忘れる

義父が、石油ファンヒーターを切れなくなったと言うので、一緒に見に行った。

電源ボタンの横にある入切の文字を押しているのだ。

以前携帯電話でも、短縮ダイヤルのボタンではなく、それぞれのボタンの相手の名前が表示されている部分を押していた。

押すべき部分が、わからなくなっている。

その事を説明すると、以前は簡単に出来ていたことが、出来なくなったことにショックを受けていた。

この時初めて、車の運転が出来なくなったことを認識したみたいだ。

もう何年も前に免許証を返納していたのだが、本人はまだ運転できたのにと、ずっと思っていたし、いい続けていた。

それをこの時初めて、もう運転は出来ないと、気がついた。

以前、免許証の更新の時、アナログ時計の時間を読めないと言っていた人がいたが、自分は何でそんなことがわからないのかと思ったが、今はその人の気持ちがわかるとも言ってた。

歳をとれば誰だって、こうやって忘れたり出来なくなったりするもんですよ、と伝えた。

義父は納得したようなことを言っていたが、やはり寂しく思ったと思う。

たぶん、この時のことは忘れてしまうだろう。

しかしこの感情は、ぼんやりと覚えているのではないだろうか。

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