九回裏二死満塁ホームラン

いつものようにカフェで勉強していると、知らない番号から電話がかかってきた。
03からはじまる番号からかかってくる時は、大体家賃を滞納して管理会社から催促が来るときだ。幸い今月分は既に支払っていたので、志望先からの電話であることはなんとなく察しがついた。加えて、就職活動において電話連絡というのは、パチンコで言うところのシンフォギアの「絶唱発展煽り」並に熱い演出だ。採用してもらえるという期待を膨らませながら電話を取ると、案の定その期待は間違ってなかったことがわかった。

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最終面接から二週間後の出来事だった。ネットでは「最終面接の結果は普通1週間以内。それ以上経つと不合格の可能性が高い」という情報が多かったので、正直一週間を過ぎてからはなかなかにしんどかった。毎日眠れず朝4時くらいに寝ていたし、不合格の連絡が来る夢も2,3回くらい見た。多分面接の手ごたえがなかったことも大きかったのだろう。

さらに一次試験の結果だけで言えば、おそらく自分は下位合格者だ。試験は教養と英語で構成されており、英語は正答が公開されないため教養だけ採点すると例年の平均点を1割以上下回っていた。受験後は確実に落ちたと思っていたので、受験日から2週間後の朝に合格メールが来た時は重いまぶたが一瞬で上がったのをよく覚えている。そのため、一次に合格しただけでも自分にとっては大健闘だった。この時は最難関の筆記試験を突破したという自信から採用される強い自信があった。

しかし、面接は筆記以上に苦労することになる。私の受けた試験区分では、最終合格者数66名に対し採用予定者数は全ての機関を合わせて約45名ほどである。つまり、残りの21名は試験には合格したが採用はされない、いわゆる「採用漏れ」になる。これは辞退者数を見越して多めに合格させていることが背景にあるらしいが、ネットに載っている数少ない体験談では採用漏れになっているケースが圧倒的に多かった。ちなみに書類には第三希望まで書く欄があり、おそらく第一志望に人気のない機関を書けば採用される確立は高くなるが、人気のある機関を第一志望にすると不合格になる可能性が出てくる、という仕組みだ(これを知った時、自分の脳内にライアーゲームのBGMが流れた)

もし第一志望が不合格になていた場合、欠員が出るまでひたすら待たされることになる。恐ろしいことにデッドラインは定められていないため(一応1年とされているが、あってないようなものだ)不合格者は一抹の希望を抱えながら日々生活することになる。他の公務員試験において「採用漏れ」はよほど志望先を絞らないと起こらないものと言われているが、私が受けた試験区分はその省でのみ採用される試験のため(専門職と呼ばれる)、門戸も狭く採用に漏れてしまう可能性が大いにあるのだ。私は最終面接後、この「採用漏れ」の恐怖に怯えながら結果を待っていた。メールの通知があるたびに心臓がキュッとする体験は、正直もう二度と味わいたくないものだ。

それでもなんやかんやで受かったのは「運」と「周りの支え」のおかげに尽きる。周知の通り、自分は二浪しても受験に失敗しているように勉強の才能がまるでない。それでも愚直に4年間頑張ってこれたのは、”たまたま”出会った恩師や、究極の放任主義を貫いてくれた両親と、何かにつけて会っては話を聞いてくれる小中高時代の友達のおかげだと綺麗ごと抜きでそう思う。感謝してもしきれないので、せめて初任給はパーッと使いたい。

最後に、私の大学はいわゆる「Fラン」かもしれないが、この大学に入っていなければ、国の安全保障に貢献したいなど決して考えもしなかっただろう。その意味で、私は一概に「偏差値の高い大学=良い大学」ではないと思う。もちろん学歴で区別すること自体は一定の意義があると思うし否定するつもりはない。しかし、学歴というレンズを通してみる世界はしばしば狭くなりがちだ。大学生活を通してわかったのは、どこの大学に在籍していても、結局「やる奴はやっている」のである。

話が逸れたが、改めてここに周りへの感謝の意を表しつつ。実家に凱旋しようと思う。


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