。
●レース1日目
朝5時半起床。着替えて朝食をとる。
ローカルな朝食。あまり食欲のわくメニューではなかったが、32kmを完走するにはエネルギー補給は欠かせないため、最低限の量をとる。トイレのタイミングがなく、不安が募る。
バス移動。
近いとはいえ、バスで1時間半の道のり。景色が砂漠に変わっていく。
会場付近に近づくと、たくさんのバスが連なって走る。スタート地点に向かっている。
会場到着。
凄い人だかり、そして予想どおりのトイレ渋滞。砂漠を歩いている人々は、それぞれの場所を探している。立ち小便する心構えがまだできていない自分はトイレに並ぶ。
特設ステージ、ここで各チームがメディアに向けてパフォーマンスをした後、スタートゲートに向けて歩く。みんな一斉に叫んでいるが全て中国語。良い感じに思考停止。自分達の番に向けて、発声するスローガンの練習。「NUS *** *** *****!!」中国語の部分は、、、ほらもう忘れている。
カウントダウンと共にレース開始。先頭集団はスタートからぶっ込んでいく。砂漠歩きの右も左もわからない僕らは、スローペースでスタート。砂漠に足を踏み入れた瞬間に、これから待ち受ける過酷さに身体が反応する。
早速待ち受ける砂山Dune。スティックを頼りによじ登る。登れば下り。前方を見ると、先行者の作る列が見える。各々がルートを作るため、経路は1つではない。どの道を選ぶか。
32kmも歩いた経験がない自分は、単純計算で1時間あたりの距離を概算する。32kmを9時間。余裕を持って1時間前にゴールするとして、1時間あたり4km。平地での大人の標準的な歩行スピードだ。これならば、ペアのJunyoungもついて来られるだろう。
しかしながら、想定はしていたものの、砂漠で一時間4kmの進むのは簡単ではない。最初の1時間で3.8kmしか進めず、早くも危機感が頭をよぎる。
5.5 kmで最初のチェックポイントに到達。運営から支給されたシューズカバーがレース開始早々に機能しなくなった為、装備し直す。同じく支給された食料を摂取し、リフレッシュする。ただし、10分程度休憩したため、時間がさらに厳しくなる。
チェックポイントを出発し、次のルートに向かう。ルートが水辺に近くなり、やや地面が固く、歩きやすくなる。1時間4kmのペースを貫くために、ややペースを上げ、相方にもそのペースについてくるように鼓舞する。時々振り向くも、徐々に相方が遅れていることに気づく。
32kmの道のりのわずか8kmの地点ではあるが、大きな決断をする。NUSチーム誰一人、初日をクリアできない事態を防ぐため、トランシーバーを相方に預けて先に進む旨を告げる。
一人旅の戦い。まずはペースを取り戻すために、1時間5kmを想定するペースで歩く。シンガポールで、自分の歩く速さを測定し、どの程度、力を入れて歩けば良いかはわかっていた。Apple watchの機能が頼り。
人を抜かすとその度に力が湧くような感じを経験する。ペースが上がってきた。
第二チェックポイントに到着。ややペースを盛り返す。ただ、チェックポイントでIDカードをスキャンする為の列ができており、無駄な時間を消費しイラっとする。一度ランニングシューズの中に入ってしまった砂を取り除く。そしてすでに役立たずになっているシューズカバーを完全に外し、この先からは裸のランニングシューズで勝負する決意をする。シューズの脱ぎ履きのタイムロスを減らす為だ。
第二ポイントを出発する際に、相方の姿を見つけるが、あえて声を掛けずに先を急ぐ。
いきなりの大きな砂山。制覇した後に声を掛け合う友が側にいないのは寂しい。登りきった後も感慨に浸る間もなく、その山を駆け下りて次のチェックポイントに向けて、山なりをかき分けて進んでいく。
Desert Challengeは意思決定の連続であることに気がつく。ちらっと前方を確認し、進むべき方角を頭に入れる。そのあとに、複数目の前に提示されるルートから、自分が最善だと思うルートを選んでいく。自分で道を切り開く先頭の気分は、また格別なのだろうなとも考えながら、誰かが通った道を追いかける。
身体には、スティックを使ってリズム良く足を前に出していくことをひたすら求めた。可能な限りストロークを大きくとり、足の裏側の大きな筋肉を使うことを意識する。
誰かの足跡を追いかけるのは、省エネに有効。踏みつけた部分が少し固くなり、足が砂に取られることが少ないからだ。しかし、過度に従いすぎると、ガニ股歩きに近くなり、膝に負荷が少しずつ蓄積されることに気がつく。第3チェックポイントに到達以前に、身体の放つシグナルを聞き入れ、休憩することを決める。
