彼女は背中から葉を生やしていた

まだ陽も高い時間帯に、駅のホームで彼女を見かけた。彼女は背中から葉を生やしていた。

『彼女』と呼称するが、決してガールフレンドという意味ではない。女性への代名詞を意味する『彼女』だ。わざわざ『彼女』と呼ぶのは、単純に私が彼女の名前を知らないから。要は赤の他人だからである。

そんな彼女に、人でごった返す駅のホームの中、目を惹かれたのは、先程も言ったように彼女が背中から葉を生やしていたからだ。

「人の背中から葉が生えるわけ無いだろ。ゴーレムじゃあるまいし」

それは確かにそうだ。あくまでこれは比喩表現です。

正確に言うと、『彼女の背中に背負ったリュックサックの中から、何かしらの植物の葉っぱが飛び出していた』だ。

おそらく、野菜かなんかをリュックサックに入れていたのだろう。スーパーの袋から長ネギが飛び出しているのと同じメカニズムで。


背中から葉が生えている。なんとも素敵ではないだろうか。まるで体の一部のように思えた。彼女は太陽の当たる場所だと元気になっていたりするのだろうか。

なんだか、無性に引っこ抜きたい衝動に駆られる。もし葉を掴んでリュックサックから引っこ抜いたら、彼女は倒れ、魂の抜けた人形のようになってしまわないだろうか。
もしそうだとしたら、その場合は引き抜いた側が本質ということか。なら、植えたらまたリュックサックと体が作られるのだろう。


もしかして、そういうデザインのリュックサックなのか? そう思って一応調べたが見当たらなかった。だとすれば、特許の申請ができそうだ。

背中から葉を生やしていた彼女。願わくば、頭から双葉を生やした兄弟がいてほしい。

そのほうが素敵だ。

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