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京大ロー 令和6年入試 再現答案 刑事訴訟法

①問題・出題趣旨

②再現答案(2枚)

1.本件公訴事実の記載内容は、①共謀の日時、②犯罪を実行した日時場所、③暴行の態様、④死亡の原因全てについて曖昧であり、訴因の特定を欠き、起訴は不適法となるのではないかが問題となる。
2. 訴因の特定が求められる趣旨は、審判対象画定機能と防御権告知機能にあるが、第一次的機能は前者にあり、後者はその裏返しにすぎない。また、「罪となるべき事実」(256条3項)は、特定の構成要件に当たる具体的事実であり、これが記載されていないようでは審判の対象としては不十分である一方、「犯罪の日時、場所及び方法」は、「できる限り」(256条3項)の要請の下で訴因を特定する一手段に過ぎず、訴因の特定のために不可欠の要件ではないと考えるべきである。
したがって、訴因が特定され、起訴が適法であるといえるためには、❶他の犯罪事実と識別し得る程度に事実が記載されていること、❷特定の犯罪構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的事実を明らかにしていることが必要である。
以下では、①〜④につき、上記規範をもとに要件該当性につき検討していく。
3. ①について
裁判実務が採る主観的防御説によれば、共謀とは謀議行為ではなく、犯罪の共同遂行の合意と理解される。そうすると、謀議行為の日時、場所、内容については訴因の特定にとって不可欠ではない。本件では「Yと共謀の上」と記載されているが、これはAに対する傷害致死事件に紐付けられて記載されており、Aを死亡させる行為自体は一回しかあり得ない以上、他の犯罪事実と識別可能な程度に記載されているといえる(❶充足)。また、公訴事実には「被告人又はYあるいはその両名において」とも記載されており、「共謀」と「共謀に基づく実行行為」という共同正犯の構成要件に最低限の事柄は記載されている(❷充足)。
したがって、①の記載については問題がない。
4. ②について
公訴事実には、日時については「令和4年9月29日夕刻から翌30日未明までの間」、場所については「アパート乙荘1階5号室又はその周辺において」とまでしか記載されていないものの、起訴内容はAに対する傷害致死であり、Aを死亡させる行為自体は一回しかあり得ない以上、日時場所について具体的に特定できずとも他の犯罪事実とは識別可能である(❶充足)。また、傷害致死罪の構成要件に日時場所は不可欠の要素ではない(❷充足)。
したがって、②の記載についても問題はない。
5. ③④について
上記の通り、Aに対して死亡させる行為は一回しかあり得ず、他の犯罪事実と識別可能である(❶充足)。
もっとも、公訴事実には「手段不明の暴行」や「何らかの傷害により」といった概括的記載がなされており、❷の要件を満たさないように思える。しかし、医師によれば、Aの死亡日は同年9月下旬から10月初旬という捜査の開始日から2ヶ月ほども前のことであり、遺体が高度に白骨化しているため正確な死因は不明であるとされた。また、YによるXの暴行態様や暴行へのYの加功の有無に関する供述は変遷を重ねた上、最終的にYが供述した暴行態様はAに頭蓋骨折を生じさせるものとは考えにくいものであった。加えて、Xは暴行については一切黙秘しており、犯行当時Xらの動向を目撃したものもいなかった。これらの事情を総合的に考慮すると、捜査機関は暴行の態様と死亡の原因について特定するよう必死に努めたものの、特定するには至らなかったことから、仕方なく公訴事実に上記のような概括的記載をしたものと評価できる。また、公訴事実には暴行の部位として「頭部等」、Aが負った傷害について「頭蓋底骨折」、死因について「頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害」という限度では記載されており、捜査機関は❷の要件を充足するために努力を尽くした。そうすると、確かに概括的記載部分のみをみると❷の要件を充足しないように思えるが、上述した記載と相まって、Aに対する傷害致死罪という構成要件該当する具体的事実が特定されていると評価しても良いと考えられる(❷充足)。
したがって、③④の要件についても問題はない。
6. 結論としては、①〜④全ての要件につき問題はないため、訴因は特定されており、本件公訴事実による起訴は適法である。
以上

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