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シンプルなコード進行のアニソン良曲3選

突然だが、あなたはどんな響きの音が好きだろうか?

かわいい響き、爽やかな響き、せつない響き、不思議な響き…音にはいろいろな響きや表情があると思う。

私は複雑な音が作用し合って織りなす美しい響きが好きだ。そういうわけで、どちらかといえば複雑でテクニカルなコードが使われるような楽曲が好みの傾向がある。

しかし、たんにハーモニーが複雑であれば美しくなる訳ではない。シンプルな構成音と進行であっても「美しさ」を感じるような完成された曲だってたくさんあるし、曲の良さはコードの複雑さで決まるなんことはありえない。

そこで、今回はシンプルな進行で作られているものの「良い曲だな〜」と思わされた3曲を紹介したいと思う。コード進行が好きなオタクによるシンプルな進行の音楽語りを楽しんでいただければ幸いだ。


1. 桜舞うこの約束の地で / 軽音楽部の生徒(茅原実里)

作詞:金月龍之介
作曲・編曲:横山マサル

視聴可能なサイトはmoraしか見つけられなかった。(以下リンク)

TVアニメ『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』の挿入歌である。放映は2007年。この楽曲は劇中で主人公たちが通う高校の学園祭で軽音楽部が演奏したシーンで使われた楽曲である。

この曲でとにかく言いたいことはイントロである。D、A、Gのスリーコードしか使われていないのだ。そして直後のギターソロに次いで言及したい。このギターソロは1オクターブの狭い音域の中でさらに「ソシドレミソ」だけの音で構成されている。演奏するとしても左手のポジション移動が不要で、ギターを始めて1日目の初心者でも弾けるほどの簡単なソロなのだ。

極限まで削ぎ落とされたシンプルさを持つイントロであるが、高BPMでドラムのカウントでギターとともに始まる歌い出し、直後のギターソロといい、誰もがノッてしまうような力強さ、学園祭でのバンドを感じさせるような真っ直ぐさ、儚い青春を感じる楽曲である。このあたりに私は美しさを感じる。

詳細は省くが、『まなびストレート!』という作品の主題を知っていると、この楽曲の持っているシンプルな力強さが更に心に突き刺さることになるのだ。そういった意味では作品と切り離して考えられない楽曲かもしれない。(筆者はライブシーンを見直して泣きながらこれを書いている。)

ちなみにこの楽曲を選ぶか『けいおん!』の「ふわふわ時間」を選ぶか迷ったが、後者は有名すぎるのでこちらを紹介した(放映時期もまなびストレートの方が前である)。後者も同じくスリーコードのイントロリフであり、おそらく意図的にシンプルにつくられた楽曲であることに注目してほしい。


2. ネバギバ☆ / かな from AIKATSU☆STARS!

作詞:美音子
作曲:カイザー恵理菜
編曲:山﨑佳祐(onetrap)

TVアニメ/データカードダス『アイカツスターズ!』の楽曲である。最初にこの曲を聴いて、あまりのシンプルさと力強さに驚いたのを覚えている。サブスクで聴けるのでぜひ聴いてみてほしい。

頭サビ。 C5→G5→A5→F5→C5→G5→F5→C5。ぜんぶパワーコード。ほぼスリーコードだけ。

イントロ間奏。C5→Bb5の繰り返し。ぜんぶパワーコード。

Aメロ。C5→F5→G5→C5 x 2。ぜんぶパワーコード。スリーコード。

Bメロ。1つめがE5 or Emで初めてパワーコード以外が登場する

Cメロ。基本がC5→G5→F5→G5、パワーコードのスリーコードの繰り返し。

すさまじいまでのシンプルさ。しかしこの曲の良さは当然そのシンプルなところに起因するものが大きい。出だしのジャッキジャキのギターやドッスドスのドラムを聴けば、どんなリスナーでも「おっ?」と注意を惹かれてしまうだろう。コードはシンプルであってもサウンドは注意深く&隙がなく作り込まれている

頭サビ以降も力強くシンプルなリフの上に、タイトルの「ネバギバ!」が意味するようなスポ根と友情モノ的な世界観の歌詞の歌が繰り広げられてゆく。シンプルさを極めコード進行も繰り返しが多めなのだが、それがスポ根的なサウンドに寄与していると思う

ピークに達するのが2番終わりの後の間奏である。ここは「アイカツ!」という掛け声をC5→Bb5の循環コードの上で繰り返す。いやぁ、すごい。どう考えてもライブでやったら1億%盛り上がる。力こそパワー!みたいな感じだ。う音楽全部これでいいんじゃないか?」なんて思わされてしまうくらいの力を感じてしまう。

というわけで極限までシンプルなコードの響きでありながら、もはや職人芸すら感じさせる曲作りを感じる、教科書的な楽曲であると思う。さすがはonetrap、と嘆息してしまうような楽曲だ。


3. Let Me Be With You / ROUND TABLE featuring Nino

作詞・作曲:北川勝利
編曲:ROUND TABLE・宮川弾

TVアニメ『ちょびっツ』のオープニングテーマであった曲(筆者はアニメ未履修であることをお詫びします)。リリースは2002年、この記事を書いている2020年現在から18年前の楽曲であるが、不朽の名曲として今でもオシャレな渋谷系アニソンとしての金字塔的楽曲である。