砂山の上でどっかり座り、リンゴにかじりつく。後ろを見れば、たくさんのランナーがこちらに列を作って迫ってくる。後方にいる彼らは、時間内にはゴールできないだろう。別の山では救護車があり、誰かが治療を受けている。みんなの顔に疲れが見える。
再び歩き出すと、頭に流れるのはBump of Chickenの"Ever Lasting Lie"のサビの部分。”Sir Destiny アンタ 俺を見てるか… 笑えよ この俺が じたばたもがいてるのを…”
しばらく歩くと、右手に水辺が見える。ぐるっと回って反対岸に到着したのだ。全長32kmの長いコースではこういうこともあるのかと納得する。
3つ目のチェックポイントに到着した。18kmの地点だ。スイカがランナーの為に提供されていた。カリウム補給だ。めちゃめちゃ美味い。一切れでは足りず、3カット食べた。エネルギー切れを避ける為に携帯食を2つ摂取した。第四チェックポイント用に1つ残りしておく。
再出発。相変わらずアップダウンが続く。砂漠の生き物の動きを参考に色々な歩き方を試していると誰も足を踏み入れていない部分は足の踏み方次第で、アスファルトと同様に歩けることがわかった。これは省エネにつながる。前方を見ながら、省エネできそうなルートを選ぶ知恵がついた。と、にわかに道が土の道に変わる。喜ぶ一方、砂山に歩きに慣れていた足は大きな反発を受ける土の道に違和感を訴える。靴に砂がたくさん入っていたからだ。ここで本日4回目の砂除去を行う。時間は無駄にできない為なるべく手早く。シューズカバーを撤去した分、作業は迅速になった。
土の道、普通の道、早歩きで普通に距離が伸びる。どこまでも続いて欲しい。今が時間を稼ぐ時。走ると後半どうなるかわからないので、可能な限り競歩する。この辺りで、Apple watchのバッテリーが尽きる。計測モードだと、消費が早い。
この道は歩きやすいが、自分の位置がどのあたりかわからなくなる。6km置きに設置されたチェックポイントを無意識に探すが見当たらない。順調だと思っていた足に急に疲れを感じ始める。砂漠の中に建造物を見つける度に、チェックポイントかもしれないと期待してしまう。だけどまだまだ現れない。
またひとつ山を越えると、前方に駆け足する人が見える。本物のチェックポイントがそこにあるのだ。途方もなく6kmが遠いと感じたが、チェックポイントには26.5kmと表記されている。休憩所の時計を見ると確かにもう17時を過ぎていた。あー、開始から7時間も歩き続けている。チェックポイント3と4の間は8.5kmもあったわけだが、気持ちとしては嬉しい誤算だった。残り8kmが5.5kmなのだから。残念ながら、この最後のチェックポイントには水以外、目ぼしい補給アイテムはなかった。気をとりなおし、再スタート。
5.5kmといえ、やはり走行距離がわからないと気持ちが乗ってこない。ここで砂のアップダウンのない平地が最も歩きにくいことがわかる。その原因は、疲労で腸腰筋(足を持ち上げる筋肉)が弱まり、大股で歩けなくなっており、ランダムで残された足跡のストロークが短いものしか選べなくなっているからだった。逆に上りについては意識してスティックの長さを短めに調整し、斜面に対して前傾姿勢をとり力が入りやすいようにしていたので、他のランナーより早かった。下りは、足を上げなくてもストロークを広げられるので問題なかった。平地ボコボコ道つらい。歩きづれぇ!!と叫んでいた。実際にスピードが出ないので、抜かされることも多く、精神的なキツさを増していた。戻ったらマジで腸腰筋鍛えようと心に誓った。
第4チェックポイント通過時点で、今までのペースを維持できれば、制限時間内にゴールできる見通しはついたので、時間に対するプレッシャーはなくなっていたが、最後は純粋に体力との戦いだった。しかも、第4チェックポイントから1日目のゴールまでは完全に砂漠道であり、容赦なかった。これまで、歩きながら水を飲むスキルを途中で身につけて(決して立ち止まらない)、度々凌いできたが、一度だけ立ち止まって水を飲んだ。本当にきつかった。俺の足頑張れと声をかけた。休むと今まで近くで歩いていた他のランナーがどんどん遠くなる。また動き出さなければ!明らかに、第一チェックポイントに到達するまでの他のメンバーの足取りと、体力を考えると、自分以外にチームメイトで完走できるプレイヤーはいない。あれだけ、スポンサーを集めて、Young Mental Healthへの寄付金を募ってロビー活動を行ったのに、誰一人完走できないのはマジで笑えない。制限時間内にゴールすることは、このDesert Challengeにコミットメントした自分の意地でもあった。
