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癌を患うご夫妻

 訪問介護の仕事で、 4ヶ月前に初めてお会いしたご夫妻は、お二人とも癌を患っていて、奥様はステージ3の子宮癌。
旦那様は末期の肺癌でした。
ご夫婦で闘病生活を送っている為、掃除が出来ないので、やって欲しいという依頼でサービスがスタートしました。

 室内は10年以上は、まともな掃除していないようなベトついた真っ黒な床に埃やら、抗がん剤で抜けたのであろう髪の毛があちこちに落ちていました。

 毎週通っては、掃除機をかけてから床を雑巾で磨いていき、やっと綺麗になってきました。

 仲のよいご夫婦で、いつも一緒にテレビを観ていらっしゃいました。
旦那様は添乗員をやられていた為、世界各国を飛び回っていたそうです。
「どこの国が一番良かったですか?」とお聞きすると「全部仕事で周っていたから、良かったとか、ないんだよ」と笑ってらっしゃいました。

 季節も春先から初夏に移ろいでゆき、奥様は「最近、体調が良くなり自転車が漕げるようになったのよ!」と綺麗にメイクをされ、買い物に出かけられるようになっていました。
 夏らしいスカイブルーのソファーのカバーを買ったので、一緒に交換するのを手伝って欲しいと言われ、お喋りしながら模様替えして嬉しそうな笑顔を見せてくれました。
 その奥様が突然入院されたとの報告を受けました。

 旦那様にお会いすると、奥様が「クモ膜下出血になってしまい、もう植物人間になってしまったんだよ」とお聞きし、明らかに落胆され「最期は苦しいのかな?」ともらす旦那様に何て言葉をかけていいのか、分かりませんでした。

その後、すぐに旦那様も緩和ケアに入院が決まり、その入院に必要な置き時計や体温計などを買いに行ったのが最後のサービスとなりました。
「入院先にて穏やかな気持ちでお過ごし出来ますよう、お祈り申し上げます」と深々と敬意を持ってお辞儀し、お別れしました。

  有難う御座いました。

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