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新曲Butterでディスラプターからメインストリームへ(後編)〜BTSって全ての変化のシンボルな気がする・その4

5月23日のビルボード・ミュージック・アワード2021で4冠に輝いたBTS(防弾少年団)。ロサンゼルスの会場を韓国・ソウルで再現し、記念写真と喜びのインタビュー。初披露した新曲Butterライブもド派手、これも全部ソウルのスタジオ、1曲の中で明らかに高価なセットチェンジ5回。ダンスブレイクのJ-Hope(愛称ホビ)がカッコ良すぎてYouTubeで何度見ても叫んでしまうし、ARMY(BTSファン)たちのライブ賞賛ツイートやライブ再編集字幕付きYouTube動画を見るたびに新たな発見があるし(たとえばVが振り付けで手首にキスする動作が優しく接近しすぎて理想の彼氏すぎるとか)。

瞬く間に作られる大量のファン創作コンテンツ

一度きりのテレビ放送ライブを、YouTubeやSNSを通じてファンが自由に再編集していくらでもネット投稿OK‼︎ わずか3分のライブ映像からARMYが何時間もネット上で楽しみ続けられるコンテンツが大量生産されていきます。

リアクション動画って私はBTSのファンになって初めて知りました。世界中の素人ファンがBTSの動画を見ながらキャーキャー騒ぐだけ。でも、なんとも可愛いんです。あっという間に大量に出回る。(以下ランダムです、おすすめ順ではない)
https://youtu.be/oTljc4a2J6I
https://youtu.be/8kG05TjTi8Y
https://youtu.be/_wltyx-qXiQ
https://youtu.be/qxVHaaun8_U
https://youtu.be/UtSwZmUWC5Y

最近はBTS人気に便乗するプロたちが大量のリアクションをアップして小銭稼ぎ。
自称ミュージシャンのリアクション
https://youtu.be/NkecntWkivE
自称プロデューサーのリアクション
https://youtu.be/UtSwZmUWC5Y
自称ダンサーのリアクション
https://youtu.be/yvM-NwVoSYA
自称ボーカルコーチのリアクション
https://youtu.be/ReQXz_boDBg

いやもうとにかく、1つぶで何度おいしいのか分からないくらい、ARMYなら他のコンテンツを見る暇ないっていう状況に陥ります。

これ、すべて、BTSの所属事務所のビジョンと戦略から生まれました。音楽業界の革新、ディスラプションです。

​「負け犬スタートアップ」BTSがディスラプター(既存秩序の破壊者)になった3つの理由

5/13に世界的音楽誌ローリングストーンの表紙を飾ったBTS。カバー記事のタイトルは「BTSの偉業~7人の若者がどうやって音楽ビジネスのルールを塗り替え世界最大のバンドになったのか」。

ローリングストーンは、BTSが所属するビッグ・ヒット(現HYBE)の過去をこう表現しています。

Big Hit was an underdog startup in a South Korean music business
ビックヒットは韓国音楽ビジネス界の負け犬(underdog)スタートアップだった

ビッグヒットエンターテインメントは2005年創業。日本でも人気のNiziuを見出した大物プロデューサーJ.Y.パークが経営するJYPから独立しての起業でした。創業者はバン・シヒョクPD(プロデューサー)。JYPがスターの2PMをレンタルしてくれて何とかスタートを切りましたが、弱小プロダクションでした。

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Kポップ業界では、長らく「ビッグ3」と呼ばれた3つの事務所(JYPもその一角)が君臨し、プロモーションに不可欠だった韓国のテレビの放送時間を独占。弱小ビッグヒットからデビューしたBTS (防弾少年団)は陰に陽に嫌がらせを受け、かなり苦労したようです。ARMYが有志でつくったこちらのドキュメンタリー(日本語字幕付き)に経緯が詳しく描かれています。人気が出始めると「ファン投票を操作した」といった誹謗中傷を受けたり、音楽特番での扱いが酷かったりしたそうです。

そんなBTSがなぜ、世界のトップに上り詰めたのか。実はハーバード・ビジネス・スクールがマーケティングのケースとして分析しています。
ケースには、ビッグ・ヒットの転機となった2011年の出来事が詳しく記されていました。

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1. 転機となった「3日間の合宿」~ファンの孤独を癒したい

創業6年で経営に行き詰まりかけていたビッグヒットは2011年、活動をすべて休止し「アイドルに求められることをゼロから考え直そう」と全社員が数か月にわたり市場調査にあたりました。アイドルとは何か、ファンはどんな人で何を求めているのか。その結果を持ち寄り、幹部全員で3日間のワークショップを開いたといいます。
彼らの結論。「デジタル技術の発展で(SNS等で)人はつながりやすくなったのに、実は多くの人々が孤立感を深めている。この人たちを助け、励まし、癒す方法を考えなければならない。」

「人々を癒す」というビジョンは後に、YouTubeチャンネルで流れるBTSの全てのMVの冒頭にしっかりと刻まれることになります。
「Music & Artist for Healing」(癒しのための音楽とアーティスト)

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※昨年、ビッグヒットは企業名をHYBEに変更し上場。企業ビジョンも「We Believe in Music」(われわれは音楽の力を信じている)に変更しています