また脳内で流す音楽を探す。でもやはり流れてくるのは、Ever Lasting Laiのサビ。じたばたもがく俺を笑って見るがいいが、俺はやりきるぞという気持ちだった。そこには神は出てこなかった。この精神状態でまだ神に救いを求めないというとこは、俺はまだジーザスの言葉を受け入れるステージではないことも、今となって気がついた。
ただひたすらに、足をテンポよく動かす。山の上に手をふる人が見える。歓喜をあげる人がいる。そこに何かある。
山を登りきると、キャンプ地が見えた。叫んでいた。まだ距離はあったが、ゴールを捉えてからは疲労が軽くなった気がした。何人かは走り出す。僕は走りたくてもその力は残っていなかった。ただ一歩一歩近づいた。この斜面を駆け下りるとゴールゲートがある場所まで到着した。ここでずっとリュックにしまっていた、スポンサーロゴ入りのホワイトフラッグを取り出し、身に纏った。ゴールする瞬間だけ、ほんの少し走った。ゴールテープの向こう側でメディアの人が写真を撮ってくれていた。ちゃんと三菱ケミカルのロゴが写っていると良いな。これも自分の大事な任務の一つだ。
1日目を完走した。10:00スタート、19:30がデッドライン。僕がゴールにたどり着いたのは18:50だった。中盤、大分ペースを巻き返した甲斐があった。
ただ、ゴールゲートを超えてから、キャンプ地A4に向かうまでが辛かった。もはやアドレナリンの切れた自分の足はいうことをきかない。A4に行くと、前半のチェックポイントで無念にもドロップアウトを余儀無くされたメンバーが先に着いており、テントを設営してくれていた。完走したことをとても讃えてくれて、十分休めるように配慮してくれた。スティック無しではまともに歩けないほど疲れていた僕は、その好意に全力で甘えた。靴を脱ぎさり、テントに倒れた。疲労が回復するようにストレッチに努めたが、どれほど効果があるかは懐疑的だった。
話を聞くと10人中8人が第三チェックポイントでGive upを余儀無くされたらしい。チェックポイントからキャンプ地まではジープやSUVで送迎されるが、その途中で僕の姿を見たらしい。意気消沈させるわけには行かず、声をかけずに僕の後ろ姿の写真だけを撮ったらしい。最後まで残れずごめんと言っていた。自分の相方のJunyoungは送迎車両に収容されず、今もまだゴールを目指して歩いていると言う。19:45頃にトランシーバーが鳴った。あと10分ぐらいでゴールできると思うが、”I’m fucking tired”と発していた。彼の気持ちがよくわかった。マジでFucking Tiredなんだよ。そこを共感できる友がいるのは嬉しかった。
足のかかとに痛みがあり、よく見ると靴と(砂?)が皮膚とすれて皮がむけていることに気がついた。簡易医療を施すテントに向かった。医者は中国語しか話さず、参加者のほとんどが中国人で、どう順番を待てば良いかわからなかった。先に来て待っている人に列を聞いても、ここに座って待っていれば良いよと言ってくれるものの、後から入ってくる新参者が、中国語で大きな声で話しながら空いているスペースに入り込んでくる。誰も場の秩序を保とうとしない。医者は医者で目の前に差し出された怪我の対応にしか興味がなく、順番などは気にしていない。Excuse me? What are you doing? I’m waiting here longer than you. More than 10min. What happened? と言うと、ここに座ったら次見てもらえるよと場所を譲られた。声が大きいものが場を支配する社会を垣間見た。
その後、用を足す程度の最低限のことしか動かなかった。夕食の食器の洗い物もチームメイトに任せた。21:30には床についたと思う。明日も27km歩かなければいけない。5km短いとはいえ、この疲労が明日に残るとキツイ。俺の足よ、回復しろ!!と念じながら眠りについた。砂漠の夜空は非常に楽しみにしていたが、靄がかかって星空は見えなった。非常に残念だった。
深夜1:45、相方がトイレに行くためにテントから出るときに目がさめる。気温が下がっていた。寝袋にしっかり入り直して、また寝るように務めた。
●2日目