2020年5月9~10日に開催されたストリーミング音楽フェス「SECRET SKY」にて主催のPorter Robinson氏がこの楽曲を流したことでも話題になった。この楽曲が流れた瞬間のkz氏の反応を引用させていただく。この反応からあらゆるシーンでの人気の高さが伺えるだろう。

https://block.fm/news/secretsky

さて、本楽曲が渋谷系サウンドであることはここでは特に掘り下げない。今回はこの曲のコード進行のシンプルさと、それをもってして名曲であることを書きたい。

楽曲構成。イントロがいきなりサビになっており、「うっうー うっうー yeah」というスキャット的なセリフが癖になる。(この部分歌詞には載っていないのでスキャットと捉えて間違っていないと思う)

サビフレーズの進行は「4→3m→2m→1M7」とダイアトニックコードをなぞるシンプルで自然な進行だ。この曲の最後まで何度となく繰り返されることになる。

Aメロ。「1M7→4」の繰り返し。
Bメロ。「3m7→2m7」を繰り返してサビ前で「G/A」で引き締める。
…これでほとんど終わり。あとは基本的にサビフレーズをひたすらひたすら繰り返していくので、なんとダイアトニックコードの1・2・3・4が弾ければこの曲はほとんど演奏できてしまう。ピアノなら白鍵だけで弾けてしまうのだ(in Dなのでトランスポーズは必要だが)。

というわけで、この曲の基本になっている進行はありえないくらいまでにシンプルだ。しかも4321の進行が幾度となく繰り返されるので、途中で飽きてしまうのではないか?と文字面で追うと感じてしまうが、実際のところは全く飽きのこない楽曲である。その理由は繰り返す進行の中でも楽器隊が常に異なるフレージングをしており、楽曲を鮮やかに彩っているからであると思う。その功労者の楽器隊を紹介していきたい。

ドラム。16ビートのゴーストノートがあちこちで活かされているフレーズで、フレーズを16分のキックで締めるのが繰り返すフレーズにスパイスを加えている。セクションの変わり目にはフィルも入るが、ルーティンもフィルも一切タムを使っていない(ように聴こえる)。シンプルの中での洗練されつくしたビートだ。

タンバリン。常時16分音符でシャカシャカ鳴っている。もうこれだけで踊れる。

ギター。サポートに徹しているが2本のギターが入っている。1本はクリーンサウンドでゆるめのカッティングで16ビート成分を加え、遊びのフレーズもいれつつ中域を埋めている。
もう1本はサビフレーズでワウワウのギターが入っている。これが入ると横ノリが倍増され、自然と腰から動き出してしまうような気持ちよさに寄与している。

エレピ。こちらもサポートに徹しており目立たないが、エレピのサウンドがかわいさや切なさ成分に寄与していると思う。2番のAメロで一瞬だけ顔を出したり、そうした味変的な雰囲気変更にも役目を果たしている。

ベース。シンコペーションを効かせた16分音符をちりばめて常に曲中動き回り、ジャジーでオシャレで気持ちいい横ノリを支えている。サビ前に「うっうー」のスキャットに合わせたようなグリッサンドや、時折激しいうねりを加えたりと、遊び心も満点である。

ストリングスこの曲の花形といっても過言ではないだろう。伸びやかに、時としてなめらかに動きを加えている。シンプルな進行の上にテンションとして響く和声が重なることで、この楽曲を美しくきらびやかに演出している。進行が単純でダイアトニックなので、基本的に何を鳴らしてもテンションとしてキレイな響きになりやすいというのもこの曲の気持ち良さの構造的理由の1つであるはずだ。
曲中で鳴っているストリングスがコードに対して何度の音で鳴っているのか、それを全て研究してもいいくらい美しいストリングスだと思う。

この濃密かつ軽やかな楽器隊の上で「うっうー」というスキャット主体のボーカル。………なんだこれ。これが芸術か。無形文化財登録待ったなし。

また、単純な進行の上で楽器隊が遊んでいく本楽曲は、「(少ない)決まりごとの中で楽器が遊んでいく」という意味ではジャズ的な側面もあると言えよう。オタクでセッションをやるとしたら必ず選びたいスタンダードナンバーだ。

というわけで3曲目はアンセムを取り扱った。単純なコード進行では「4→3→2→1」という説明だけで終わってしまうフレーズが、なぜここまで気持ちいいのか、自分なりに解析を試みた。コード進行”のみ”が取り沙汰されやすい昨今の情勢を鑑みた自分なりの深め方の実践でもあった。


おわりに

コード進行が複雑な曲が好きな筆者だが、進行がシンプルな曲の魅力を語ったつもりだ。少しでも新たな楽曲の楽しみ方に貢献できればうれしい。

もはや四六時中思っているが、音楽の良さを言葉にすること、それを人に伝えることはものすごく難しい。しかし言語化されて初めて気付く魅力、伝えられる魅力というものもある。今後もそういう音楽の聴き方と伝え方をしていきたい。




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