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お笑いとフェミニズム〜『女芸人の壁』トークイベントの感想を中心に〜

先日、『女芸人の壁』という本のトークイベントを視聴しました。

この本は、様々な世代の女性芸人へ、“女性であること”故の経験等を含めて問うたインタビューを集めた本です。

私が視聴したトークイベントで話されていたのは、この本の著者の西澤さん、そしてこの本のインタビューや対談にも参加されているAマッソの加納さん。

本当はこのトークイベントの感想と共に、本自体の感想や、加納さんが以前オススメしていた『おもろい以外いらんねん』という小説の感想とも絡めて書きたいと思っていたんですが、それだとトークイベントの配信期限に間に合わないので、今回はトークイベントの感想のみ書きます。

ちなみに、『おもろい以外いらんねん』はお笑い界の女性蔑視的なノリなどの悪しき風習を批判的に描きながらも、お笑いへの愛も感じられる小説です。お笑い好きの方はぜひ読んでみて下さい。

では、トークイベントの感想にいきます。本を読んでなくても、トークイベントを視聴していなくても伝わるように書いたつもりです。レポ禁とは書かれていませんでしたが、誤解されて伝わりそうな所はなるべく省いて書いています。また、引用した発言は敬称を略させて頂いてます。

太字:引用部分、細字:自分の感想です。

加納さんが本を読んでの感想
加納「(この本は)歴史を読むみたいな文脈、こんなこともあったんやっていう年表でもある」
西澤「Aマッソさんみたいにしたかった人達が本当は沢山いて、やっと出来る環境になった。その環境で10年以上芸人を続けられるようになったということは大きいこと」

本当にこの本は色々な年代の芸人さんについてインタビューをしているから、時代によってもかなり違って面白かった。時代の変化を感じられるというか。

・沢山の芸人にオファーを断られたという話
加納「長い目でしかメリットを感じられない本なので、(インタビューに答えてる)私らになんのメリットがあるの?とは思う」

そうだよな。読者からすると、表に立ってる人がこうやって声を上げてくれることは凄く救いにもなるけど、矢面に立っている人からすると、マイナスも大きいはず。長いスパンで見れば、こういう小さな積み重ねによって彼女達自身の立っている場所も少しずつ生きやすい場所になっていくだろうけど、表で発言することには強い逆風を受けるという代償も伴う訳で。それでもこうやって矢面に立ってくれる人がいるのは希望。本当にありがたい。

加納さんがこの本の対談を受けた理由
加納「インタビュー記事を読んでて、このラインナップに私が必要だと思った」「(インタビューされている芸人の中で)他の女芸人に1番興味あるのは私かもと思ったから」
西澤「加納さんは他の女性芸人に対して語っている点で異質」「これからの話が加納さんだけあった」「未来を語りづらい状況に置かれていた人も殆どだった」

加納さんはラジオでも他の女芸人の面白話を沢山してくれていて、それが好きなのだけど、この本の対談でもそれは意識的にしていることだと述べていて、更に好きになった。男女二元論になってしまうけど、男芸人は男芸人同士で群れがちだし、女芸人は数が少なかったからか女芸人同士の繋がりも今まで少なかった印象がある。だから、女芸人の舞台裏の面白い姿って聞ける機会が結構少ない。そんな中で加納さんが沢山語ってくれるのは本当に意義のあることだなと思う。そして、女芸人達のシーンを意識的に盛り上げようとしてくれている加納さんの心意気は本当に心強い。

近年のお笑い界の変化について
加納「(女芸人が沢山いるのが)当たり前にはなってきた」「ここ2、3年のぶわ〜っと増えてるっていうのは落ち着いてきて、フィットしてきた。傾斜は緩やかになってきた、花は開いてきてるけど」

確かにここ数年で一気に色んな種類の女芸人が増えてきて、やっとそれが当たり前になりつつあるように思う。加納さん、3時のヒロイン福田さん、ラランドのサーヤさんが出演しているお笑い番組「トゲアリトゲナシトゲトゲ(現トゲトゲTV)」や、吉住さんと蛙亭のイワクラさんの「イワクラと吉住の番組」のような番組が出来たのもその流れの最たるものだと思う。加納さんはこの本の最初のインタビュー(2年前)で、「活躍出来る女芸人は増えたけど、‘’この組み合わせが面白い‘’という所まで至れてない」と話してた。これはここ1年くらいで実現されつつあるように思う。これが定着していって欲しい。

THE Wについて
加納「楽屋はすごい楽しくなってきた」「こっちが決めりゃ良い、審査員の男の人とか、男芸人が決めるんじゃなくて、女芸人と、見てる人のもんやから」「ミスりました、は言えるようにしよう。THE Wちゃうかも!?ってなっても良い」

