新版 ヴィイ調査ノート FGO異聞

 iOS・Android用ゲーム『Fate/Grand Order』に登場するヴィイに関する情報を整理し、麻野嘉史『新版 ヴィイ調査ノート』(祭竒洞、2018・第2版)の情報と紐づけた『新版 ヴィイ調査ノート FGO異聞』(2018年8月12日発行)を下記の通り公開します。

※ 紙媒体にあった表紙挿画は省略しております。また、紙媒体時は奥付を除き縦書き表記であったことから、横書き表記で見づらい部分がありますが基本的には修正を行っておりません、悪しからずご了承ください。
※ 文中に明記した一点の訂正を除き平成三〇年七月二十八日時点の情報に基づいた文章となっており、現在明らかになった情報とのズレや不足があることにご留意ください。

なお、『新版 ヴィイ調査ノート』についての概要・通販等はこちらからご確認ください。
https://anachrism.hatenadiary.com/entry/2099/12/31/000000

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0 はじめに

 iOS・Android用ゲーム『Fate/Grand Order』(TYPE-MOON、二〇一五~ 以下FGOと表記)にヴィイが登場した。
 メインストーリー第2部「Cosmos in the Lostbelt」の序章「序/2017年 12月31日」第7節(二〇一七年十二月三十一日配信)および同部第1章「永久凍土帝国アナスタシア 獣国の皇女」(二〇一八年四月四日配信)の登場人物であるアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァが、ヴィイと契約し、その力を使うことができるとの設定である。また同四月四日からプレイヤーが操作可能なキャラクター(サーヴァント)の一人としてもアナスタシアが登録された。
 本冊子はFGOに登場するヴィイについて情報を整理・補足すると共に、『新版 ヴィイ調査ノート』に記載されている関連・類似の情報を参照するための手引きである。そのため、関係性が明白でない要素についてもひとつの情報源として取り上げている。また『新版 ヴィイ調査ノート』(以下『ノート』と表記)に記載のある事項については【『ノート』〇頁上段~△頁下段】のように同書内の記載箇所を記し、詳細は割愛する。

 参考までに、本冊子の記述方針は以下のとおりである。

◎前述のとおり、本冊子の趣旨はヴィイに関する情報の整理・補足等である。アナスタシアやFGO全体に関する情報の整理・補足、また考察は必要最低限の範囲で行う。
◎汎人類史(プレイヤー側のサーヴァントとしての情報)と異聞帯(メインストーリーの内容)に分けて記述しているが、片方の情報の傍証をもう片方から引用する等、ヴィイに関わる両者の情報はある程度共通しているものとして扱う。
◎本文の記載は平成三〇年七月二十八日時点の情報に基づく。以降、情報の判明あるいは追加に応じて改訂する場合がある。
◎ネタバレ等については特に配慮しない。また、ゲーム内の用語に関する説明はなるべく省くと共に、ゲームのデータ的な側面等については一部を除いて言及の対象外とする。
◎FGO本編他、資料からの引用はゴシック体を用い、改行については本文に合わせて適宜変更する。なお出典記載については文脈から明白である場合は省略することがある。参考資料は本文に記載したものも含め、まとめて巻末に記す。

