見出し画像

「ジタバタしつつもやがて立ち上がる覚悟」でいいじゃないか〜外資レイオフと労働組合と12年前の夜と

去年の秋頃より、日本法人を対象に含む外資企業のレイオフ(≒リストラ、人員削減。日本では厳密には退職勧告)が相次いでいます。

ネットでの感想を見ていると、対象者への風当たりが強い声も多いようです。

特に、会社への未練を感じさせる人や仲間内で慰め合ってる人に対して、世間は手厳しい。Twitterレイオフの際は、ハッシュタグ「#OneTeam 」でツイートした人たちのアカウントがさらされ、今はGoogleの労働組合が槍玉にあがっています。

複数の友人知人が外資レイオフの影響を受けている身としては、なんとも心が痛くなります。


今後の外資の採用戦略に影響はあるのか?


例えばよく目にしたのが、「日本の労働市場への悪影響」を懸念するコメント。

特にGoogle労働組合結成のニュースに関連して、「これで日本は解雇しづらいと思われたら、今後外資が日本への進出を渋ったり、給与水準を下げるかも知れないじゃないか」と考えた人も多かったようです。


でもそれって、的外れだと私は思うんです。


だって現行の労働法や判例がある以上、会社側も「解雇しづらいリスク」なんて百も承知で日本進出してるはずじゃないですか。

ここでもしGoogleが、

「うわー!まさか労働組合作って粘られるとは想定外!こんなに解雇が面倒なら、今後の採用考え直さないと。。。」

なんて言ってたら。

「いやいや、それ最初に調べよう?日本法人作る前に「日本 労働法」でググろ?

って思いませんか?

契約の国から来た会社がですよ?EUだの米司法省だの相手に、がしがし裁判してる会社がですよ?

「退職勧告された人がみんな、法律上の権利なぞ主張せず、空気読んで素直に辞める」なんて、ハナから期待してるわけがない。

だからこそ、すんなり退職パッケージを受け入れた人に対して、破格の「早期サイン特典」を用意してるわけで。

これによると、3月16日までに「条件受け入れて辞めます」とサインした人には、給料9ヶ月分の退職金を上乗せするそうです。

ちなみに翌17日には、Googleと組合の間で団体交渉が行われています。

つまり言い換えると、「団体交渉開始前に目標人数にサインしてもらうにはこのくらいのニンジンが必要」と会社が判断した額が、「給料9ヶ月分」だったわけです。

その判断が合っていたかどうかは知りませんが、「組合が作られたこと」「交渉する人がいたこと」自体は想定内の出来事に過ぎなかったのでは。


解雇のしづらさや流動性の低さが日本にとってマイナスだと思うなら、組合やその参加者を責めるのではなく、「労働法改正」を訴えるのが筋だと思います。


「自分のキャリアに責任をもつ」とは、「自分にとっての最適解を自分で選ぶこと」


それから。「外資で働いてるなら解雇のリスクくらい承知の上でしょ?」という声も多く聞かれました。

が、「身を守ってくれそうな法律や制度について調べておく」のだって、立派な備えの一環のはず。

「解雇のリスクと引き換えに高い給料をもらってたんでしょ?メリットだけ享受して、デメリットを受け入れないのはどうなの?」という指摘も目にしましたが。

受け入れるべきは「解雇のリスク」ではなく、「退職 or 大企業相手の交渉という2択を突きつけられるリスク」ですよね。


「自分のキャリアに責任をもつ」、あるいは「外資で働くリスクを受け入れる」とは、「退職勧告されたらつべこべ言わず辞める」ことではなく。

「さっさと条件を受け入れて転職する場合」と「労働法や過去の判例を調べて交渉する場合」のメリット・デメリットを天秤にかけ、自分にとっての最適解を自分で選ぶこと、そして自分とは違う答えを出した人の選択も尊重することだと思うんです。


交渉のテーブルについている人たちは、「早期サインボーナスを手放した結果、退職金が減っただけに終わるリスク」や「会社に残れても面白い仕事ができないリスク」、「強い企業相手の交渉に疲弊するリスク」等々をかぶってその場にいるわけで。決して甘い道ではないし、おそらく相当な信念があってのことなんでしょう。

自己責任で「交渉」を選んだ人たちに対し、外野が安易にトレードオフや覚悟を説くのはどうなのよ?と思います。


「ジタバタしつつもやがて立ち上がる覚悟」でいいじゃないか


さらには。「外資を選んだくせにレイオフの覚悟もできてなかったの?」っていうのは多分、「日本に住んでるくせに地震の覚悟もできてなかったの?」って言うのに近くて。


非常食を1週間分用意してても。幼少期から避難訓練をしてても。震度3くらいなら顔色ひとつ変えずにやり過ごせても。

家族と電話がつながらないまま、電気もガスも止まった暗い部屋で一人きり割れた花瓶を片付けてた12年前の夜は心細かった。

そういう話なんじゃないかなと。


覚悟とか備えとか、必要だとは思うんですよ。

転職市場での自分の価値を意識して、経験を積んでおくとか。自分のキャリアに責任を持つとか。

だけどその「覚悟」は、「何があっても動じず、凹みもせず、あっさりさっぱり次に行く覚悟」じゃなくていい。

落ち込んだり傷ついたりジタバタしたりしながらも、なんだかんだ立ち上がって次に行く覚悟」でいい。

影響を受けた方々にはどうか、必要なだけ時間をかけ、必要なだけガス抜きし、体と心を休めてほしいと思います。

自分が選んだことだろうが、相対的に恵まれていようが、弱っている時には安心して弱音をはける、そんな世の中になりますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?