冬の触感のはじめに

季節の変わり目、なんて誰かと和気あいあいと過ごしていて感じるものじゃない。
大概一人でいるときに気づくものだ。

だから、季節の変わり目を感知したときにつきまとうのは、一人でいるときの記憶だ。

急に寒くなった。
晴れ空の青は、乾いて澄んでいるはずなのにどこか暗い。
鼻の奥をつんとさせる、冷えた大気の臭い。
車が風を切って走る音も、鋭利に聞こえる。
肌に、目に、耳に、鼻に、自分の身体のあちこちに接する、冬の訪れの空気の触り心地が、それまでと違う。

こんな空気の触感の季節に伴う変化を、いつも一人で街を歩きながら感じてきた。
それまで住んできた街や旅した街と、その街を1人で歩いているときの記憶が、おのずと自分の頭の中に現れる。

人間関係や自分の人格に挫折し、この先ずっとわたしは独りなんだと覚悟した時の、寄る辺なく危うい気持ち。
一方で、独りでいる時間はなんて美しいんだと、世界のあらゆる美しいものへの関心が研ぎ澄まされていく感覚。
そういったものが、思い起こされてくる。

こういう話をすると、夫が「でも今は一人ではない」と言う。
けれども、一人でいたときの記憶は、季節が変わる度にきっと何度でも甦る。
私は長らく自分の孤独感と一緒に居て、それが今の自分を作っていて、かつ、これからも、独り自分に向き合う時間は必要であろうから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?