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vol.53『ツバメとわたし㉖~最強、最恐ツバメ城誕生か~』

(前回作はこちら→『ツバメとわたし㉕』

 ツバメが寄り付かなくなって、すでに5日が経とうとしていた。その間、ツバメは車庫を出たり入ったり、車庫前をぐるぐる旋回したり、電線に止まって様子を見ていたり。作り物とはいえ、照明の上で睨みをきかせているのはハイクオリティなヘビである。ツバメの目には、本物として映っているのであろう。

 こんなに長い間、ツバメが寄り付かなかったことはない。もうおそらく、ツバメは来ないだろう。これは勝ったな。とうとう勝ったな。ツバメに。

 そう思うようになってから、今までのツバメとの闘い、というか知恵比べ、というか攻防戦が懐かしくもあり、楽しい思い出に変わりつつあった。喉元過ぎれば熱さを忘れるとは、まさにこのこと。ありがとう。ツバメ。なんだかんだで楽しかった。


 その翌日。
 小鳥の鳴く声がちょっと騒がしい。隣の家の軒下にいるツバメたちが騒いでいるのかな。でも、わたしにはもう関係ない。ツバメに関しては、もう他人事。傍観者な気持ちで車庫に向かう。


 そして、車庫に到着すると一瞬でフリーズした。


 目に飛び込んできたのは、壁掛け照明の上にいるヘビ。数日間、ツバメから巣作りを阻止してきたヘビ。なんと、そのヘビの上にワラが乗っている。ドロもヘビの体についていて、ドロ遊びしたやんちゃなヘビみたいになっている。

 わたしはその状況からすべてを察した。やられた。ツバメだ。ヘビを作り物だと見抜き、巣作りを再開したようだ。なんてお利口なんだ、ツバメ。ややトグロを巻いた形のヘビは、いい感じで巣の骨組みのようになり、より一層強固な土台を築き上げている。
 しかもだ。まだ完成はしていないが、ツバメの巣の完成予想図は、前面にヘビの顔が出ている巣になる。これは、恐ろしい。想像しただけでもすごい。作りも頑丈な上、見た目も最強ではないか。家の顔がヘビって、そこの住人は相当な悪党だ。なかなかの威嚇。結果、だれも寄り付かない安心安全な巣になっているではないか。ツバメ、ナイスカスタマイズ!

 あの手この手のツバメ避け施策を試してきたが、そのたびにツバメに軍配があがっていた。そして、今回もだ。今度こそ、ツバメに勝てると思っていた。だって、5日間もツバメは来なかったんだもん。わたしは、これはいよいよ勝利かと半ば安心しきっていた。でも、ツバメは諦めていなかったのだ。ツバメは、照明の上で鎮座するヘビの様子を虎視眈々と伺い、ヘビは作り物だと見極め、しまいにはそのヘビを巣の材料に利用する。冷静沈着、頭脳明晰な策士。決してブレず、目標を見失わないツバメの姿勢は、もう尊敬に値する。

 さて、どうしたものか……。このままでは、最強の、いや最恐のツバメ城がここに完成してしまう!


(つづく)


最後までお読みいただき、ありがとうございました(*'▽')
『ツバメとわたし㉗』を更新しましたので、よろしくお願いします。

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