朝5:30、周りのテントがガヤガヤ騒がしくなっていることに気がつき目が覚めた。まだ少しあたりは薄暗く、砂漠の中の徘徊者が多い時間だった。6時に朝食の提供が始まった。列を作って待っている人がいる一方、列を気にせず直接カウンターに食料を取りに行く人々も一定の割合でいた。おそらく、提供方法をみるに、一本の列を作らずに、直接カウンターに行くほうが配給効率は高い。ただ、列に並んで待っている人からすると、ショートカットされてことは許し難かった。こういう時には、秩序を作るオーガナイザーの存在が必要であると感じた。
僕は一旦列に並んでしまった手前、列に並ぶのを放棄して、カウンターに流れ込むという選択を取りづらかった。そうしたくなかった。損なことはわかっていたが、一種のポリシーみたいなものだ。時間はかかった。
朝食をとった後、重要な決断をした。野糞をする覚悟を決めたことだ。自分も砂漠の徘徊者の一人になった。あちらこちらでしゃがんでいる人々がいる。女子も男子も関係ない。トイレの絶対数が少なく、また環境も劣悪なため、野糞をするよう迫られたのだ。徘徊ゾーンには先客の糞がいくつもあった。砂漠にはフンコロガシがたくましく生息しており、彼らの存在を思えば、いまの自分の行為は正当化される気がした。生まれて初めて野糞を経験し、犬のように砂をかけた。ティッシュは分解に時間がかかるために、ゴミ袋に入れて処理をした。
2日目レーススタート
2日目はスタート段階から腸腰筋の回復は不十分であると悟りながらも、いくつかの点で前日より好条件だと自分に言い聞かせた。1)5km少ないこと。2)大便を済ませていること。3)Apple Watchを夜中にLaptopと繋げてフル充電したこと・・・etc.
実際、開始直前は、チームメイトに完走を期待されるも不安だった。スタートポジションを前日よりも良い場所を確保すべく、細かい雑用は免除されて先にキャンプ地点より送り出された。まずは身体を温めなければ話にならないと、昨日と同じように、最初は身体にリズムを刻んでペースを作ることに専念することに決めた。
レース開始。一斉に先頭集団が飛び出す。駆け上がる人に押し倒されないようにしながら、自分もスタートを切った。先頭はどんどん遠くなる。なんて身軽さだ。レベルを10段階ぐらいあげなければ、あの領域には達しできない。ひとまず、かなりの人に抜かされながらも、最初の1kmをせっせと歩いた。ここで、周りよりもペースは遅いものの、目標ペース通りに歩けていることに気がつくと、足取りが少し軽くなった。ストロークはなるべく大きく、足の裏の筋肉を使うことは昨日と同じだ。スタート地点は水辺の近くであり、砂ではなく土の上を歩けることも、自分を元気づけた。2日目のコースは非常に印象深く、湖を渡った。湖のおそらく塩分と固形分が多いエリアを歩いた。歩くたびに地面はプルプルと動くが沈みはしない。非常に面白い体験だった。
ちなみに2日目のNUSチームの作戦は、自分を先に行かせて、残りのメンバーは行けるところまで行くだった。昨日は完走したJunyoungも後方隊に回った。体力と運動能力から考えると、妥当な作戦ではあるが、孤独の戦いを2日目も課される自分としては寂しい。2日目は先頭の自分がトランシーバーを持ち、各チェックポイントに到着するたびに後方部隊に連絡し、鼓舞した。
2日目は、正直1日目よりも順調だった。初めから一人でペースを作れたこと、身体が砂漠歩きに慣れたのか疲労の蓄積感が少なかったこと、一度身体が温まれば、足の疲労が消えたこと。というわけで、チェックポイント3まではかなりのハイペースで来ることができた。ぐんぐん先行者を抜かして行く楽しみを感じながら。自分に“Dune歩行マスター”とか、“Dune登りのスキルが開花した”などと言いながら、サクサクきた。ただし、第3チェックポイントを過ぎたあたりから、異変を感じる。少しペースをあげ過ぎたのか、また平地ボコボコ道が続いたためか、足が上がらずペースダウンを経験した。平坦な道で他のプレイヤーに抜かされる。登りと下りで追いつく、追い越す。そしてまた平坦道で追いつかれる。2日目に歩いていたポジションでは、周りもかなりの速度を維持しながら走るプレイヤーばかりで、一進一退を繰り返していた。あるときは自分が先頭に立って追われながら、そしてある時は自分が後ろにつき追いながら。ここで、隊列を組んで歩行している組の利点を見た。
