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Podcast「プログレ中華水曜日」を配信しています。ここでは思いついたことを載せていきます。

マガジン

  • 五十音 (もしくはオゾマシイ何か)

    部屋の隅で適当に思い付いた文章を綴っていきます。その時読んだ小説の影響を受けることが大いにあります。

  • 日記

    文字を綴る練習

  • 丁寧に食べてみる

  • 水耕栽培日誌

  • 新たな学び

    その時興味を持ったことについてひたすらに調べてまとめた記事のまとめです。複数回に分けてまとめているものもあるので順番はバラバラかも…。

最近の記事

「助けてやれるものなら助けてやりたいさ」  ニゲ=チカは言う。  しかしろくにコミュニケーションをとりたがらない。むしろ敵対心全開なことの方が多い。可愛いペットでもないんだから、そんな人間と関わろうとは思わない。  もがき苦しむ姿を見て、皆馬鹿だなあと思うだけだ。それもこれも、全て環境がなすこと。ニゲ=チカだってこの状況で外来人と同じ立場になれば雰囲気や口調、思考すら冷静でいられないかもしれない。  外を這う虫に薫りを悟られないよう、葉巻の煙を肺に溜める。  理不尽だ。なん

    •  それはそれとして、ニゲ=チカの苦難は続いていた。  巨大な羽虫が落ちてくる。まったく、どういう原理で飛べているのか分からないが、肥えた腹の肉を割いて、食べられる状態を確認してから村に持ち帰ろうとしていた。  家三つ分ほど先。見知らぬ男が、ボトボトと落ちてくる虫に逐一反応し、狂乱している。巷で外来人と呼ばれている人種だ。うるさい。先日出会った男の方がまだましだと思えるくらい、外来人はパニックに陥っている。そんなに騒いでいると、鳥に喰われるぞ。助け舟を出しても、落ち着いてはく

      • 「せめて題材のひとつくらいは持ってこようと思ってね。ほらこれ」  お歯黒さんが机に置いた新聞の小記事には、外来人に纏わる権利問題について書かれていた。 「ほら、お手伝いさんも謂わば外来人じゃない。この記事を読んで、君なりに思ったことを書けばいいよ」  そもそも「外来人」という表現が旧世代らしく感じられるのだが、そんな相手に革新的なことを書いても嘲笑されるだけだろう。最悪村八分にされる可能性も。  女は愛想笑いと曖昧な返事をして、お歯黒さんが去っていくのを待った。しかし彼はじ

        •  すべきこととすること。  気づけば身にならないことをしている。夢想したりささくれを弄ったり。どうでもいいのに意義があるように感じようと、脳が必死に自己肯定ホルモンを排出する。私はなんて無意味な生活を送っているんだ。こうして手を動かしているのだって、その寸分前に読んだ会報の埋め合わせでしかない。自ら何かを生み出すということを、もう何年もしていないことか。  テーブル収納から金属ケースを取り出し、中に入れた煙草に火を着ける。しばらく燻らせていると、さっきまでの悩みも一緒に気化

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        • 五十音 (もしくはオゾマシイ何か)
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        • 私のVape
          1本

        記事

           しかし一体誰が? 何となくだがニゲ=チカではないように感じた。彼はこんな滑りやすくて暗いところに成人男性を運ぶような面倒なことはしない。それならば。男は息を圧し殺してじっとする。産毛の一本一本を逆立てて、水音ひとつも疑おうとする。  体感五分ほどだろうか。男以外には誰もいないことが分かってきた。ただ、以前通った鍾乳洞より狭く長いような気がする。まったく未知で真っ暗な場所に対して、どの方向に進むべきか、それがどこに通じているのか、そして安全に脱出することができるのか、男は考え

           寂しい感覚と共に目を覚ました。それはすぐに胃が消化するものを欲しているからだと気付いた。目を擦る。光がどこかに潜んでいて、暗闇に慣れていたとしても盲目に等しかった。  ここはどこだ。上半身を持ち上げようとすると、すぐ上部につるつるした大きく先の丸い円柱にぶつかる。反動を和らげようとして地面に手をつくが、そこには何もなく、虚空に向けて手を突き出すかたちになってしまった。  幸い闇に向けて落ちるというようなことにはならなかったが、右後頭部を強く打ち付けてしまった。ミネラルが染み

           これは夢なんかじゃない。そしてデジャヴなんかでもない。男は夢をみていた。生ぬるく、やや粘液質の海の上で、男は大の字に浮いていた。腹部と足先が水面下に潜っていて、上から見れば五本線で描いた星形になりそうだった。  片栗粉を一パーセント溶いたようなまったりした海水は、どこまで魚のエラを塞がずにいられるのだろうと思う。時おり男の身長ほどの深さから魚か海獣が存在することを微振動で知らせてくる。それを背中で受け止めて身をよじるが、どんどん沈んでいってしまい、しまいには餌になっていくよ

