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うろろんと冷蔵庫

会社の冷蔵庫、とうとう壊れてしまいました。
このオフィスに引っ越した時から毎日ご活躍だった、小さな冷蔵庫。
とうとう冷えなくなり。
氷も溶けてしまうようになって。
昨日は総務の人が様子を見にきました。
「ご臨終です」とはいわなかったけど、そういうことなのでしょう。
「うろろん…」
そっと扉を開けてみると、確かにひんやりしていません。
庫内灯がぼやんと気怠く光っています。
「うろろん…?」
誰かいますか。
うろろんは冷蔵庫の中に声をかけてみます。
もちろん、返事はありません。
「うろろん…ろろん…」
冷蔵庫が搬入された日のことを、うろろんはまだ覚えています。

昔の小さなオフィスから引っ越して来た日のこと。
うろろんは段ボール箱と一緒にトラックに積まれて、どんどん段ボールを運ぶお兄さんについて、ここに来ました。
まだ何も置かれていないオフィスはとてもとても広く、このまま運動会もできそうでした。
おもわずごろん、とでんぐり返ります。
ころんころんと転がっていると、別の業者さんがやってきました。
大きな箱を荷台に乗せて、どこに置いたら良いのかと聞き回っています。
「ろろん」
業者さんはてきぱきと壁際に箱を運んで、中から冷蔵庫が現れます。
アイボリー色でぴかぴかで、すこし工場のにおい。
冷蔵庫のコンセントが差し込まれて、うううん…と小さく唸るのを、うろろんは一晩中聞いていました。
寄りかかると温かくて、振動が伝わってきて、その夜はとてもよく眠れたのです。
次の日からは新しい棚などもどんどん運び込まれてきて、社員たちも来て、すっかり賑やかになりました。
その日から何日も、冷蔵庫は中のものを冷やし続けました。
ペットボトルのお茶。
ウィダーインゼリー。
冷えピタ。
お弁当。
プリン。
時にはハーゲンダッツ。
屋上で花火が見える日には、沢山のビールが入っていたこともあります。
どんなものも同じように、傷まないように冷やしてくれたのです。

冷えなくなった冷蔵庫の中には、今ではうろろんがたくさん入っています。
さみしくないように、入っていてあげようね。
うろろん、うろろん。
そして次の冷蔵庫がきたら、また仲良くしてもらおうね。
社員のみんなは、早く新しい冷蔵庫が来ないかなあと待ちわびているのです。
うろろん、ろん。

おもに日々の角ハイボール(濃い目)代の足しになります