隊列を組むと、スピードこそやや落ちるが、前を追う立場としては、物事が簡単になり、エネルギーを浪費せずに済む。例えば、すぐ前を歩く人の足跡を自分で追うだけで良い。先頭者はそれなりのスキルを要求されるが、一番良い方式は、区間ごとにメンバーで先頭を交代しながら進むことだと思う。明日チームに提案してみよう。
ペースダウンに苦労しながらも、なんとか第4チェックポイントまで辿り着いた。無線で仲間に何を言おうか。
”I’ve reached 4th check point, but I’m fucking tired”と言ってやろうとチェックポイントに着く前には考えていたが、口に出た言葉は、” I’ve reached 4th CP, the rest is only 4km, it’s almost there, good luck guys”だった。
残り4kmといえば、あと一時間歩き続ければ着く距離だ。そう思いながら歩いた。歩いても歩いてもこういう時は時間の進みが遅い。そういえば、写真を全く撮っていない。Air plainモードにしておけば、無駄に電池を消耗しないことを前日に学んだこの2日目は、電池残量はあるものの、写真は一つも撮っていなかった。「ゴールも近いから、気晴らしにあの砂丘の山まで頑張って歩いて、そこで写真やビデオを撮る為に休憩しよう。」などと適当に理由を作りながら、近いターゲットを設定し、歩みを進めていった。
1日目と同様、また1つの砂丘を越えたところでにわかに前方が活気ついている場に来た。彼らはゴール地点を目視で捉えたのだ。その後は1日目と同じで、身体がまた軽くなった。人の気持ちと身体とは非常に不思議なものだ。この日は格別に嬉しかった。昨日は嬉しさの反面、また次の日27kmを完走できるのかと疑問を抱えていたが、明日はわずか11kmだけであることを考えると、前日よりも楽観的になれた。
2日目、15時45分ゴール。無線は2日目を完走した時点でバッテリーが切れた。
2日目ゴール後
レース直後にまた異変はやってきた。足が昨日の夜以上に役に立たなくなっている。2日目のテントサイトは1日目よりも設備が整っていた。ゴールゲートは4時半に閉鎖され、夕方のライブイベントの為に備えて、みんな楽しそうにしている。途中にリタイアしてしまった仲間(歩き続けたいと主張したようだが、また強制収容されてしまったようだ)と合流し、スポンサーに向けてチーム写真をたくさん撮ったが、メンバーに肩を借りなければまともに動けなかった。1日目に踵の部分が擦れて皮が向けていたが、傷が悪化しており消毒が必要だった。チームメイトに傷の手当や食事の手配を手伝ってもらった後は、早々に休むことに決めた。夜のライブイベントは明日のことを考え参加を自重し、テント中でサンドストームに揺れるテントを仰向けになり眺めながら、“俺の足よ回復しろ”と念じる、なんともシュールな時間を過ごした。チームリーダーのKellyが自分には内緒で3日間前に誕生日を迎えた自分のためにライブ会場でHappy Birth Day Callするサプライズを用意してくれていたのだが、登壇はもちろんできなかった。ただ、すべて中国語なので、仮に自分の名前を呼ばれても気づけない為、そこは割り切ってそのまま寝ることに務めた。
●3日目
朝、口に砂の感触を感じて目が覚めた。相変わらずひどいサンドストームが続いている。相方がトイレの為にテントの外に出た際に、砂が少し入ってきたのだ。思わず水で口をゆすいだ。唇がかさかさだ。
サンドストームのみならず、雨まで降り出した。靴が濡れて重くなっては、大きなハンディキャップを背負うので、靴を濡らさないように死守した。おまけに砂漠の夜は寒く、凍えた。手足の震えが止まらなかった。“なんで今日に限って砂漠に雨が降るんだ!”と本気で憤った。
防寒具でガチガチに着込んだ状態で、今日の意気込みについてみんなに伝えた。”I wanna finish the race with you all today, let’s complete 11km. We need to reach 1st CP within setting time. Please follow me. Otherwise you can’t make it happened.” チームメイトは、全力を出して歩き切ることを誓ってくれた。ただし、自分が時間以内にゴールすることがチームとしても最重要だということで、自分は11kmといえど、自分のペース作りに専念することで落ち着いた。