THE W の主催者側が、女芸人同士の繋がりを作って欲しいという意味を込めて、楽屋は大部屋にしていると加納さんが以前話していた記憶がある。それもあって、近年徐々に繋がりが出来ていき、女性芸人同士が弄り合ったりする姿も見る機会が増えてきたように思う。この前のTHE Wの決勝進出者か集まるライブでも、トークパートで女芸人同士の楽しい掛け合いが見れた。他にも、この大会のお陰で華やかな舞台に出る女芸人のネタのジャンルも幅広くなったように思う。
このように、意義は沢山ある大会だと思うけど、「女芸人」でくくる大会があるのはやっぱり不思議だし、いつかはなくなって欲しいと思う。今はまだアファーマティブ・アクションとして必要だと私は思うけど、数年後にはもういらないんじゃない?って言えるようになってて欲しい。

加納「(審査の票が)薔薇ですよ?大弄られですよ、女が弄られてるよ、みんな怒った方が良い(笑)」「フェミニズムのことだけめちゃくちゃシリアスに言ってると思わんといて、と思う。怒ってるけど、おもろく言ってるよ」「もうちょっと気軽にツッコんでいけたら」

そうだよね、もっと気軽に言えるようになったら良い。何で薔薇やねん!って。Aマッソファンは結構、THE W運営のジェンダー観に対して意見してた印象だけど、これって芸人のファンには珍しいように思う。その背景には、お笑い界に漂うミソジニーの他に、ジェンダーについて言及するハードルの高さもあるんじゃないだろうか。もちろん学ぶ意思は大切だけど、もっとカジュアルに疑問を発言できるようになれば良いなと思う。

・茨の道を進んできた感覚はある?という質問に対して
加納「コンビやから、ピン芸人の人の方が闘ってる」「(ピン芸人とは)闘ってる種類が全然違う、男女コンビもまた違うやろうし」「(相方に)闘ってんねん、見て〜って言ってる」

“一緒に闘う”ではなく、”闘ってんねん、見て〜”なのが最強にAマッソ。好きです。

西澤さんのAマッソ論
西澤「(Aマッソを見てると)女同士でこういう関係性築けたんだな。女友達を諦めないと、こういうことも出来たんだな。女友達ってこういう可能性もあったんだ、と思う。」

わかる〜と思った。私もまさにそう。Aマッソの関係性に憧れている気持ちはとても大きい。「女の友情はハムより薄い」とか言われる世の中で、幼馴染の唯一無二の女友達とずっと楽しく仕事を続けているAマッソを見ていると、安心するし、希望を感じる。

服装の話
Aマッソの衣装って女性性をなくしたものが多い。表舞台に立つ人でなくとも、職場で同様に女性性を感じさせないよう意識をしている人がいると思うという話に対し、
加納「昔は楽屋でメイク出来なかった。評価の1個に加わるんじゃないかと思って。」

加納「(でもこのことに関しては)私のジャンルじゃないかな、サーヤとかが頑張ってくれてる」「色んな戦い方があるし、戦わなあかん所あるけど、戦いたいと思ってても出来ひんこともある。」

私も、男性と社会から認識されて生きている人が多い研究室に所属しているのもあって、普段から女性性を感じさせないような服装を選んでしまうことは多々ある。何となく身体のラインの出る服は嫌だなと思ったり、スカートは避けてしまったり。本当はそんな事気にせず過ごせれば良いのだけど、私もこの面では闘うことが出来ずにいる。でも全てを1人が背負い込む必要はなくて、お任せ出来る所は誰かにお任せすれば良いか、と思った。皆それぞれ、自分の闘える所から、少しずつ。


引用は以上です。お笑いを好きで数年追っているけど、うっすら漂うミソジニーの空気に違和感を感じながら、でもその違和感を口にしても良いものなのかと躊躇していた所があった。Aマッソはその辺もカジュアルに発言してくれるから、Aマッソのファンダムも同様に、お笑い界のジェンダー観をカジュアルに批判できる人が多いように思う。

ただ、そういうファンダムでも「私はフェミニストではないけど〜」って枕詞をつける人も多く見る。“フェミニスト”って本当は「ジェンダー平等を願う人」であり、きっと多くの人がそうなのに、マイナスなパブリックイメージがついてしまってるのが、悲しい。とは言いつつ、私も数年前まで同じように忌避していた側だったので、それを攻める側にも立てない。“フェミニスト”という言葉を使わずとも、ジェンダー不平等にカジュアルに違和感を訴えかけられる人が増えれば、それで少しずつ良い方向に変わっていくだろうし、それで良いのかもと思ったりもした。

加納さんのように、横と手を繋ぎながら女芸人のシーンを盛り上げていってくれる人が増えたら、きっとお笑い界は速度を増して変わっていくのだろう。茨の道を掻き分け、道を切り開いてきてくれた芸人達に尊敬の意を抱くと共に、これからのお笑い界の変遷も楽しみになるトークイベントだった。

ここで書いた話以外にも、面白いお話が沢山聞けたトークイベントでした。まだイベントのアーカイブは見れるので、是非気になった方は見てみてください。1月14日までです!


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