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京大ロー 令和6年入試 再現答案 憲法

①問題・出題趣旨

②再現答案(第1問・4枚)

第1 性犯罪に関する前科等の情報をみだりに収集・管理されない自由
1. 本件法律は性犯罪によって有罪判決を受けた者の上記自由を侵害し、憲法13条に反し、違憲無効ではないか。
2. (1)かつては、プライバシー権として、私生活や個人の特定につながる情報を開示・公開されない権利が13条により保障されると考えられていた(京都府学連事件、宴のあと事件)。しかし、情報技術が高度化した現代社会においては、私生活に関する情報でなくとも断片的な情報をつなぎ合わせる事で私生活を分析することが可能となった。そのため、プライバシー権を超えて、自己の情報を開示・公開されない権利が個人の私生活上の自由の一つとして、13条により保障される(住基ネット事件)。
本件で問題になっているのは、もっぱら「収集・管理」過程であり、第三者への「開示・公開」は予定されていない。のみならず、データベースの安全性については、本件法律に安全確保のために必要な規定が設けられているため、「開示・公開」される具体的危険すら観念できない。したがって、本件自由に対する憲法上の制約は認められないのが原則である。
(2)しかし、最高裁によれば、秘匿性・センシティブ性の高い、いわゆるプライバシー固有情報であれば、「収集」過程における制約を認めている(指紋押捺事件、京都府学連事件)。本件で収集管理されている性犯罪等の前科情報は人の名誉・信用に直接関わる事項であり、氏名・住所等とは異なり、高度に秘匿性センシティブ性の高い情報であるから、収集管理されること自体高度に個人のプライバシー権侵害を伴う。したがって、本件自由に対する制約は認められる。
3. (1)もっとも、本件制約は正当化されるか。「公共の福祉」(12.13条)による制約として是認しうるものであるかが判断されなければならない。
先述の通り、本件の情報は性犯罪者の前科等に関する情報であり、人の名誉信用に直接関わる事項であり、秘匿性センシティブ性が極めて高いプライバシー固有情報である。また、刑の言渡しの効力は、原則として10年で消滅するにもかかわらず、本件情報は20年間もの長期の間、本人の意思に反して管理され続けるのである。
しかし、本件はあくまで情報の収集管理過程が問題になっているにすぎず、開示公開過程に比べ、私生活への影響力は小さいものと評価できる。また、上述のように、データベースの安全性については、本件法律に安全確保のために必要な規定が設けられており、その情報が外部に拡散されることがないという意味において安全性は確保されている。前科等に関する情報も全ての犯罪が対象になっているわけではなく、あくまで性犯罪に限定されている。
(2)上記のような事情を総合的に考慮すると、「公共の福祉」に反するか否かの合憲性判定基準は、厳格審査基準ではなく、実質的関連性の基準が妥当である。具体的には、規制目的が重要で、規制目的と規制手段との間に実質的関連性が認められない限り、本件法律は違憲無効である。
4. 本件における規制目的は学校や保育所、認定子ども園、ベビーシッターや学習塾その他習い事といった子どもに関わる業種における性犯罪が社会問題化したことから、子どもに関わる業種において性犯罪を減らすことにある。そうすると、規制目的は、性犯罪から子どもやそこに働く者の生命身体の安全や性的自由を保護することにあるから、規制目的は重要である。
また、本件法律によれば、過去に性犯罪によって有罪判決を受けた者は採用できないとされ、過去に有罪判決を受けた者であるか否かの判断は、子どもに接する業務に就くことを希望する者が自らこども家庭庁に照会をして性犯罪歴のないことを証明する書類を取得し、求職先に提出することによりなされる。これにより、20年前までに性犯罪を犯した者は子どもに関わる業種に就くことはできなくなる。法務省の調査によれば、性犯罪で有罪判決を受けた者のうち、5年以内に性犯罪を再び犯した者の割合は13.9%であり、一定程度の再犯可能性が認められている立法事実からすると、20年前までに性犯罪を犯した者を上記業種に就けなくすることで、子どもに関わる業種における性犯罪を減らすという規制目的を一定程度達成できる。したがって、規制手段適合性はみとめられる。
また、データベースの安全性については、本件法律に安全確保のために必要な規定が設けられており、管理された者の意に反して第三者に開示公開される恐れは無い。しかし、前科情報は前述の通り人の名誉信用に直接関わる情報であり、極めて要保護性の高い情報である。刑の言渡しの効力は、原則として10年で消滅し(刑法34条の2第1項)前科による資格制限がなくなるにもかかわらず、20年間もデータベースで「前科」情報として保管されることは、前科情報の要保護性と比較考慮すると過剰である。また、再犯可能性が13.9%であったとする法務省の調査は、有罪判決から「5年以内に」限るのであり、5年経過後に再犯可能性がより高まるといった立法事実はないという点から見ても、20年間も登録することはやはり不相当であるといえる。したがって、手段相当性を欠く。
5. 以上より、規制目的と規制手段との間に実質的関連性が認められないため、本件法律は憲法13条に反し違憲無効である。