2. 癒しのための真実らしさ = 自分たちのリアルを表現するアイドル、BTS

BTS「防弾少年団(BulletProof BoyScout)」は、10代の少年少女の心を大人や学校の「銃弾」から守りたい、そんなコンセプトで始まりました。最初のメンバーは10代ラッパーのRM。その周りをSUGA、J-HOPEとラッパーで固め、その後アイドルキャラクターのジン、ジョングク、V、ジミンを追加しました。当初バン・シヒョクPDはラップグループを作るつもりだったことが、デビュー直後のバラエティ番組でのラッパーSUGA(本名ミン・ユンギ)の切実な告白からも伺えます。「ダンスはしなくても良いって言われたのに!」(笑えるので是非ご覧あれ)

BTSリーダーのRMがビッグヒットに入ったのは2011年。BTSデビューは2013年。
バンPDはおそらく2011年のビッグヒットの経営合宿を受けてBTSの路線を変更したのだろうと推測しています。
自分たちの言葉で、同年代のファンに対してメッセージを語れる10代のラッパーを核にしたアイドルグループ。ファンが共感できる強いメッセージを載せたラップを、ハイレベルな歌・踊り・ルックスのメンバーと組み合わせた斬新なコンセプト。
BTSはアイドルにもかかわらずメンバー自身が楽曲に積極的に関与していますが、そのベースは3人のラッパーたちが形作っています。
彼らの成長にあわせてメッセージも変化。昨年にはコロナ下でのしんどい日常を素直に歌った「Life Goes On」が、韓国語の歌詞にもかかわらずアメリカでも大ヒットしました。

3. 常にファンの側に〜SNS、バラエティ、ステージの裏側そして日常

「常にファンの身近にいて、ファンを癒す」。BTSはビッグヒットのコンセプトを徹頭徹尾、貫き通してきました。メンバーのSNS発信は事務所の事前チェックなし。大きなイベントのあとやMV制作後は必ずメイキング動画をYouTubeにアップ。月に1回、メンバーがひたすらさまざまなゲームに興じるシンプルなバラエティ番組「走れ! バンタン」をファンクラブ専用「WeVerse」アプリで配信、その後ファンにより数日もしないうちに見やすい日本語字幕がつけられそのままYouTubeにアップされる。これ、お咎めなし。
ライブも、MVも、記者会見やバラエティも、ステージの裏側の動画も、、、ファンの二次創作は原則OK、過去の動画をいくら使ってもどう使っても字幕をたくさん入れても、お咎めなし。ファンも必ず元のコンテンツへのリンクを貼ってバンドへのリスペクトを忘れない。高い熱量でBTSの良さをひたすら拡散してくれるファンたちの気持ちを大切にしたことで、BTSは旧来型のマーケティング費用をあまり使わなくとも世界に広がっていったのです。

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これほどまでにネットを使い倒したアイドルはBTSが初めてでしょう。BTS沼にはまった当初の私は毎晩2-3時間、関連動画をずっとYouTubeで見ていました。それを1か月続けてもまだ飽きないくらい、無料なのに面白いコンテンツがある。
負け犬スタートアップだったからこそ取れた戦略です。テレビ局の枠がスムーズに確保できていたら、従来通りテレビを重視していたら、今のBTSは存在しなかったでしょう。そして、YouTubeといったグローバルなコンテンツ配信プラットフォームがなければ、今のBTSは存在していません。

ネットを使い倒したと言っても、あくまで「ファンのために」というビジョンはぶれなかった。YouTubeというグローバルプラットフォームに集まる世界中のファンがBTSに共鳴して、強固なファンベース「ARMY」が出来上がっていきました。

「お客さんのニーズを徹底的に探った」「そのニーズに(表層的ではなく)本質的に答えるためのビジョンを言語化した」「そのビジョンをぶらさず徹底的に実行した」「実行にあたっては徹底的に顧客ファーストを貫いた」・・・
経営とマーケティングの教科書みたいなお話なんです。

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爆イケのライブパフォーマンスと、キュートだったりダメ人間だったりするバラエティのギャップ。。。沼は深いです。

強固なファンベースが出来上がってからのビッグヒットの戦略もめちゃめちゃ面白いのですが、その話はまた次の機会に。

ディスラプターからメインストリームへ

こうやってファンにひたすらに寄り添うことで世界的スターになったBTSですが、新曲Butterでは、プロによる計算され尽くしたマーケティングの匂いがプンプンしています。
詳しくはこちらの前編をご覧ください。

曲の中でわざわざARMYに「ついてきて」と訴えなければならないほど、自分たちの変化を自覚しているのだと思います。

ARMYは新たなステージに踏み出したBTSについていくでしょうか? 
SNSにあふれるButterへの熱烈な反応を見る限り、ついていくのだと思います。自分たちが育てた愛するメンバーたちを、簡単に見限ったりすることはないでしょう。

Let's Go! BTS!

徒然なるままに書いてしまいましたが、いったん公開します。公開後も微修正していますが、あしからず。

BTSについての過去の投稿はこちら↓




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