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「生活保護受給者の国保加入の検討」に現役世代が反対するべき理由

令和5年11月1日開催の財政制度分科会で使われた資料が公開され、その中で記述された「生活保護受給者の国保加入」という提言が話題となっている。

このニュースを見て、

「生活保護受給者にも医療費を負担させるらしい!政府ナイス!」

などと喜んでいるネット民をちらほら見かけるが、残念ながら政府や財務省の思うつぼとしか言いようがない。生活保護受給者の国保加入など、現役世代の労働者であれば怒り心頭で反対しなければならない話なのだから。

この記事ではその理由を解説していく。

※誤解の無いように強調しておくと、「生活保護受給者の国保加入」という今回の話はあくまで「検討を加速すべき」という提言であり、現時点ではまだ決定事項ではない。とはいえ、世論がこれに賛同してしまえばそれこそ一気に実現に向けた動きが起きかねない話であるのも事実である。

生活保護受給者に医療費を負担させることは可能なのか?

大前提として理解する必要があるのが、

生活保護費とは「健康で文化的な最低限度の生活」に必要な金額として計算されており、「病気やケガなどの不測の事態に対応できるゆとりは無いとされる金額」

であるという事実だ。

もちろん、現在の生活保護制度において節約上手な情報強者がゆとりのある生活を送っているのは事実だ。だが、それは受給者全体で見ればかなりのレアケースであるため、そのような受給者の存在は「健康な人間が1カ月生きるための必要最低限度の金額だけを支給している」という生活保護制度の建前を崩すような事実ではない。

以上の通り、「生活保護受給者に医療費を負担させる」などという話はそもそもの生活保護費の計算根拠となる論理に矛盾するため、論理破綻としか言いようがないのである。

ところで、生活保護受給者がなぜ無料で医療を受けられるかといえば、日本国憲法第25条で生存権を保証しているからだ。仮に政府が本気で生活保護受給者に医療費を負担させたいのであれば憲法改正の手続きが可能だが、生存権を否定するような憲法改正に国民の過半数が賛成するような事態はまずあり得ないだろう。

ただ、毎月の保護費から1000円程度を上限にして医療費負担をさせるという可能性は十分にある。もちろんこれは「健康な人間が1カ月生きるための必要最低限度の金額」という建前に厳密には反するが、これくらいの額なら違憲立法審査にも耐えられる可能性が高い。その意味において、生活保護受給者に医療費を(ほんの少額だが)負担させるというのは、あり得ない話ではないのだ

しかし、そもそも「生活保護受給者に医療費を負担させるべし」という話は、一部の受給者の過剰診療(あるいはそれに伴う薬の横流しビジネス)を抑制するのが目的だったはずだ。生活保護費から払えるようなごく少額を負担させたところで、そのような行為を抑制するという目的は達成できないだろう。

なぜ国は生活保護受給者を国保に加入させたいのか?

ここまでの話をまとめると、

・生活保護費は「健康な人間が1か月生きるのに必要な最低限度の金額」という建前である

・その金額から医療費を負担させるのは生活保護費の計算論理に矛盾しており、論理破綻である

・ただ、月に1000円程度の生活に大きな影響の無い額であれば導入される可能性はある

・しかし、その程度の負担をさせても「一部受給者の過剰受診や薬の横流しの抑制」という目的は果たせない

となる。

以上のような論点は政府や官僚も当然理解しているはずだが、それなのになぜ「受給者の国保加入」などと言い出しているのか?

結論から言ってしまえば、

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