第2 過去に性犯罪を犯した者の子供に関わる業種で就業する自由
1. 本件法律は、過去に性犯罪を犯した者の上記自由を侵害し、憲法22条に反し、違憲無効ではないか。
2. 子どもに関する業種は「職業」(22条1項)にあたり、当該業種で就業する自由は、職業の開始に関する自由であり、狭義の職業選択の自由の一つとして22条1項により保障される。本件法律により当該業種に就くことができなくなっており、上記自由を制約する。
3. では、本件制約は正当化されるか。
(1)職業はその性質上、社会的相互関連性が大きいものであるから、職業の自由は精神的自由に比較して公権力による規制の要請が強く、立法府に高度な立法裁量が認められる(薬事法違憲判決)。
(2)また、薬事法違憲判決が厳格な合理性の基準を採用した理由は、①狭義の職業選択の自由そのものに対する制約であること、②許可制のように本人の意思や努力では脱却ができない客観的要件であり、③消極目的規制という裁判所の判断に馴染み、真の目的を隠蔽するために使われやすい規制であり、立法裁量を尊重するべきではないことにあると解される。
本件は、上述の通り、過去に性犯罪を犯した者の狭義の職業選択の自由を制約しており(①充足)、立法目的が性犯罪者からそこで働く者や子供の生命身体の自由を保護することにあることから、消極目的規制である(③充足)。
しかし、そもそも性犯罪を犯さなければ上記職業に就業することは可能である。また、刑の判決の効力は原則として10年で消滅し、データベースで20年間のみ登録されることから考えると、20年後には上記職種に就くことができる。したがって、許可制のように高度に規制態様が強いものとは到底いえず、脱却可能な客観的要件であるといえる(②不足)。したがって、薬事法違憲判決の射程外である。
よって、本件法律の規制が正当化されるか否かの合憲性判定基準は明白性の原則が妥当する。具体的には、規制目的が正当であり、規制手段が著しく不合理であることが明白である場合に限り違憲である(司法書士法事件射程内)。
4. 過去に性犯罪を犯した者に子どもに関わる職種に就くことを認めないという手段により、そこで働く子どもやその職種に関わるものに対する性犯罪が減らすことができる目的を達成することができることの間には、観念的抽象的な関連性は認められる。また、上述のように規制態様がそれほど強くないことも考えると、規制手段が不相当であるともいえない。したがって、規制手段が目的達成との関連で著しく不合理であるとはいえず、違憲とはいえない。
以上

③再現答案(第2問・2.5枚)

第1 事件1について
1. 「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)とは、①具体的な権利義務又は法律関係の存否についての争いで、②法律の適用によって終局的に解決できるものをいう。
本件で争われている事項は、甲から国に対する本件解散時からの議員歳費の支払を求める訴えであるから、権利義務又は法律関係の存否についての争いであるといえる(①充足)。また、甲に議員歳費支払請求権があったか否かは法律の適用により終局的に解決可能である(②充足)。
したがって、「法律上の争訟」にあたる。
2. (1)しかし、一般に、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為の場合、「法律上の争訟」にあたるにもかかわらず、司法権の内在的制約として、司法審査の対象にはならない。なぜならば、裁判官は国民に政治的責任を負わないため、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、国民の代表機関たる国会によって最終的判断を行うことが合理的かつ妥当であると考えられるからである。したがって、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為の場合には、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、司法権の内在的制約として司法審査の対象にはならない(砂川事件)。
(2)訴えAが認められるか否かは、内閣が憲法7条により衆議院を解散する権利を有しているか否かの問題に帰着する。内閣の解散権の根拠については、憲法で具体的に明文化されておらず、69条説、制度説、7条3号説など憲法学上様々な見解があり、学説が分かれている。政府見解は7条3号説をとっているが、批判も強いため、どの見解を支持すべきか否かについては非民主的な機関である裁判所が判断すべきではなく、国民が判断すべき事柄である。すなわち、内閣の解散権の根拠については、どの見解を支持すべきか否かにかかわらず、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為であるといえ、内閣が憲法7条により衆議院を解散したことは、一見極めて明白に違憲無効であるともいえない。類似の事案の最高裁も同様の結論をとる。
3. したがって、事件1について、裁判所は司法審査を行うことはできない。
第2 事件2について
1. 「法律上の争訟」にあたるか。前記規範を下に検討する。
本件で争われている事項は、国会議員としての権利を行使することができなかったことを理由とする損害賠償請求であり、これは具体的な権利義務又は法律関係についての争いである(①充足)。また、損害賠償請求権の有無は法律の適用により終局的に解決可能である(②充足)。
したがって、「法律上の争訟」にあたる。
2. もっとも、司法権の内在的制約として司法審査の対象にならないのか。上記規範を下に検討する。
本件招集要求は令和Y年6月22日に、参議院の総議員の4分の1以上である85名の参議院議員が憲法53条によりなされている。したがって、「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求」(53条)があるといえる。そうすると、同年9月1日になっても、内閣が臨時会を招集する決定を行っていないのは憲法53条の明文に反する。事件1と異なり、本件招集の要件を満たし、その要求により内閣が招集決定を行わなければならないのは憲法が明確に要求しているところである。また、条文上も「決定しなければならない」と定め、内閣に招集するか否かの効果裁量を認めておらず、招集要求があれば直ちに招集しなければならないとするのが法の趣旨である。したがって、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為とはいえず、内閣が53条の規定に従い、招集決定をしなかったことは一見極めて明白に違憲無効であるといえる。
3. なお、内閣は同年10月20日に臨時会を招集していることから、訴えの利益は否定され、裁判所は違憲審査を行うことができないように思える。しかし、内閣は参議院の四分の一以上の招集要求がされれば即時に招集する必要があるところ、その間乙が国会議員として権利行使することができなかったことは、回復すべき法律上の利益にあたる。したがって、訴えの利益は否定されず、裁判所は乙の求める内容の違憲審査を行うことはできる。
以上

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