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「愛は怖いんだよ」
小さな私が、心臓の暗い場所にうずくまって、
ずっとそうつぶやいている。

十七歳の私はRが大好きだった。
大切に、大切にしていた。
全てをかけて、Rを愛していた。
世間はそれを否定し、頭が心を罵り、
そして愛はこわれた。

二十歳の私はMが大好きだった。
大切に、大切にしていた。
全てをかけて、Mを愛していた。
悪い人間がそれを利用し、感情を搾取し、
そして愛はこわれた。

二十三歳の私はSを好きになった。
大切に、大切にしようとした。
全てをかけて、Sを愛そうとした。

ところがSは言った。
「長く好きでいるためには、
好きになりすぎないことが大事」
私は戸惑った。
私は全てをかけて愛する方法しか知らない。
それでも、Sの言葉を信じてみたいと思った。

それから私は、細くて長い道を歩きはじめた。
沢山のものを、少しずつ好きになる努力。
今日も私は、その道を歩いている。

心臓の暗い場所でうずくまっている小さな私に、
そっと語りかける。
「愛が怖くなくなる日が、いつか来るといいね」

 ✳︎

私が少しの好きを抱えていた人から、
少しの大切を受け取った。
その小さな小さな愛は、こわれていなかった。
小さいからこそ、素敵なものに思えた。

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