3日目スタート時間が近づいてきた。我々チームはスタート8時の20分前にスタートゲートに向かい、ポジション取りに務めた。人数が2,000人超もいる為、スタートポジションが後方になるだけで、5分程度のロスが発生してしまうからだ。
開始直前まで、相変わらず身体が重い。まだ足を引き上げる力が回復しておらず、膝を持ち上げると筋肉に痛みすら感じる。まずは身体を温めることが先決だった。
3日目レーススタート。先頭集団は一斉に走り出す。“どこにそんな体力が残っているんだこいつらは?“と考えながらも、中国の大学ではこの大会の為にスポーツ推薦で入学している人もいることを思い出す。自分は自分、後方に抜かされながらも自分のペースで進み始める。
開始間もなく、雨が止み、気温の上昇を感じた。1日目と2日目で身体に刻み混んだリズムで歩みを進めると、次第に足が動くようになってくる。少し時間のロスになることを承知しつつ、一度防寒具を脱ぐ為に小停止した。人が逃げるように過ぎ去っていく。まだこの先頭集団では、自分は遅い方なんだなと改めて感じた。きっと彼らはこの3日間で力を発揮する為に特別な準備をしてきたのだろう。それが自分と彼らの差だ。新しい環境でヒントを見つけつつなんとか人並み以上に生き抜いていく力はある確認はできたが、決定的に大ごとを成し遂げるには、それなりの準備も必要だと再確認した。そして、他の人が通った足跡ではなく、まっさらな砂の上に自分だけの道をつけていきたいとも感じた。それは単なる省エネの為だけでなく違った景色を見る為に。
結果的にペースは二日目同等まで上げることができた。1時間に4kmのペースだ。最終日のただ一つのチェックポイントには、距離が短いこともあり、目ぼしい補給アイテムはなかったので、昨夜仕込んでおいたアミノバイタルを溶かした水を補給してすぐに出発した。
CPを過ぎても3日目は周りの皆のペースが早かった。その流れに乗って、あまり深く考えずに進めた。やがて遠くの方に建造物が見えてきた。周りにはゴール地点と判断し走り出す者もいたが、Apple Watchはまだ8.5kmと表示している。この3日間でApple Watchの計測精度の高さを実感していた自分は、まだゴールではないと判断し、走ろうとする気持ちを抑えた。建造物の近くまで来た時、それがまだゴールではないことを確認した。その先にはアスファルトの道が2km以上続いている。もうスティックはいらない。最後の最後はMCCロゴいりフラッグ両手に走ってゴールしようと決めていた。体力が保てる場所まで我慢して早歩きで進んだ。そして、ゴールゲートを目視で200mに捉えた時点でLast Run開始。それなり大きさのフラッグである為、一人では風でバタバタフラッグがはためき、上手くいかない。それでも、ゴールする走者に向けてカメラマンに向けて、頑張ってポーズを決めた。
制限時間20分前の10時40分ゴール!任務の1つ完了。
完走の証であるメダルと栄養ドリンクをもらい、再びコースに遡る。
5分ぐらい戻ったところで、チームメイトを見つける。Andrew! やった、彼はまだ走れば11時までに間に合う。合流して一緒に並走してゴールゲートに向かった。今度は二人でフラッグの四隅を持ったので、綺麗にフラッグが映る。やった!!
その後も、ゴールしてはコースに戻り、次々とゴールする仲間を迎えた。設定時間の11時までにゴールできたのは、自分とAndrewの二人だけだったが、15分以内にまたパートナーのJunyoungを含む2人、そして30分後にはまたキャプテンKellyを含む4人がゴールした。ゴールゲートが完全に撤収してしまう12時までに、最後の1人も無事に完走することができた。
これで完全にチームNUSMBA +++のChallengeは完了。思う存分集合写真を撮って、豪華な昼食の待つレセプション会場に移動した。
その日の夜、幸運にも部屋のグレードアップがなされて、バスタブがついてある部屋が当たり歓喜した。砂まみれの身体がようやくリフレッシュされ、質の良い眠りを手に入れることができた。
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最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
"他の人が通った足跡の続く道ではなく、まっさらな砂の上に自分だけの道をつけていきたい。"
この衝動はこの先も忘れられないものになると思います。
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