           気だるい空気を纏わせて二人は出発した。まずは白衣の男のテリトリーを。それから徐々に探索範囲を拡大していく手筈だ。  男がこれまでに通った地域は意外にもこじんまりとしていた。二十分も歩けば元の位置に戻れる。結局はニゲ=チカの管理の南端をうろうろしていただけだったのだ。しかも彼の管理区域はその三四倍は大きい。  領主により力を取り戻した男は、自力では到底帰られないだろうことを今更気づいて憔悴した。ニゲ=チカの説明では、あと五人は彼のような土地を管理する存在がいると言う。つまりこ

           苦しい顔のまま男は顔を上げる。気道が狭くなって自然と呼吸が止まる。 「まぁ、あまり難しく考えるな。お前は生きていればそれで十分だ」  ニゲ=チカは苦々しい表情を浮かべて液を出す草の球体を男に手渡してから立ち上がった。男は目礼する。  痛みはほとんど引いており、腐ったロース肉のように腫れていた足首もその痕跡を残さずに戻っていた。男も立ち上がる。これ以上何だか分からないものに足を突っ込むような真似はしたくなかった。 「待ってくれ。一緒に帰り方を見つけてほしい」 「俺はお前のお

           きつく結んだ手を開いた。爪の食い込んだ場所に、三日月形の赤く微小な点描が出来ている。男は身体を揺すりながら立ち上がる。一刻も早く安心な所で休みたかった。  もうニゲ=チカの家を出ていった理由すら思い出せない。忘却曲線の斜面が急な崖になっているようだった。戻りたい。戻ってゆっくり眠りたい。そうだ毒だ。さっきまでいた湿地体の毒が広がり始めている。じくじくとした痛み、足首の毛穴から小さく噴き出す血。男は自分が揺れ動いているのを傍観していた。終止。  朝焼けと呼ぶには眩しくない。

           蛙の口のような、横に長く、縦に大きく開いた洞窟を見たとき、男は直感のまま歩み寄った。  中の闇はそう暗くなく、少し潜った先を見ると、そこから光が漏れていた。ここはトンネルになっているようだった。  最深部は重力に耐えられなかった鍾乳石が地面に着いており、男はその間を縫うようにして先に進んだ。鍾乳石の隙間を通ったときは、日陰で冷えた石の冷たさに安心した。そしてその石に付着した自分の血を見て、ここはまだ地獄なのだと思った。  光に近づくには滑らかな石を登らなくてはならず、何度

           重たい足で這うようになったのはいつからだろう。肌がじりじりとひりついて全身がかぶれたような感覚になる。しばらく水を飲んでいない。試しにその辺の道端に生えている雑草を絞って口に含んでみたが、地面に近い草だと土の味が強く、とても飲めたものではなかった。男はニゲ=チカから飲める水の作り方を聞くべきだったと後悔した。そうしていれば、今頃ドーム状に編んだ草を傘のようにして直射日光から身を守り、しかるべきタイミングで水分を摂れただろうに。しかしそれは葉が生きているからこそ出来るのであっ

           永遠と続く茹だるような蒸し暑さに、男はついに痺れを切らした。 「あの、ここから出ていきます」  思い出した。男は極寒の地から来ていた。顔の産毛一本一本が凍る環境で、首から胸、背中にかけての暖かみを感じることが男の生き甲斐だった。そうしないとこの世に留まれないとさえ思っている。ここは地獄だ。地面を踏みしめるどころか、そのまま溶けて自分まで緑の液体になってしまう。圧倒的な乾燥による静電気もこの湿度の前では恋しさの対象だった。 「一人では危ないぞ。俺は今日はもう動く気はない」

           鰻にしか見えないが虫だそうである。  男はニゲ=チカに振る舞われた料理を頑なに拒否した。ニゲ=チカは残念そうな顔をしながら焼かれた虫の正中線上にある筋を輪ゴムを千切る要領で根本から引っ張る。焼きすぎると壁の水分も飛んで鳥が貫通できるようになるらしいから生焼けである。白くて細い筋は簡単に取り除かれ、虫はぱっくりと二つに割けた。 「水分は植物から取る。こうやって壁を絞って、捻出液を飲むんだ」  彼はそう言いながら背の低い天井を指二本で摘み、束にして絞った。男は牛の乳搾りを想

          「一丁前にカッコつけやがって。何が起きても知らないぞ」 白衣の男が手を引いた。 さっきまで無花果を絞ったような汗を壁に刷り込んでいたが、上手くいかなかった。どうしてそれをしようと思ったのか分からない。血汗は地面に垂れ、緑に元気を与える。心なしか、草花の立てるべちゃべちゃという音も大きくなった気がする。 「あれは鳥の巣だ。蜂みたいだが、中にいるのは子供じゃなくて親だ。関わると厄介なことになるぞ」 そう言って白衣の男は空を指差した。今まで気付かなかったが、地面に出来た影は空を飛ぶ

          あまりにも突然、落下した。 吸着力のある粘液テープから身を引き剥がそうとしても出来ないように、地面に吸い寄せられたまま力が入らなかった。吸収されたと言っても良い。 男は沈んでいった。思考が霧散する。血液が全て青色になったような、気分の悪い沈み方だ。 次に目を覚ますことはない。これから見る景色や事象は全て自主制作映像であり、それに文句を言うことは今の男には不可能である。そう映画館の支配人が指図する映像が見えた。 「枯れた」より「炒めた」の方が正しい表現だろう。水気を帯びたまま