1 汎人類史の情報から

 まずはプレイヤー側サーヴァントであるアナスタシアの「プロフィール」等から、ヴィイについて確認できる事項を挙げる。
 以降、FGOのものを指す場合を除き、ヴィイとは基本的にゴーゴリの怪奇小説「ヴィイ」に登場する創作妖怪を指す。本文中、鉤括弧で括った「ヴィイ」はこの小説を指すこととする。ちなみに「ヴィイ」は一八三五年発表、アナスタシアは一九〇一年誕生である。
 アナスタシアのスキル「透視の魔眼」の効果(の一部)である「自身に無敵貫通状態を付与」および絆Lv.4で開放されるプロフィールにある宝具「疾走・精霊眼球(ヴィイ・ヴィイ・ヴィイ)」の説明「ヴィイの魔眼の全力解放。全てを見透かす眼球は、因果律すらもねじ曲げて弱点を創出する。」という記述は、「ヴィイ」に登場するヴィイの能力【『ノート』3頁下段~5頁上段】を元にしていると考えられる。
 一方、絆Lv.3で開放されるプロフィールでのスキル「シュヴィブジック」の説明「アナスタシアのかつてのニックネーム(意味は小さな悪魔)であり、同時にヴィイの能力の一つ。あらゆる小さな不可能を可能にする。相手が持っているものをこちらの手元に移動させる、小さく大地が割れて相手を蹴躓かせるなど、「イタズラ」レベルの事象を可能とする。(後略)」については、参照元となったヴィイの情報は不明である。
 絆Lv.5で開放されるプロフィールに記載のある「ヴィイ、と呼ばれる精霊ないし妖怪は厳密には存在しない。ロシアの文豪であるゴーゴリの怪奇短編小説「ヴィイ」で登場した創作妖怪である。」【『ノート』10頁上段】、「ただし、ヴィイと似た伝承はスラヴに幾つか存在し、それを原型としたものと推測されている。」【『ノート』10頁上段~44頁下段】はヴィイについての現在の定説である。なお類似の伝承でヴィイという名の存在は現時点で確認できていない【『ノート』10頁上段~16頁下段】。
 同プロフィールに「彼はその魔眼であらゆる秘密を暴き、城砦の弱点を見つけ出し、更には敵対する者を血に染め上げた。」とあるが、これはおそらくヴィイの原型の一つと考えられるソロディヴィイ・ブニオ【『ノート』10頁上段~11頁下段】やブニャク/ボニャク【『ノート』16頁下段~24頁下段】が眼差しで人を殺した、あるいは町や村を滅ぼしたという伝承を下敷きとしている。
 プロフィール等ではロマノフ家とヴィイの関わりについて言及されている(絆Lv.1「ヴィイは彼女と契約したロマノフ帝国の秘蔵精霊。」、絆Lv.5「アナスタシアが契約したヴィイは、ロマノフ帝国が保有していた使い魔である。」)が、ゴーゴリの小説でも、また元となった伝承においても、ロマノフ王朝との特別な関わりは見出せない。
 参考としてFGOの関連書籍でヴィイが言及されている事例を紹介する。同事例はFGO作中のヴィイとロマノフ王朝の関係性を下敷きにしている可能性があることから、ここで取り上げるものである。
 FGOに登場するキャラクターであるエレナ・ブラヴァツキーについて描いた桜井光の小説「英霊伝承 ~エレナ・ブラヴァツキー~」(『Fate/Grand Order カルデアエース』KADOKAWA、二〇一七)に、エレナが幼少期にヴィイと遊んだ、またその母親もヴィイの存在を知っていたと思しき記述があるが、同小説中でエレナの母親はロマノフ家に連なるとされている。異聞帯における記述ではあるが、ヴィイは「ロマノフの血を引き、素養ある者にのみ姿を現す魔眼の怪物」(メインストーリー第2部第1章「第10節 妖眼」)とされていることから、この小説中でエレナは条件を満たしていると考えられる。
 杉本 良男「特集 : マダム・ブラヴァツキーのチベット : 序論」(『国立民族学博物館研究報告』第40巻第2号 国立民族学博物館、二〇一五)で実在のエレナ・ブラヴァツキーについて確認すると、彼女の母方の家系はドルゴルーコフ家という由緒ある家系であるとの記述がある。また同論文によれば幼少期のエレナ・ブラヴァツキーはウクライナ各地を転々とし、一八三六年(エレナの生年は一八三一年)にサンクト・ペテルブルクに、その後アストラハン、オデッサ、サラトフなどに滞在したとのことである。
 ウクライナは「ヴィイ」の舞台かつゴーゴリの出身地であり、またヴィイの元になったと思しき伝承も複数伝わる。一方でサンクト・ペテルブルクはロシア帝国の首都であった。FGO作中においてヴィイが複数個体存在するのか、またアナスタシアが契約したヴィイとエレナが接したヴィイが同一の個体であるかは不明であるが、同一個体であったとすれば、エレナとヴィイの遭遇は彼女のサンクト・ペテルブルク滞在時である可能性が高い。

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