生活史をやってみる
昨年「ふらっと神保町」の代表の方から「神保町でも東京の生活史のようなプロジェクトがしたい!」というお話を伺い、「ぜひやりましょう!!」と二つ返事で引き受け、その後紆余曲折があり現在「神保町の生活史」プロジェクトに関わらせていただいている。私自身も神保町は思い入れのある街であったし、このようなプロジェクトに関わる機会をいただけたのはありがたいと思っている。
先日プロジェクトを本格始動する前に、まずは生活史について勉強しようということで行った「生活史」を学ぶ会に参加した。『東京の生活史』を自分たちでもやってみようとした際に、重要になる議論をすることができたと思う。
「生活史」を学ぶ会は、有斐閣ストゥディアの『質的社会調査の方法 - 他者の合理性の理解社会学』を用いて行った。参加者は事前に前述した本を読んできて、勉強会の当日は主に「自分たちがこれから神保町で生活史を聞き取るとしたらどうすればよいか」といった視点で議論がなされた。
以下、印象に残った問いについて一部取り上げたい。
・質的調査はあくまで調査なので背景に「社会問題」や「問題解決」が必要となる。『東京の生活史』のように、人の人生を聞き、それを残す上で社会問題や課題解決という側面は必要になるのか。
・「神保町の生活史」といっても、どのくらい神保町に関わっていればいいのか、語り手の選定はどうすればよいか、語り手と聞き手の関係性は?
・「調査は暴力」という前提を理解したうえで、どうやって語り手の語りを担保することができるのだろうか
・「語り」はそれだけで尊いものだが、それでも神保町で生活史の聞き取りを行う上で「これは聞きたい!」といったテーマはないか
・そもそも「生活史」の聞き手はどうやって語り手から語りを引き出せばいいか、…等々
ここでそれらについての(勉強会の中での)結論を記載することは控えるが、各々が悩みながらも議論を通して、ある程度の到達点は示せたように思う。これから一つのプロジェクトとして聞き取りを行う上で、各参加者の共通認識(最低限抑えなければいけないこと)を持っておくことは必要に思えたし、今までに考えたこともなかった問いと出会い、結論に至ることができたので、個人的にも有意義な会となった。
神保町という街は、昔ながらの古書店や喫茶店を残しながらも、都心に位置することもあって、近年その姿を急速に変えようとしている。誰かが記録として残していかないと、街が消えてしまうといった危機感がある。街を残す方法としては色々あって、写真や動画、今は3Dデータで残すといった方法もあるかもしれない。そういった様々な方法のひとつとして、その街に関わっている人の語りを聞き、残していくという方法もある。「神保町の生活史」は移り行く街のようすを残しておく、一つの方法として大切な試みであると思う。
「消えていってしまう前にそのまま残したい」、そのような気持ちを『質的社会調査の方法』では度々「生活史的センス」と称しているが、「生活史的センス」を大事にしながら、このプロジェクトに今後も取り組んでいきたいと思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?